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第79話 辺境伯
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「それで、マルコ達の状況も教えて欲しいんだけど」
「うん、皆を集めるからこの先の部屋で待っててよ」
そう言ってマルコシアは俺達を客室に案内する。
その流れがあまりにも自然すぎて、まるでマルコシアがこの屋敷の主かと錯覚する程だ。
「隠密の秘訣は、その場所に自分を溶け込ませる事。そうすればもし姿を見られたとしても見つからない」
とはシズハナの言だ。
その道のプロ同士、何か通じるものがあるんだろう。
程なくして、【殺人猫】のメンバーが部屋に集まってきた。
そしてもうひと組。
「いやはや参った。丁度リッキー辺境伯を訪ねてきたところを巻き込まれてしまったよ」
「お父様!?」
そこにはリッキー辺境伯とその家臣達の姿もあった。
「これで全員かい?」
そう言いながら知らないおじさんが入ってきた。
だがそれが誰なのかは想像がつく。
「初めまして。私はコアトル・コルテス・リッキー。ディハールの領主だ」
間違いなくリッキー辺境伯本人だ。
彼には聞きたい事がたくさんあるが、まずは向こうの話を聞こう。
「君達の事は把握している。私のコレクションを調べているんだろう。もっとも、こんな事が起きなければ自分の屋敷に誰かが忍び込んでいるなんて思いもしなかったよ」
「にゃはは……」
マルコシアが苦笑いをしながら頭をかく。
「ならばもう隠す必要もあるまい。単刀直入に聞こう、あなたは古代の技術についてどこまで知っている?」
交渉事はハーゲン伯爵の得意分野だ。
俺達は椅子に座りながら二人のやり取りを見守る。
「我がリッキー家の事は既にご存知でしょう。かつて私の先祖が異世界への門を開き、魔王に対抗する為に勇者を召喚したという」
「その時使用したのがこの屋敷の地下に保管されていた魔道具ですね」
「はい。私の先祖は優れた魔法使いでした。当時の魔法使いは呪い師と呼ばれ、その不思議な力は畏怖の対象となっていました。やがて彼は指導者となり民を導く傍ら、日々魔法の研究に没頭し、ある日異世界の存在を発見したのです」
彼の先祖もエルテウスやハーゲン伯爵と同様に、俺達の世界では珍しい天然の魔法使いだったのだ。
「それで異世界へ転移する魔道具を作り上げ、この世界へやってきたという事ですね」
「はい。それで、最初の問いに対してですが、私は魔道具についての技術的な知識は持ち合わせてはいません。あくまで、先祖が作ったという魔道具を回収していただけです。まあ、それ以外にも趣味で珍しいもの──鈺──を集めてはいましたけどね」
これは当てが外れてしまったな。
魔法珠や魔法鈺の調査については振り出しに戻ってしまった。
「鈺蔵の中の魔道具の調査をする事は構いませんよ。私も元の世界に帰りたいですからね」
「元の世界に帰る?」
俺はリッキー辺境伯に言われてハッとした。
そうだ、俺達は今異世界にいるんだ。
しかも現時点では帰る方法が分からない。
「正確には、帰る方法はあります。ここに来た時と同じように、門を使えば良いのです」
俺はほっと胸をなでおろす。
「なんだ、驚かせないで下さい。帰れなくなったと思ったじゃないですか。それでその門も鈺蔵の中にあるですよね?」
「門はその周囲にあるものを強制的に異世界に移動させる魔道具です。門は元の世界に残されているはずです」
俺はディハールの中心にぽつんと置かれていた魔道具の事を思い出す。
「……って事は、ひょっとして俺達もう帰る手段がない?」
「チェイン、召喚魔法がありますわ。元の世界から私達を呼び出して貰えば……」
ルッテの提案に一同「それだ!」と笑顔を見せるが、冷静に考えると俺達がここにいる事を誰も知らない。
それをどうやって呼び出そうというのか。
「ボク達も妖精のテレパシーでエルテウスに連絡をしようとしたけど、さすがに異世界からだと届かないみたいなんだ」
早速暗礁に乗り上げる。
そんな俺達の様子を眺めながら、リッキー辺境伯が口を開く。
「かつて勇者や悪魔がこの世界から我々の世界にやってきました。という事は、この世界にもあるはずです。かつて私の先祖が勇者を連れてくる為に使用した門が」
しかしこの広い世界でそれを探すのは難しい。
そもそも千年も前の話だ。
その門が残っているという保証はどこにもない。
「ふむ。それならば我が眷族に探らせよう」
その時、マリーニャに会話の内容を通訳してもらっていたフルーレティが立ち上がって言った。
「ここは我らが領域。少し騒がしくなるぞ」
フルーレティは窓から外に出ると変化の術を解き、巨大な悪魔の姿に戻る。
そのまま上空まで羽ばたくと、大地が震える程の雄叫びを上げる。
「にゃっ、耳が……」
マルコシアら【殺人猫】はその轟音に震えながら、耳を押さえる。
「な、なんだ? フルーレティは一体何をする気だ?」
やがて、青く広がっていた空は黒く染まっていく。
「すごいな、あれもフルーレティの強大な魔力の成せる技か。闇魔法の一種かな?」
俺は初めて見る不思議な天空ショーに、暢気に見当違いの推論を述べる。
しかしシズハナと【殺人猫】は震えながらそれを否定する。
「違う。今空を覆っているのは……」
俺は目を凝らしてその漆黒に染まった空を見る。
そして気付いた。
