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戦慄!知られざる砂城院家の闇…
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「あーいい湯だったねぇ。」
浴衣を着た女達は口々に言い合っている。
「ウチにとって、こういう所で飲むコーヒー牛乳って格別なの。」
腰に手を当ててグイッと飲む。
「プハッー。自宅に自販機があるなんて、砂城院家ぐらいでしょうね。」
コーヒー牛乳を飲み干したヒロコは口元を手の甲で拭って言った。
「砂城院家の屋敷には至る所に自販機が設置されてるんだよ。」
ニヤリと笑うマキはヒロコに言った。
「もうこの家で過ごせば、下界で何を見ても驚かないわ。」
日常の生活を下界と表現したサナエにヒロコとマキは、笑って頷いた。
妖艶な女3人の後ろを歩く10代のセラは2本目のフルーツ牛乳の蓋を空けて飲み始めようとした時、浮かない顔をしたソラが目に入った。
「姉貴、どうかした?」
「ウミがいないの。
同時に入浴したはずなのにウミはどこへ行ったんだろう?
ひとっ風呂浴びてくるって言って、男風呂へ行ったまま居なくなっちゃった。
セラは何か知ってる?」
「ちょっとあたしもわかんないなぁ。先に部屋に戻って寝てるのかもよ。」
「寝ているならまだいいけど…通話しようにも応答なしで連絡もとれない。
かつらちゃんのご厚意で私達の貸切なんだし、こんな事になるなら手錠をしたまま男湯でウミと2人入浴すれば良かった。」
ソラは蓋を空けていないイチゴ牛乳を手に持って寂しそうに呟く。
「そういえばディナー後、神園くんがワタクシの家を散策したいが、広すぎて迷子になる。
とおっしゃるので同行するガイドを勧めたのですが、"知らん奴がいると気になる"から嫌だと断られてしまいました。
そこでワタクシは砂城院家のマップを渡しましたわ。
本来は信用できる限られた従業員にのみ配布するのものですが。」
「自宅にガイド?」
飲んでいたフルーツ牛乳を吹き出しそうになった。
世間の常識から逸脱した家庭で育ったかつらを見て、セラは枯葉の下で蹲る事しかできない庶民との違いを何度となく気付かされた。
「安易にマップを渡したワタクシに責任があります。
神園くんはおそらく部屋にいないでしょう。」
「それなら、旦那様はどこへ行ったの?かつらちゃん。」
「…直ちに全従業員に拡散して捜索致しましょう。」
いまにも泣きべそをかく寸前のソラの手をかつらはギュッと握る。
「あぅ、ありがとう。かつらちゃん…。」
「ワタクシとしても、気がかりな事がありますので…。」
若い家政婦からオガタへ連絡が入り、オガタはインカムを装着した全従業員に指令を出した。
東京ドームで例えるのがバカバカしくなるくらい広大な屋敷の中で、大々的に捜索されている事を知る由もないウミはマップを人差し指でなぞっている。
絶滅動物保護区
空想生物生育室
霊界交信室
サイボーグルーム
時間操作研究班専用所
宇宙人遺体安置所
四次元空間実験場
マップには様々なエリア、部屋があり好奇心のすこぶる強いウミは探検家になった気分だった。
ウィーン
ウィーン
ウィーン
「うぉっ!なんだってんだ?いきなりよぉ。ビックリすんじゃねえか!」
突如、警報が鳴り響き廊下が真っ赤に染まった。
焦ったウミは助けを求めて、目の前にある部屋の扉を力一杯ドアノブを回して開けた。
「◎△□??」
きょとんとした表情の可愛らしい女性の人魚がウミに要件を尋ねた。
