21 / 40
第21話 巫女の禁じ手
しおりを挟む
私とリストリア殿下を乗せた馬車は王都の正面入り口の門に差し掛かった。
門番たちは客車に乗っているのが私とリストリア殿下という事を確認すると素通り同然に王都の中に通してくれた。
やはり思った通り私もリストリア殿下も王都に入る分には何の問題もないようだ。
もっともラング殿下の事だ、本当は私たちへの王都追放の刑は有効だったけどその情報が末端まで行き渡っていないだけなのかもしれない。
何はともあれ王都の中に入ってしまいさえすればこちらものだ。
サイクリア陛下は王宮の西側の部屋でご養生なさっている。
私たちはまずはそこから一番近い場所にある宿屋を目指す。
「それにしても……」
「ああ、王都もずいぶん様変わりしてしまったな」
大通りに並んでいる古い建物は全て取り壊され、新たな家屋の建築が進められている。
私たちの知らない間に大規模かつ強引な都市開発が始まっているようだ。
道行く人々も見知らぬ顔ばかり。
この人たちは何処からやってきたんだろうと疑問に思い彼らの会話に耳を傾けてみるとその内容や独特のイントネーションからエディー公爵領からやってきた人たちという事が分かった。
彼らはエディー公爵に王都の開発など様々な仕事をさせられる為に半ば強制的に連れてこられたらしい。
「リストリア様、自分の領民を王都に送り込みつつ元の住民を追い出すような真似をして、エディー公爵は王都の乗っ取りでも企んでいるのかしら?」
「そんな事をすればいくら馬鹿兄貴でも黙ってはいまい。王都には元老院だっているんだ。何か裏があるんだろうがそれが何かまでは分からないな」
「ここで考えても仕方がありませんね。とにかく宿へ行きましょう」
王宮のすぐ西にある一際大きな宿屋ロイヤルショートリーは、窓からサンクタス王国が誇る造形技術の粋を集めた美しい王宮を間近で眺めることができる観光客からも人気の宿だった。
しかしサイクリア陛下が病に倒れられてからは徐々に衰退していく王都に観光に訪れる者も少なくなったそうで、今日は私たち以外の宿泊客の姿は見えなかった。
私たちにとってはそれは好都合だ。
これから私が行う事は誰にも見られたくないし邪魔をされたくないからだ。
私とリストリア殿下は部屋に入るとすぐに入り口に鍵を掛け、中を覗かれないように窓にも板を打ち付けて塞ぎ完全な密室を作った。
部屋の中は夜のような暗闇に包まれ、微かに蝋燭の灯りだけがゆらゆらと揺れている。
「それではリストリア殿下、始めますよ」
「分かった。まずは何をすればいい?」
「まずはベッドの上に仰向けになって目を閉じて下さい」
「こ……これでいいのか? ……この状態少し恥ずかしいのだが」
「そのまま動かないで下さいね。声を出してもダメです」
「うぐ……」
「そのまま瞑想するように何も考えずにいて下さいね」
「…………」
「まだ邪念が入っています。これが巫女の修行ならば木の棒で叩かれますよ」
「……すまん……意外と難しいな」
「声を出してはいけません」
「! ……」
かなりの時間を費やした後、リストリア殿下が完全に無心になったのを感じ取った私はリストリア殿下に向かって一気に巫女の力を解き放つ。
「はあっ!」
「!!」
その瞬間、リストリア殿下の身体から白い煙のような物が飛び出してきた。
それはリストリア殿下の魂だ。
巫女である私以外その魂を見る事ができる人間はこの王都にはいないでしょう。
私たち巫女は普段霊魂を自分の身体の中に降ろす事で【口寄せ】を行っている。
この力を逆のベクトルに使えば肉体から霊魂を離脱させる事もできるのが道理だ。
「リストリア様、【幽体離脱】は成功しましたよ」
「本当か? ……おお、これは不思議な感覚だ……」
リストリア殿下の意識はベッドの上で横になっている肉体側にはなく、部屋の中を漂っている霊魂側にある。
霊魂は自分の意志で空間を移動する事ができる。
リストリア殿下は今まで体験した事がないその感覚に最初は戸惑っていたけど、すぐに制御できるようになった。
本来危険を伴うこの能力はシャーマンの家元であるエルリーン伯爵家門外不出である。
王室の人間でさえ知る者はいない。
にもかかわらずお父様から【幽体離脱】の力を使う許可を頂けたのは、お父様がリストリア殿下の事を本当の家族のようなものと認めているというからに他ならない。
続けて私も自分に対して【幽体離脱】の力を使い肉体から霊魂を切り離した。
他人にこの力を使う場合は霊魂に干渉する必要がある為に完全に心が無の状態になって貰わないといけないけど、巫女として魂のコントロール方法を熟知している自分に使うのは割と簡単だったりする。