「え……嘘だろ……あれ全部そうなのか?」
空を覆っていたのは、何千何万という数の悪魔の群れだった。
「うん、皆を集めるからこの先の部屋で待っててよ」
そう言ってマルコシアは俺達を客室に案内する。
その流れがあまりにも自然すぎて、まるでマルコシアがこの屋敷の主かと錯覚する程だ。
「隠密の秘訣は、その場所に自分を溶け込ませる事。そうすればもし姿を見られたとしても見つからない」
とはシズハナの言だ。
その道のプロ同士、何か通じるものがあるんだろう。
程なくして、【殺人猫】のメンバーが部屋に集まってきた。
そしてもうひと組。
「いやはや参った。丁度リッキー辺境伯を訪ねてきたところを巻き込まれてしまったよ」
「お父様!?」
そこにはリッキー辺境伯とその家臣達の姿もあった。
「これで全員かい?」
そう言いながら知らないおじさんが入ってきた。
だがそれが誰なのかは想像がつく。
「初めまして。私はコアトル・コルテス・リッキー。ディハールの領主だ」
間違いなくリッキー辺境伯本人だ。
彼には聞きたい事がたくさんあるが、まずは向こうの話を聞こう。
「君達の事は把握している。私のコレクションを調べているんだろう。もっとも、こんな事が起きなければ自分の屋敷に誰かが忍び込んでいるなんて思いもしなかったよ」
「にゃはは……」
マルコシアが苦笑いをしながら頭をかく。
「ならばもう隠す必要もあるまい。単刀直入に聞こう、あなたは古代の技術についてどこまで知っている?」
交渉事はハーゲン伯爵の得意分野だ。
俺達は椅子に座りながら二人のやり取りを見守る。
「我がリッキー家の事は既にご存知でしょう。かつて私の先祖が異世界への門を開き、魔王に対抗する為に勇者を召喚したという」
「その時使用したのがこの屋敷の地下に保管されていた魔道具ですね」
「はい。私の先祖は優れた魔法使いでした。当時の魔法使いは呪い師と呼ばれ、その不思議な力は畏怖の対象となっていました。やがて彼は指導者となり民を導く傍ら、日々魔法の研究に没頭し、ある日異世界の存在を発見したのです」
彼の先祖もエルテウスやハーゲン伯爵と同様に、俺達の世界では珍しい天然の魔法使いだったのだ。
「それで異世界へ転移する魔道具を作り上げ、この世界へやってきたという事ですね」
「はい。それで、最初の問いに対してですが、私は魔道具についての技術的な知識は持ち合わせてはいません。あくまで、先祖が作ったという魔道具を回収していただけです。まあ、それ以外にも趣味で珍しいもの──鈺──を集めてはいましたけどね」
これは当てが外れてしまったな。
魔法珠や魔法鈺の調査については振り出しに戻ってしまった。
「鈺蔵の中の魔道具の調査をする事は構いませんよ。私も元の世界に帰りたいですからね」
「元の世界に帰る?」
俺はリッキー辺境伯に言われてハッとした。
そうだ、俺達は今異世界にいるんだ。
しかも現時点では帰る方法が分からない。
「正確には、帰る方法はあります。ここに来た時と同じように、門を使えば良いのです」
俺はほっと胸をなでおろす。
「なんだ、驚かせないで下さい。帰れなくなったと思ったじゃないですか。それでその門も鈺蔵の中にあるですよね?」
「門はその周囲にあるものを強制的に異世界に移動させる魔道具です。門は元の世界に残されているはずです」
俺はディハールの中心にぽつんと置かれていた魔道具の事を思い出す。
「……って事は、ひょっとして俺達もう帰る手段がない?」
「チェイン、召喚魔法がありますわ。元の世界から私達を呼び出して貰えば……」
ルッテの提案に一同「それだ!」と笑顔を見せるが、冷静に考えると俺達がここにいる事を誰も知らない。
それをどうやって呼び出そうというのか。
「ボク達も妖精のテレパシーでエルテウスに連絡をしようとしたけど、さすがに異世界からだと届かないみたいなんだ」
早速暗礁に乗り上げる。
そんな俺達の様子を眺めながら、リッキー辺境伯が口を開く。
「かつて勇者や悪魔がこの世界から我々の世界にやってきました。という事は、この世界にもあるはずです。かつて私の先祖が勇者を連れてくる為に使用した門が」
しかしこの広い世界でそれを探すのは難しい。
そもそも千年も前の話だ。
その門が残っているという保証はどこにもない。
「ふむ。それならば我が眷族に探らせよう」
その時、マリーニャに会話の内容を通訳してもらっていたフルーレティが立ち上がって言った。
「ここは我らが領域。少し騒がしくなるぞ」
フルーレティは窓から外に出ると変化の術を解き、巨大な悪魔の姿に戻る。
そのまま上空まで羽ばたくと、大地が震える程の雄叫びを上げる。
「にゃっ、耳が……」
マルコシアら【殺人猫】はその轟音に震えながら、耳を押さえる。
「な、なんだ? フルーレティは一体何をする気だ?」
やがて、青く広がっていた空は黒く染まっていく。
「すごいな、あれもフルーレティの強大な魔力の成せる技か。闇魔法の一種かな?」
俺は初めて見る不思議な天空ショーに、暢気に見当違いの推論を述べる。
しかしシズハナと【殺人猫】は震えながらそれを否定する。
「違う。今空を覆っているのは……」
俺は目を凝らしてその漆黒に染まった空を見る。
そして気付いた。
「え……嘘だろ……あれ全部そうなのか?」
空を覆っていたのは、何千何万という数の悪魔の群れだった。
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