「うひゃ!」
人魚が居た部屋のドアを閉めて、ズッコケながら廊下を一目散に走る。
突き当たりを進むと、鏡に囲まれた廊下に辿り着く。
鳥肌がたつ。
言葉にならない恐怖心が背中からゾクゾク押し寄せてくる。
身体に張り巡らされた神経、五感全てに悍ましさがベッタリ纏わりついて離れない。
走っていたウミは急に止まった為、つま先に体重がのっかり、つんのめたような姿勢になった。
目の前は鏡張りの廊下だ。奥行きがあり、どこまで伸びているかわからない。
「ホラー映画なら、なんかある展開だよな…。」
目前の鏡張りの廊下を渡るのに怯んだウミは、引き返そうとして振り返った。
ドス、ドス、ドス
背後から地面を叩きつけるような重厚感のある音が耳に迫ってくる。
「な、なにかが後ろから迫って来やがる…。」
こんなお化け屋敷のような世界が現実にあるはずがない。
恐怖に支配され心にまで、びっしょり冷たい汗をかくウミは自分自身を落ち着かせるよう言い聞かせた。
「ははっ!こんな事あってたまるか。
バケモノも悪魔も幽霊もいるわきゃねぇーっての!」
浴衣の帯を締めなおし、気付けに強張る頬を2回ビンタをして気合いをいれた。
必死で精神の安定を図ったウミであったが、重厚な音は止む気配がない。
次第に聞きたくもない恐怖心を掻き立てる音が徐々に近づいて来ているのに気づいた。
「バッカヤロォォォ!クッソヤロォォォ!なんも怖かねぇよぉ!俺は逃げも隠れもしねぇからな!
かかって来やがれってんだ!」
ガクガク震える足に逆らい目一杯の虚勢を張った。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
やけっぱちで怒鳴った事が功を奏したのか例の重厚感のある音は響いてこなくなった。
先ほどとは打って変わり、静かになった廊下で青髪の青年は自分の意思に反してヘナヘナと両膝を床につく。
足音が聞こえてこなくなった事により緊張が解けて力が抜けたのだ。
「止まった…?」
ドガーン!
特撮映画で観るような大袈裟な爆発音とともに、奥から無機質で巨大な岩のような物体が歩いてくる。
ドス、ドス、ドス
「ぎゃあー!!!」
発狂したウミは渡るのを心底恐れていた鏡張りの廊下を涙をちょちょぎらせ全力疾走した。
「ゴーレムがでたぁー!!!」
ウミが走り抜けた鏡の全てが、粉々に砕かれ中から尖ったツノと、先端が矢印でムチのようにしなる尻尾を持つ男女の悪魔が、逃げるウミに何体も襲いかかった。
足がもつれ転んでしまったウミは死を覚悟した。
その時だ。
前方から特殊部隊のような出立ちの男達が数名やってきて、悪魔達をあっという間に始末している。
薄れゆく意識のなか隊員の男がウミを抱き寄せる。
少し遅れてやってきた、サイド以外の髪はハゲ上がりサンタクロースのような長い髭を蓄えた年老いた医師が、ウミの意識を確認し始めた。
「神園くん!」
その隣に慌てふためくかつらがいる。
「センセ、神園くんの容態はいかほどですか!?」
「ふぅむ。」
年老いた医師は老眼鏡をかけ、脈を測っている。
「センセ?命の別状はありませんわよね?センセ!何かおっしゃってください!
まさか、生死の境をさまよっているなんて状態だったりしたら、ワタクシそんなの耐えきれないわ!」
事態を重くみた、かつらは医師に矢継ぎ早に問いかけた。
「落ち着きなさいな。
このボウズはショックで気を失いつつあるだけじゃ。
なぁに、これきし一晩眠ればすぐ回復する。」
「それは本当の事ですのね!?