「リストリア様、それじゃあこのまま王宮へ忍び込みましょうか」
門番たちは客車に乗っているのが私とリストリア殿下という事を確認すると素通り同然に王都の中に通してくれた。
やはり思った通り私もリストリア殿下も王都に入る分には何の問題もないようだ。
もっともラング殿下の事だ、本当は私たちへの王都追放の刑は有効だったけどその情報が末端まで行き渡っていないだけなのかもしれない。
何はともあれ王都の中に入ってしまいさえすればこちらものだ。
サイクリア陛下は王宮の西側の部屋でご養生なさっている。
私たちはまずはそこから一番近い場所にある宿屋を目指す。
「それにしても……」
「ああ、王都もずいぶん様変わりしてしまったな」
大通りに並んでいる古い建物は全て取り壊され、新たな家屋の建築が進められている。
私たちの知らない間に大規模かつ強引な都市開発が始まっているようだ。
道行く人々も見知らぬ顔ばかり。
この人たちは何処からやってきたんだろうと疑問に思い彼らの会話に耳を傾けてみるとその内容や独特のイントネーションからエディー公爵領からやってきた人たちという事が分かった。
彼らはエディー公爵に王都の開発など様々な仕事をさせられる為に半ば強制的に連れてこられたらしい。
「リストリア様、自分の領民を王都に送り込みつつ元の住民を追い出すような真似をして、エディー公爵は王都の乗っ取りでも企んでいるのかしら?」
「そんな事をすればいくら馬鹿兄貴でも黙ってはいまい。王都には元老院だっているんだ。何か裏があるんだろうがそれが何かまでは分からないな」
「ここで考えても仕方がありませんね。とにかく宿へ行きましょう」
王宮のすぐ西にある一際大きな宿屋ロイヤルショートリーは、窓からサンクタス王国が誇る造形技術の粋を集めた美しい王宮を間近で眺めることができる観光客からも人気の宿だった。
しかしサイクリア陛下が病に倒れられてからは徐々に衰退していく王都に観光に訪れる者も少なくなったそうで、今日は私たち以外の宿泊客の姿は見えなかった。
私たちにとってはそれは好都合だ。
これから私が行う事は誰にも見られたくないし邪魔をされたくないからだ。
私とリストリア殿下は部屋に入るとすぐに入り口に鍵を掛け、中を覗かれないように窓にも板を打ち付けて塞ぎ完全な密室を作った。
部屋の中は夜のような暗闇に包まれ、微かに蝋燭の灯りだけがゆらゆらと揺れている。
「それではリストリア殿下、始めますよ」
「分かった。まずは何をすればいい?」
「まずはベッドの上に仰向けになって目を閉じて下さい」
「こ……これでいいのか? ……この状態少し恥ずかしいのだが」
「そのまま動かないで下さいね。声を出してもダメです」
「うぐ……」
「そのまま瞑想するように何も考えずにいて下さいね」
「…………」
「まだ邪念が入っています。これが巫女の修行ならば木の棒で叩かれますよ」
「……すまん……意外と難しいな」
「声を出してはいけません」
「! ……」
かなりの時間を費やした後、リストリア殿下が完全に無心になったのを感じ取った私はリストリア殿下に向かって一気に巫女の力を解き放つ。
「はあっ!」
「!!」
その瞬間、リストリア殿下の身体から白い煙のような物が飛び出してきた。
それはリストリア殿下の魂だ。
巫女である私以外その魂を見る事ができる人間はこの王都にはいないでしょう。
私たち巫女は普段霊魂を自分の身体の中に降ろす事で【口寄せ】を行っている。
この力を逆のベクトルに使えば肉体から霊魂を離脱させる事もできるのが道理だ。
「リストリア様、【幽体離脱】は成功しましたよ」
「本当か? ……おお、これは不思議な感覚だ……」
リストリア殿下の意識はベッドの上で横になっている肉体側にはなく、部屋の中を漂っている霊魂側にある。
霊魂は自分の意志で空間を移動する事ができる。
リストリア殿下は今まで体験した事がないその感覚に最初は戸惑っていたけど、すぐに制御できるようになった。
本来危険を伴うこの能力はシャーマンの家元であるエルリーン伯爵家門外不出である。
王室の人間でさえ知る者はいない。
にもかかわらずお父様から【幽体離脱】の力を使う許可を頂けたのは、お父様がリストリア殿下の事を本当の家族のようなものと認めているというからに他ならない。
続けて私も自分に対して【幽体離脱】の力を使い肉体から霊魂を切り離した。
他人にこの力を使う場合は霊魂に干渉する必要がある為に完全に心が無の状態になって貰わないといけないけど、巫女として魂のコントロール方法を熟知している自分に使うのは割と簡単だったりする。
「リストリア様、それじゃあこのまま王宮へ忍び込みましょうか」
