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第78話 グリモワール
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「何も……ない?」
城壁の中は何もない空間が広がっていた。
ここにあるはずの建物や住んでいるはずの人、何もかもがない。
視界に入ってくるものはまっさらな空き地とそれを囲う城壁だけだ。
「マルコー! ハーゲン伯爵!」
俺の呼びかけに応える者は誰もいない。
俺達は呆然と立ち尽くす。
「これはどう見ても異常事態ですわね。この先何が起きるか分かりません。パトリッツァは外で待っていて下さいまし」
「はい……お嬢様、どうかお気を付けください」
俺達は御者のパトリッツァを城壁の外に待機させ、内部を調査する事にした。
「これは一体何があったんだ……」
「ふむ……これは恐らく、門が開かれた後だな」
フルーレティの推測に皆が注目をする。
「門?」
「かつてこの世界の呪い師リッキーが開いた異世界へ繋がる門とは、定められた範囲内にあるものを強制的に異世界へ転移させるというものだ。この都市の中心を調べてみるといい」
俺達はフルーレティに言われるままに中心に足を運ぶと、何もない空間の真っただ中にぽつんと置かれているひとつの魔道具が目に入った。
「何だこれは?」
「皆ここを見てよ、何か書いてある」
プリンが魔道具の表面に書かれている文字に気付き、そっと指を触れる。
「プリン、よく分からない物をうかつに触っては……」
「なになに、転送開始……? あっ」
その瞬間、魔道具が強い光を放ち、眩しさで何も見えなくなる。
あ、これ何か取り返しのつかない事をやっちゃった感じだ。
意識が遠ざかる。
◇◇◇◇
「チェイン起きろ、いつまで寝てる気だ」
「う……ん。プリン? もう朝か」
「何寝ぼけてんだ。周りを見てみろよ」
「んー? ……どこだここ?」
目を覚ますと、俺達は薄暗い部屋の中にいた。
マリーニャが≪炎魔法≫の魔法で明かりを灯していなければ真っ暗で何も見えなかっただろう。
シズハナもルッテもフルーレティもいる。
皆無事の様だ。
部屋の中には所狭しと魔道具や骨董品が並べられている。
この光景見覚えがあるぞ。
そうだ、ホーロウの屋敷の地下にあった鈺蔵だ。
「とにかくここを出ましょう」
辺りを見回すと、部屋の隅に扉が見える。
シズハナが扉の前に進み、罠がない事を確認してノブを回す。
扉はギイと鈍い音を立てて開いた。
鍵穴はあるが、鍵はかかっていない。
扉の先には上り階段があった。
シズハナが周囲を警戒しながら先行し、俺達はその後に続く。
階段を上っていくと、突き当りにさらに扉があった。
再びシズハナが扉に触れ───。
カチャリ
シズハナが軽く押しただけで扉が開いた。
この扉も鍵はかかっていなかったらしい。
扉を開けると光が差し込んできた。
どうやらどこかの屋敷の中らしい。
「待って、前方の柱の陰に誰かいる」
シズハナが何者かの気配を察知し、俺達を制止する。
ここは俺達の知らない場所だ。
どこに敵が潜んでいても不思議はない。
そして地の利は敵にある。
俺達に緊張が走る。
「なんだ、誰かと思ったら君達か」
柱の陰から出てきた人物が馴れ馴れしく声をかける。
「君達もここに来たのかい?」
それは音信不通になっていたマルコシアだった。
「マルコ、無事だったのか。エルテウスやギルドマスターも心配してたよ」
「うん、他の仲間達も無事だよ」
「それでここは一体どこなんだ?」
「ここはリッキー辺境伯の屋敷の中だよ。でも城塞都市ディハールじゃない」
マルコシアの言っている事がよく分からないな。
俺は首を傾げ、マルコシアに問い質す。
「どういう事?」
「それが、ボク達にもよく分からないんだ。地下の倉庫に潜り込んでいろいろ調べてたら、突然魔道具が光り出して、気が付いたら都市全体が見た事もない場所に移動していたんだ。外を見てご覧よ。都市の外に見た事もない景色が広がってる」
俺達は窓の外を眺めると、都市を囲んでいた城壁は何処にも見えず、その先には見知らぬ荒野が広がっている。
そういえばさっきフルーレティが門が開かれたとか言っていたな。
という事は、さっきプリンが触っていた魔道具が、俺達の世界イシュタバールと異世界を繋ぐ門だったという事か。
俺達は自分たちがここへやってきた経緯をマルコシアに説明する。
「って事は、この人があの伝説の悪魔なのかい? だ、大丈夫なの? ……ひっ」
マルコシアは探知スキルでフルーレティの実力を探ると、そのあまりにも強大な力に思わず耳を畳み、尻尾を足の間から前方に丸めて悲鳴を上げる。
「大丈夫、この人は私達に対して害意を持っていないから。それに私はフルーレティと意思の疎通ができますから安心してください」
マリーニャが咄嗟にフォローをする。
「……そのようですね」
マルコシアはフルーレティが自分に向けて殺気を放っていない事を感じ取り、胸を撫で下ろす。
当のフルーレティはこの地に転移されてから一言も発さずに何かを探る様子を見せ続けていたが、ここにきて漸く口を開いた。
「間違いない。ここは我らが元々いた世界、グリモワールだ」
城壁の中は何もない空間が広がっていた。
ここにあるはずの建物や住んでいるはずの人、何もかもがない。
視界に入ってくるものはまっさらな空き地とそれを囲う城壁だけだ。
「マルコー! ハーゲン伯爵!」
俺の呼びかけに応える者は誰もいない。
俺達は呆然と立ち尽くす。
「これはどう見ても異常事態ですわね。この先何が起きるか分かりません。パトリッツァは外で待っていて下さいまし」
「はい……お嬢様、どうかお気を付けください」
俺達は御者のパトリッツァを城壁の外に待機させ、内部を調査する事にした。
「これは一体何があったんだ……」
「ふむ……これは恐らく、門が開かれた後だな」
フルーレティの推測に皆が注目をする。
「門?」
「かつてこの世界の呪い師リッキーが開いた異世界へ繋がる門とは、定められた範囲内にあるものを強制的に異世界へ転移させるというものだ。この都市の中心を調べてみるといい」
俺達はフルーレティに言われるままに中心に足を運ぶと、何もない空間の真っただ中にぽつんと置かれているひとつの魔道具が目に入った。
「何だこれは?」
「皆ここを見てよ、何か書いてある」
プリンが魔道具の表面に書かれている文字に気付き、そっと指を触れる。
「プリン、よく分からない物をうかつに触っては……」
「なになに、転送開始……? あっ」
その瞬間、魔道具が強い光を放ち、眩しさで何も見えなくなる。
あ、これ何か取り返しのつかない事をやっちゃった感じだ。
意識が遠ざかる。
◇◇◇◇
「チェイン起きろ、いつまで寝てる気だ」
「う……ん。プリン? もう朝か」
「何寝ぼけてんだ。周りを見てみろよ」
「んー? ……どこだここ?」
目を覚ますと、俺達は薄暗い部屋の中にいた。
マリーニャが≪炎魔法≫の魔法で明かりを灯していなければ真っ暗で何も見えなかっただろう。
シズハナもルッテもフルーレティもいる。
皆無事の様だ。
部屋の中には所狭しと魔道具や骨董品が並べられている。
この光景見覚えがあるぞ。
そうだ、ホーロウの屋敷の地下にあった鈺蔵だ。
「とにかくここを出ましょう」
辺りを見回すと、部屋の隅に扉が見える。
シズハナが扉の前に進み、罠がない事を確認してノブを回す。
扉はギイと鈍い音を立てて開いた。
鍵穴はあるが、鍵はかかっていない。
扉の先には上り階段があった。
シズハナが周囲を警戒しながら先行し、俺達はその後に続く。
階段を上っていくと、突き当りにさらに扉があった。
再びシズハナが扉に触れ───。
カチャリ
シズハナが軽く押しただけで扉が開いた。
この扉も鍵はかかっていなかったらしい。
扉を開けると光が差し込んできた。
どうやらどこかの屋敷の中らしい。
「待って、前方の柱の陰に誰かいる」
シズハナが何者かの気配を察知し、俺達を制止する。
ここは俺達の知らない場所だ。
どこに敵が潜んでいても不思議はない。
そして地の利は敵にある。
俺達に緊張が走る。
「なんだ、誰かと思ったら君達か」
柱の陰から出てきた人物が馴れ馴れしく声をかける。
「君達もここに来たのかい?」
それは音信不通になっていたマルコシアだった。
「マルコ、無事だったのか。エルテウスやギルドマスターも心配してたよ」
「うん、他の仲間達も無事だよ」
「それでここは一体どこなんだ?」
「ここはリッキー辺境伯の屋敷の中だよ。でも城塞都市ディハールじゃない」
マルコシアの言っている事がよく分からないな。
俺は首を傾げ、マルコシアに問い質す。
「どういう事?」
「それが、ボク達にもよく分からないんだ。地下の倉庫に潜り込んでいろいろ調べてたら、突然魔道具が光り出して、気が付いたら都市全体が見た事もない場所に移動していたんだ。外を見てご覧よ。都市の外に見た事もない景色が広がってる」
俺達は窓の外を眺めると、都市を囲んでいた城壁は何処にも見えず、その先には見知らぬ荒野が広がっている。
そういえばさっきフルーレティが門が開かれたとか言っていたな。
という事は、さっきプリンが触っていた魔道具が、俺達の世界イシュタバールと異世界を繋ぐ門だったという事か。
俺達は自分たちがここへやってきた経緯をマルコシアに説明する。
「って事は、この人があの伝説の悪魔なのかい? だ、大丈夫なの? ……ひっ」
マルコシアは探知スキルでフルーレティの実力を探ると、そのあまりにも強大な力に思わず耳を畳み、尻尾を足の間から前方に丸めて悲鳴を上げる。
「大丈夫、この人は私達に対して害意を持っていないから。それに私はフルーレティと意思の疎通ができますから安心してください」
マリーニャが咄嗟にフォローをする。
「……そのようですね」
マルコシアはフルーレティが自分に向けて殺気を放っていない事を感じ取り、胸を撫で下ろす。
当のフルーレティはこの地に転移されてから一言も発さずに何かを探る様子を見せ続けていたが、ここにきて漸く口を開いた。
「間違いない。ここは我らが元々いた世界、グリモワールだ」
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