あぁ、無事で良かったわ。神園くん…。」
目に涙を溜めたかつらは、ウミの頭を撫でた。
「しかしここで見た記憶を確実に消去しなければなりません。」
筋骨隆々で精悍な顔つきをした特殊部隊のリーダー格であろう男は顔色ひとつ変えず冷静な声で言った。
「神園くん、怖い思いをさせてしまい本当にごめんなさい。」
「か…つ、ら…。」
「まだまだ、砂城院家には罪深い問題が山積みです。
自浄作用がないと揶揄された砂城院家を一刻も早くワタクシの力で健全なものにしてみせますわ。
しかし今の段階では、どうしても伏せておかねばならないのです。
ここで見たものを世間には知らせるわけにはなりません。
記憶は消去させていただきますわ。
お許しください…神園くん…。」
ハンカチで涙を拭いかつらは年老いた医師に目で合図を送った。
「ぁ、つ、らぁ…。うぅ!」
年老いた医師はケースから注射器を取り出し、素早くセットをしてウミの首に針を刺した。
「ぁぁ…。」
俺はあれからどうなったんだ?
確か…
おかしいな…
何があったか思い出せない。
あっ。
俺、死んだんだっけ?
あぁ…
そうだ…
死んだんだよ…
ロックスターになりたかったな。
まぁいっか…
あの世にいっちまえば、ジミ・ヘンドリックスやエディ・ヴァンヘイレンやジェフ・ベックに会えるだろ…?
それで勘弁してやらぁ。
や、ちょっと待ってくれ。
くたばったって事は、ソラと永遠のお別れかよ…
アイツの事、あの若さで未亡人にしちまった。
俺が守らなきゃ変態どもに穢されちまうってのに…
せめて最後に別れの挨拶くらいしたかったよ。
ゴメンな…
ソラ。
ぷるんぷるん
ん?
それにしても、天国って暖かくて柔らかい場所なんだな。
ソラ…
やっぱし俺、まだ死にたくない。
おまえのそばにいたいんだ…
おまえを守れるのは俺だけだ。
ソラを愛する資格があるのは…
俺しかいないんだからよ。
「俺、ソラを愛してる…。」
ムニュムニュ
「ウミィ?目が覚めたの?」
「え…。」
「良かった。意識が戻ったようね。
ウミは私達がお風呂から上がった後、倒れていたのよぉ。」
夫婦はベッドで寝ている。
「俺が?」
「そうよぉ。大浴場のお風呂でのぼせていたところを、警備の方が発見してくれたみたい。」
「それはほんとか?」
「あん、かつらちゃんが言うんだから、ほんとよぉ。ほんとにほんとマン!」
「…かつら?」
何かが引っかかってはいるがウミは思い出せない。
「それより、ウミィ…。さっき寝言を言ってたのよぉ。
"俺、ソラを愛してる"って。
ウフフ!私のオッパイに顔を埋めて言ったんだからね。
嬉しいわ。きっと夢に私が出てきたのね。
寝言とはいえ私に愛の告白をしてくれたんだもん。」
何かを話すたびにソラの息が頭のてっぺんにあたってウミは熱を感じて暑そうだ。
ベッドの中心で包み込むようにソラは、背を丸めたウミを優しく抱き寄せている。
「ウミは甘えん坊さんね。
ずっと私がそばにいて、お世話してあげる。」
「うぅぅ。」
浴衣からはだけた柔らかく大きい乳房から顔をつき離して言った。
「なぁ、ソラァ?俺は何をしていたか、まったく記憶にねぇんだ。」
「仕方ないわ、気を失っていたからね。
可哀想にーーーー
ちょっとぉ、どうしたの?まだ寝ていなくちゃ。」
ウミは立ち上がり、照明を点けて部屋を歩き回る。
ガラスのテーブルに折り畳まれた用紙を発見した。
「こ、これは?」
マップを手にとる。
「それはね、ウミの浴衣の帯に挟んであったの。
本来は従業員以外には見せちゃいけないマップなんだって。
これについても、かつらちゃんが言ってたよぉ。」
背後にいるソラはウミの背中に乳房を押し付け耳に息を吹きかけた。
「ねぇ~ウミ。」
甘ったるい声でゆっくりウミの固く結ばれた浴衣の帯を外していく。
「今夜は夫婦水入らずだよぉ。」
失った記憶を探すウミはソラの話など耳に入らず、青い髪を掻きむしり頭を抱えた。
「離してくれ!」
浴衣を着た女達は口々に言い合っている。
「ウチにとって、こういう所で飲むコーヒー牛乳って格別なの。」
腰に手を当ててグイッと飲む。
「プハッー。自宅に自販機があるなんて、砂城院家ぐらいでしょうね。」
コーヒー牛乳を飲み干したヒロコは口元を手の甲で拭って言った。
「砂城院家の屋敷には至る所に自販機が設置されてるんだよ。」
ニヤリと笑うマキはヒロコに言った。
「もうこの家で過ごせば、下界で何を見ても驚かないわ。」
日常の生活を下界と表現したサナエにヒロコとマキは、笑って頷いた。
妖艶な女3人の後ろを歩く10代のセラは2本目のフルーツ牛乳の蓋を空けて飲み始めようとした時、浮かない顔をしたソラが目に入った。
「姉貴、どうかした?」
「ウミがいないの。
同時に入浴したはずなのにウミはどこへ行ったんだろう?
