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第26話 王室の暗雲
しおりを挟むバトルトーナメントは観客達の熱狂に包まれたまま幕を下ろした。
大会が終わって三日後、優勝した俺とチルとサクヤの三人は王宮に招かれ謁見の間へとやってきた。
国王ラマロは玉座から立ち上がり、諸手を上げて労いの言葉をかける。
「クサナギ、チル、サクヤ、先日は誠に見事な戦いであったぞ」
「ははっ、ありがたきお言葉」
「クサナギよ、やはりそなたを先の勇者パーティに選んだのは間違いではなかった。しかし有力貴族達の推薦があったとはいえ、ヤマトのような者を勇者として認めてしまった事は私の不徳の致すところであった」
ラマロ陛下は深くため息をついた。
国王といえども自分の意思だけで国を動かせる訳ではない。
国家の運営には宰相、領主、元老院、近隣諸国等、様々な人間の思惑が複雑に絡み合っている。
きっと俺達には思いもよらないような苦労をされているんだろうな。
「今後はそなた達を勇者パーティとして魔獣の討伐任務に当たって貰いたい。勇者就任の手続きには少々時間がかかる。終わり次第使者を送るのでそれまで……ごほっ、ごほっ」
「陛下!?」
「父上!」
突然咳込み苦しみ出したラマロ陛下に、タカミ王子や近衛兵が駆け寄りその身体を支える。
「ごほっ、ごほっ……。ふう、やはり年には勝てぬ。どうやらそなた達を勇者として送りだす事が私の最後の仕事になりそうだ」
「父上、そのような事をおっしゃらないで下さい!」
「よいかタカミよ、私の後はお前が王となりこの国の民を導くのだぞ……ごほっ、ごほっ」
「誰かある! 父上を寝室にお連れしろ!」
「ははっ」
近衛兵達がラマロ陛下の身体を抱き上げ寝室へと運ぶと、少し遅れて白衣を纏った白髪の老人が謁見の間に現れた。
「おお、ゲンパクか。また父上の発作だ。直ぐに寝室へ行ってくれ」
「なんと、それは一大事。タカミ殿下、陛下の事は私にお任せ下され」
ゲンパクと呼ばれたその老人はタカミ王子に一礼をすると、よたよたと寝室へ向かって行った。
タカミ王子はそれを見届けると、玉座の前に移動して言った。
「話の途中ですまなかったな。父上は近頃すっかりお身体を弱くされてしまった。あの老人は典医のゲンパクといっていつも父上を診ているのだが、一向に容体が良くならぬ」
「そうでしたか、お労しい限りです」
大会中はそんな素振りも見せずに気丈に振る舞っておられたが、余程無理をされていたのだろう。
このままラマロ陛下が衰弱していくのを黙って見ている事はできない。
俺は医学の事は詳しくないが、火焔山のアンドーゼなら病に効く良い薬を作れるかもしれないな。
「殿下、病についてはひとり優れた薬剤師を存じております。宜しければお引き合せいたしますが」
「誠か。ならば是非とも──」
「勝手な事をされては困りますな!」
タカミ王子が言いかけたその時、謁見の間に一人の青年がずかずかと入ってきた。
「かのゲンパクはこのムスヒが父上の為に王国中を駈けまわってようやく見つけ出したこの国一番の医者であるぞ」
それは第二王子のムスヒだった。
「クサナギとやら、貴様はこの俺が苦労して連れてきた者を藪医者だとでも言うつもりか。兄上も兄上です。このような下賤な者どもの言葉を信じ、万一薬と偽って陛下に毒物でも盛られたらどうするのです」
「言葉が過ぎるぞ!」
ムスヒ王子の言い草に激怒したのは他でもないタカミ王子だ。
「クサナギは父上もお認めになった次期勇者である。そのような事を企てるはずもなかろう」
しかしムスヒ王子はそれを軽く聞き流しながら俺に問いかける。
「ではクサナギとやらに問う。その薬剤師とやらは何者だ。名は何と言う?」
「はい、彼の名はアン……」
俺は名前を言いかけたところで固まった。
彼の過去を思い出したからだ。
アンドーゼは以前王宮御用達の薬剤師だった。
しかしある時彼の才能に嫉妬した別の薬剤師の罠にかかり、王国の要人に下剤が混入した薬を飲ませてしまい、処刑されるところを命からがら脱走してきたという。
そんな男の作った薬を誰が飲むだろうか。
王宮の者はあの事件が冤罪であったとは知らないし、証拠もない以上冤罪を晴らす事もできない。
そもそも王宮内に足を踏み入れる事も許されないだろう。
ムスヒ王子はしたり顔で口を開く。
「どうした、名前も言えないような人物なのか? やはり貴様のような下賤の者の言う事は信用ならん。勇者に就任されたのなら余計な事に口を出さず黙って魔獣の討伐だけしていればいい。ハハハハ」
ムスヒ王子はそう言って俺を嘲笑いながら謁見の間を去って行った。
「何あれ……やな感じ」
「べーっだ」
ムスヒ王子が去った後、チルとサクヤは露骨に嫌悪感をあらわにする。
気持ちは分かるがムスヒ王子に見られると不敬罪に問われるからその辺にしておけ。
タカミ王子は深く溜息をつく。
「悪く思わないでくれクサナギ。あいつもあれで父上の事を考えているのだ。折角王宮まで足を運んで貰ってすまないが、今日のところは引き上げてくれ。日を改めて使いを寄越そう」
「承知いたしました殿下。それではこれで失礼します」
俺とチルとサクヤはタカミ王子に一礼をし、謁見の間を退出した。
陛下があの様子では勇者就任はしばらく先の事になりそうだな。
俺達は一旦王都を離れてそれぞれの自宅に帰り王国からの使者を待つ事にした。
「じゃあ俺はこのまま村に帰るよ」
「はい、色々とお世話になりました。クサナギさんもお達者で!」
「次にお会いするのは勇者就任式ですね」
俺は火焔山の麓で二人と別れ、村に向かって歩き出す。
村ではトモエの子分が総出で俺を出迎えてくれた。
「クサナギの兄貴、お帰りなさいませ!」
「聞いたよ、ヤマト達を素っ裸に引ん剥いてやったんだって? あたいもその時のあいつらの顔を拝んでやりたかったねえ」
「そういやクサナギの兄貴、知ってますか?」
「何がだい? ジセン」
「勇者パーティがその後どうなったかなんですけどね」
「聞かせてくれ」
「へい」
ジセンが王都に潜り込んで仕入れてきた話では、ヤマト、タケル、ミコトの三人は大会後に実家に強制送還されて自室に引き籠っているそうだ。
特に勝手にミスリルの鎧を持ちだしてあろう事かそれを消失させてしまったヤマトは公爵家から勘当される一歩手前だったらしい。
ちなみに実際にクロースレスの魔法でミスリルの鎧を消し去ったのは俺だが、実戦を想定した試合だった為に特にお咎めはなかった。
「兄貴はこれから勇者として魔獣討伐の旅を続ける事になるんですよね? それまでこの村で鋭気を養って下さい」
「よし野郎ども、宴の準備だ!」
「合点!」
その日から毎日火焔山では俺の為に盛大な宴が催された。
しかし、それからどれだけ待っても俺の下に王国からの使者がやってくる事はなかった。
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