スキルがキモいという理由で王子から婚約破棄をされた巫女が実家に帰った結果王国が消滅した話

かにくくり

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第19話 親を売る娘

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 パーティーが終わりレイチェルは父エクスディア侯爵を連れて王宮内の自分の部屋に戻ってきた。

「まさか……我らの企みが王妃にも露見してしまったのでは……? だとしたら今日のパーティーが私の最後の晩餐となってしまうかも知れん……」

 お父様はあれからこの世の終りのように沈んだ顔でぶつぶつとネガティブな言葉を繰り返している。

 第一王子ラング、第三王子ルーク、第四王子レントン、第五王子ロンド。
 いずれもアクリア王妃がお腹を痛めて産んだ子供たちだ。

 ラングを王座に座らせる為とはいえ、ルーク以下三人の子供たちを陥れた事が王妃の知るところとなれば侯爵家の当主といえども許されるはずがない。

 しかもアクリア王妃は政敵であるエディー公爵の実姉に当たる人物だ。
 公爵はここぞとばかりにエクスディア侯爵家を徹底的に潰そうと働きかけるだろう。

 お父様が絶望にさいなまれるのも仕方がない事だと思う。

 しかし私にはそうなる未来は見えなかった。

 あの時アクリア王妃がお父様を見る目には憎悪の感情が一切読み取れなかった。

 むしろあれは逆に……。

「もうお終いだ……身の丈に合わない野心を持つべきではなかった……」

 お父様は顔面を蒼白にして俯き、頭を掻き毟っている。
 とても見ていられない。

「お父様、しっかりなさいまし。まだ私たちの企みが漏れたと決まった訳ではありませんわ」

「気休めはよしてくれ。王妃の部屋に入った瞬間私は衛兵達に取り押さえられ、酷い拷問を受けた上で牢に放り込まれるだろう。後はどのような方法で死を賜るかの問題だ。ギロチンで首を落とされるのならまだ慈悲深い方。ルーク殿下たちにしてきた事を考えれば広場で磔にされて火で炙り殺されるか身体を少しずつ切り刻まれるか……レイチェル、お前だって無事では済まないぞ。そうだ、今すぐに王都から脱出して隣国に亡命を……」

「お父様、いくらなんでも悪い方に考えすぎですわ。私の見立てでは王妃は私たちの企みに気付いていませんし、お父様に危害を加えるつもりなんてないと思いますわ」

「そんなはずはない。ならばどうして私を部屋に呼んだりしたんだ?」

「お分かりになりませんか? 夜に女性が殿方をひとりで部屋に呼び寄せるのはどんな時だと思います?」

「だからそれは私を部屋に呼び寄せて断罪を……」

「一般的な場合の話です!」

「一般的にって……」

 お父様は視線を斜め上に移しながら少し考え、ハッとその答えに気がついて私と目を見合わせた。

 そして苦笑しながらゆっくりと首を横に振る。

「いやいや、いくらなんでもアクリア王妃に限ってそれは……」

「サイクリア陛下が病に倒れられてからアクリア王妃もすっかり塞ぎこまれてしまいました。先日もテラスでひとり寂しそうに紅茶を飲んでおられましたわ。侍女たちも腫物に触るように王妃から距離を置いていますし……」

「……」

「アクリア王妃は自分を慰めてくれる殿方を探していたのですわ。女の私には王妃のお気持ちが良く分かりますもの」

 アクリア王妃はかつてサイクリア陛下が自分以上に美しい女性──リストリア殿下の母であるアステナ──を側室に迎え入れた時、取り巻きたちと一緒にアステナが死ぬまで苛め抜いたという噂が囁かれている嫉妬深い女だ。

 しかしサイクリア陛下が病に伏せている今その寵愛を受ける事は叶わない。

 アクリア王妃ほどの独占的な愛情欲求が強い人間がそんな状況に我慢できるはずがない。

 ならばそろそろ次の依存先を求めて動きだす頃合いと見て間違いない。

 幸いというべきかお父様は娘の私から見てもナイスミドルの部類に入る。

 お父様が王妃とになれば今までエクスディア侯爵家といがみ合っていたエディー公爵との間を取り成してもらう事もできるだろう。
 それは百万人の兵よりも心強い味方を得たようなものだ。

 このチャンスを逃す手はない。

 お父様が王妃の相手に選ばれたのはラングのせいで苦労の連続だった私に対する神様からのご褒美だと私は受け取った。

「レイチェル……お前自分が何を言っているのか分かっているのか?」

 私も女だ。
 思うところはある。

 でも例え自分の主義に反するような事であろうとここで躊躇する訳にはいかない。

「大丈夫、お母様には内緒にしておきますから。全ては私たちの未来の為、お父様も覚悟をお決めになって下さいな」

「レイチェル……そうだな、このまま共に破滅するぐらいならばお前の言うことを信じてできる事は何でもやってやろう」

「その意気ですわお父様。まずは身嗜みを整えになって下さいな。襟が曲がっていますわよ」

「あ、ああ……これでいいか?」

「そうですわね……後はもっとシャキっとなさって下さい。そんな後ろめたそうな表情では王妃にそっぽを向かれてしまいますわよ」

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