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第20話 命が尽きる前に
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私シルヴィアが実家に帰ってから一か月が過ぎていた。
最近になって王都からの移民がますます増えてきている。
気になって昨日引っ越してきたという老夫婦に話を聞いてみると最近エクスディア侯爵領やエディー公爵領内の貴族や民衆たちが大量に王都に流入してそれぞれが幅を利かせ、元々の住民たちにとっては大変住み辛い状況になってきているという。
「ねえリストリア様、確かエクスディア侯爵はラング殿下派の筆頭でエディー公爵はルーク殿下派の筆頭でしたよね。お互い王都を舞台に小競り合いを始めたりしなければ良いですけど」
「それはどうだろうな。そもそもエディー公爵は王妃の弟、つまりラング兄上やルークたちの伯父にあたる人物だ。今まではアホなラングよりも聡明なルークを推していたが、正直なところ俺以外の誰が王太子になろうと大した問題ではない立場にいる。ルークが父上殺害未遂の冤罪を着せられてこの屋敷に潜伏していることで、擁立する者がいなくなったエディー公爵がエクスディア侯爵と和解してラングに乗換えたとしても不思議はないが……」
リストリア殿下は俯き加減に声を振るわせている。
「……どうなさいました?」
「エディー公爵までが動き出したという事は、それはつまり父上がもう長くないという事だ。くそっ、親の死に目に会う事もできないとは俺はなんという親不孝者だ」
「リストリア様……」
私にはかける言葉が見つからない。
巫女である私にできる事と言えばせめてサイクリア陛下が亡くなられた後に陛下の魂を降霊して【口寄せ】で会話をさせてあげる事ぐらいだ。
しかし今それをリストリア殿下に伝えても何の慰めにもならないだろう。
だとしたら今できる最善の手は……。
「そうだ! 今からでも遅くありません、王都へ戻りましょうリストリア様!」
「何を言っているシルヴィア、俺も君も王都から追放された身だ。衛兵に門前払いをされるのが落ちだろう。……まさか、王都に忍びこむつもりか?」
「それは違いますよ。リストリア様はラング殿下から王宮からの追放を言い渡されただけで王都に戻る分には何の問題もありません。そして私は以前手紙でラング殿下から恩赦を頂いておりますので堂々と王都に戻る事ができます」
もっともその手紙はもうビリビリに破いて処分してしまったけど。
「しかし君はもうあそこには戻らないと宣言して使者を追い返したじゃないか」
「私、王宮には戻らないとは言いましたけど王都に戻らないなんて一言も言っていませんよ?」
リストリア殿下は両腕を組み小首を傾げながら記憶を辿った。
もう何週間も前の話だ。
記憶も曖昧になっている。
「……そういえばそうだったような気がする」
私の言っている事は詭弁かもしれないけど元々ラング殿下が私たちに言い渡した内容だってただの言いがかりだ。
そもそもいくら王子とはいえラング殿下に正当な理由もなく他人を裁く権限があるはずもない。
そんなものに従う必要なんて最初からなかったんだ。
「王宮の近くまで行くことができれば後は私が巫女の力で何とかします。迷ってる時間はありません、急いで準備をして下さい」
「シルヴィア……ありがとう」
できる事ならばルーク殿下も連れていってあげたいけど、エディー公爵がラング派になったと考えられる今、その手の者が蔓延っている王都で彼の身の安全を保証する事ができない。
そのことをルーク殿下に詫びると彼は「王宮から脱出する時に父上には最後の別れの挨拶を済ませてきましたのでそのお気持ちだけで十分です」と気丈に振る舞っていた。
そしてルーク殿下は小さな声で続けた。
「それに……王宮には顔を合わせたくない人もいますしね」
「え? ああそうですよね、今更ラング殿下のお顔なんて見たくないですよね」
「……はい」
ルーク殿下はその言葉を最後に寂しげな表情で口を噤んだ。
「……それでは行ってきます」
私とリストリア殿下はお父様に手配して貰った馬車に乗って王都へ向かった。
最近になって王都からの移民がますます増えてきている。
気になって昨日引っ越してきたという老夫婦に話を聞いてみると最近エクスディア侯爵領やエディー公爵領内の貴族や民衆たちが大量に王都に流入してそれぞれが幅を利かせ、元々の住民たちにとっては大変住み辛い状況になってきているという。
「ねえリストリア様、確かエクスディア侯爵はラング殿下派の筆頭でエディー公爵はルーク殿下派の筆頭でしたよね。お互い王都を舞台に小競り合いを始めたりしなければ良いですけど」
「それはどうだろうな。そもそもエディー公爵は王妃の弟、つまりラング兄上やルークたちの伯父にあたる人物だ。今まではアホなラングよりも聡明なルークを推していたが、正直なところ俺以外の誰が王太子になろうと大した問題ではない立場にいる。ルークが父上殺害未遂の冤罪を着せられてこの屋敷に潜伏していることで、擁立する者がいなくなったエディー公爵がエクスディア侯爵と和解してラングに乗換えたとしても不思議はないが……」
リストリア殿下は俯き加減に声を振るわせている。
「……どうなさいました?」
「エディー公爵までが動き出したという事は、それはつまり父上がもう長くないという事だ。くそっ、親の死に目に会う事もできないとは俺はなんという親不孝者だ」
「リストリア様……」
私にはかける言葉が見つからない。
巫女である私にできる事と言えばせめてサイクリア陛下が亡くなられた後に陛下の魂を降霊して【口寄せ】で会話をさせてあげる事ぐらいだ。
しかし今それをリストリア殿下に伝えても何の慰めにもならないだろう。
だとしたら今できる最善の手は……。
「そうだ! 今からでも遅くありません、王都へ戻りましょうリストリア様!」
「何を言っているシルヴィア、俺も君も王都から追放された身だ。衛兵に門前払いをされるのが落ちだろう。……まさか、王都に忍びこむつもりか?」
「それは違いますよ。リストリア様はラング殿下から王宮からの追放を言い渡されただけで王都に戻る分には何の問題もありません。そして私は以前手紙でラング殿下から恩赦を頂いておりますので堂々と王都に戻る事ができます」
もっともその手紙はもうビリビリに破いて処分してしまったけど。
「しかし君はもうあそこには戻らないと宣言して使者を追い返したじゃないか」
「私、王宮には戻らないとは言いましたけど王都に戻らないなんて一言も言っていませんよ?」
リストリア殿下は両腕を組み小首を傾げながら記憶を辿った。
もう何週間も前の話だ。
記憶も曖昧になっている。
「……そういえばそうだったような気がする」
私の言っている事は詭弁かもしれないけど元々ラング殿下が私たちに言い渡した内容だってただの言いがかりだ。
そもそもいくら王子とはいえラング殿下に正当な理由もなく他人を裁く権限があるはずもない。
そんなものに従う必要なんて最初からなかったんだ。
「王宮の近くまで行くことができれば後は私が巫女の力で何とかします。迷ってる時間はありません、急いで準備をして下さい」
「シルヴィア……ありがとう」
できる事ならばルーク殿下も連れていってあげたいけど、エディー公爵がラング派になったと考えられる今、その手の者が蔓延っている王都で彼の身の安全を保証する事ができない。
そのことをルーク殿下に詫びると彼は「王宮から脱出する時に父上には最後の別れの挨拶を済ませてきましたのでそのお気持ちだけで十分です」と気丈に振る舞っていた。
そしてルーク殿下は小さな声で続けた。
「それに……王宮には顔を合わせたくない人もいますしね」
「え? ああそうですよね、今更ラング殿下のお顔なんて見たくないですよね」
「……はい」
ルーク殿下はその言葉を最後に寂しげな表情で口を噤んだ。
「……それでは行ってきます」
私とリストリア殿下はお父様に手配して貰った馬車に乗って王都へ向かった。
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