10
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された宮廷薬師、辺境を救い次期領主様に溺愛される
希羽
恋愛
宮廷薬師のアイリスは、あらゆる料理を薬学と栄養学に基づき、完璧な「薬膳」へと昇華させる類稀なる才能の持ち主。
しかし、その完璧すぎる「効率」は、婚約者である騎士団の副団長オスカーに「君の料理には心がない」と断じられ、公衆の面前で婚約を破棄される原因となってしまう。
全てを失ったアイリスが新たな道として選んだのは、王都から遠く離れた、貧しく厳しい北の辺境領フロスラントだった。そこで彼女を待っていたのは、謎の奇病に苦しむ領民たちと、無骨だが誰よりも民を想う代理領主のレオン。
王都で否定された彼女の知識と論理は、この切実な問題を解決する唯一の鍵となる。領民を救う中で、アイリスは自らの価値を正当に評価してくれるレオンと、固い絆を結んでいく。
だが、ようやく見つけた安住の地に、王都から一通の召喚状が届く。
義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!
ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。
貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。
実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。
嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。
そして告げられたのは。
「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」
理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。
…はずだったが。
「やった!自由だ!」
夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。
これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが…
これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。
生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。
縁を切ったはずが…
「生活費を負担してちょうだい」
「可愛い妹の為でしょ?」
手のひらを返すのだった。
役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜
腐ったバナナ
恋愛
「魔力なしの役立たず」と家族と婚約者に見捨てられ、極寒の魔獣の森に追放された公爵令嬢アリア。
絶望の淵で彼女が出会ったのは、致命傷を負った伝説の聖獣だった。アリアは、微弱な生命力操作の能力と薬学知識で彼を救い、その巨大な銀色のモフモフに癒やしを見いだす。
しかし、銀狼は夜になると冷酷無比な辺境領主シルヴァンへと変身!
「俺の命を救ったのだから、君は俺の永遠の所有物だ」
シルヴァンとの契約結婚を受け入れたアリアは、彼の強大な力を後ろ盾に、冷徹な知性で王都の裏切り者たちを周到に追い詰めていく。
家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました
日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。
だが彼に溺愛され家は再興。
見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。
貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました
ゆっこ
恋愛
――あの日、私は確かに笑われた。
「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」
王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。
その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。
――婚約破棄。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる