スキルがキモいという理由で王子から婚約破棄をされた巫女が実家に帰った結果王国が消滅した話

かにくくり

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第16話 死者の街

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 ある日、王立の犯罪調査機関のリーダー格のひとりであるレオンハイトという男が部下を引き連れてエルリーン伯爵邸にやってきた。

「我々は陛下暗殺未遂の容疑者であるルーク殿下を追跡している。屋敷の中を検めさせて頂きますぞエルリーン卿」

「これはこれはご苦労様です。急なことゆえ大したおもてなしはできませんが、どうぞ心行くまでお調べ下さい」

「お気遣いは無用。我々は主命で来ているのですから。それでは失礼させて頂きますぞ」

 レオンハイトと部下たちは屋敷の中にどかどかと踏み入ってルーク殿下がここに来なかったか念入りに痕跡を探す。

「レオンハイト様、これをご覧下さい!」

 部下の一人がクローゼットの中からひとつのハンカチを取り出して言った。

「このハンカチに入れられた刺繍をご覧下さい、これは間違いなく王室の紋章です」

 忽ち空気が張り詰めた。
 レオンハイトはハンカチをエルリーン伯爵に突き付けながら問い詰める。

「エルリーン卿、何故王室にあるべきの物が屋敷の中にあるのだ? まさかルーク殿下を匿っているのではあるまいな? 返答によっては我々はあなた方を重要参考人として王都まで連行せねばならん」

「ああすまん、それは俺のハンカチだ」

 その時屋敷に居候していたリストリア殿下が名乗り出てレオンハイトからハンカチを取り上げた。

「お前ら俺がこの屋敷で厄介になっている事を知らなかったのか?」

「いや、それは伺っておりましたが……」

「王室からの除名を言い渡された俺が王室の紋章が描かれたハンカチを持っているのが問題だっていうのならそれは王室に返却するよ」

「うぐ……それには及びません。失礼をしました」

 その後もレオンハイトたちがどれだけ屋敷の中を探してもルーク殿下がいたという痕跡を見つける事は出来なかった。

 正確にはいくつかルーク殿下が屋敷に持ち込んだ物を発見されたが、全てリストリア殿下が自分の物だと主張する事でそれ以上追及される事はなかった。

 そして当のルーク殿下は既にこの屋敷の中にはいない。
 調査機関の人間が屋敷に来る前に別の場所に移動しているからだ。


 ルーク殿下は今私シルヴィアと共にエルリーン伯爵領内にある繁華街の人ごみの中に紛れていた。
 傍から見れば仲が良い姉弟が散歩をしているようにしか見えないだろう。

 その時、私の頭の中に声が響いた。

「シルヴィアさん、たった今調査機関の人たちが屋敷内の調査を終えて外に出てきました」

「有難うシンシアさん。ルーク殿下が屋敷に住んでいた事はバレませんでしたよね?」

「勿論ですよ。リストリア殿下の機転も素晴らしかったですよ」

「じゃあそろそろ屋敷に戻っても大丈夫かな?」

「あ、調査機関の人間がこれから街の中を調べに来るみたいです。今街の東門に向かって進んでいます」

「そう。じゃあ私たちは西門から街を出てぐるっと回り道をして屋敷に戻ります。また何か動きがあったら教えて下さいね」

「ええ、任せて下さいな。シルヴィアさんにはいつも子供がお世話になっていますからね」

 そして声は聞こえなくなった。

 私は今聞いた内容をルーク殿下に伝え、街の西門に向けて進みだした。
 ルーク殿下は目を輝かせながら私を見る。

「シルヴィア嬢って本当にすごいですね。そんなことまで分かるんですか?」

「ええ、領内の出来事は全部分かりますよ」

 エルリーン伯爵領内には多くの魂が彷徨っている。
 そのほとんどが自分の子や孫など大切な人を見守る為に守護霊として現世に残っている善良な霊魂だ。
 この街で小さなパン屋を営んでいたシンシアおばさんはある日幼い娘を残したまま流行り病で亡くなってしまった。

 しかし私の父エルリーン伯爵が身寄りのない子供の為に作った孤児院のお陰でシンシアさんの娘さんは路頭に迷う事もなくすくすくと育っている。

 私も時々孤児院に足を運んで孤児たちの面倒を見ている。
 シンシアさんの魂はその事に恩を感じ、有事の際には私に力を貸してくれると約束をしてくれた。

 シンシアさん以外にもこの街の中に漂っている多くの霊魂が私の知り合いだ。

 今回は彼らに調査機関や怪しい人間を見かけたら私に教えてくれるようにお願いをした。

 連絡方法は【口寄せ】の応用だ。
 何かがあれば私に憑依して連絡をしてくれればいい。
 【巫女】である私だからできる常時降霊受け入れモードオンの状態だ。

 領内の何百、何千という霊魂が今私の目や耳の代わりとなっているのだ。
 例え老練なスパイだろうとそれらを潜りぬける事は出来るはずもなく、レオンハイトたちの動きは私に筒抜けとなっている。
 ルーク殿下が私と一緒にいる以上捕まえる事など不可能だろう。

 こうしてレオンハイトたち調査機関は何の成果も得られないまま王都へ帰っていった。

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