ひとっ風呂浴びてくるって言って、男風呂へ行ったまま居なくなっちゃった。
セラは何か知ってる?」
「ちょっとあたしもわかんないなぁ。先に部屋に戻って寝てるのかもよ。」
「寝ているならまだいいけど…通話しようにも応答なしで連絡もとれない。
かつらちゃんのご厚意で私達の貸切なんだし、こんな事になるなら手錠をしたまま男湯でウミと2人入浴すれば良かった。」
ソラは蓋を空けていないイチゴ牛乳を手に持って寂しそうに呟く。
「そういえばディナー後、神園くんがワタクシの家を散策したいが、広すぎて迷子になる。
とおっしゃるので同行するガイドを勧めたのですが、"知らん奴がいると気になる"から嫌だと断られてしまいました。
そこでワタクシは砂城院家のマップを渡しましたわ。
本来は信用できる限られた従業員にのみ配布するのものですが。」
「自宅にガイド?」
飲んでいたフルーツ牛乳を吹き出しそうになった。
世間の常識から逸脱した家庭で育ったかつらを見て、セラは枯葉の下で蹲る事しかできない庶民との違いを何度となく気付かされた。
「安易にマップを渡したワタクシに責任があります。
神園くんはおそらく部屋にいないでしょう。」
「それなら、旦那様はどこへ行ったの?かつらちゃん。」
「…直ちに全従業員に拡散して捜索致しましょう。」
いまにも泣きべそをかく寸前のソラの手をかつらはギュッと握る。
「あぅ、ありがとう。かつらちゃん…。」
「ワタクシとしても、気がかりな事がありますので…。」
若い家政婦からオガタへ連絡が入り、オガタはインカムを装着した全従業員に指令を出した。
東京ドームで例えるのがバカバカしくなるくらい広大な屋敷の中で、大々的に捜索されている事を知る由もないウミはマップを人差し指でなぞっている。
絶滅動物保護区
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霊界交信室
サイボーグルーム
時間操作研究班専用所
宇宙人遺体安置所
四次元空間実験場
マップには様々なエリア、部屋があり好奇心のすこぶる強いウミは探検家になった気分だった。
ウィーン
ウィーン
ウィーン
「うぉっ!なんだってんだ?いきなりよぉ。ビックリすんじゃねえか!」
突如、警報が鳴り響き廊下が真っ赤に染まった。
焦ったウミは助けを求めて、目の前にある部屋の扉を力一杯ドアノブを回して開けた。
「◎△□??」
きょとんとした表情の可愛らしい女性の人魚がウミに要件を尋ねた。
「うひゃ!」
人魚が居た部屋のドアを閉めて、ズッコケながら廊下を一目散に走る。
突き当たりを進むと、鏡に囲まれた廊下に辿り着く。
鳥肌がたつ。
言葉にならない恐怖心が背中からゾクゾク押し寄せてくる。
身体に張り巡らされた神経、五感全てに悍ましさがベッタリ纏わりついて離れない。
走っていたウミは急に止まった為、つま先に体重がのっかり、つんのめたような姿勢になった。
目の前は鏡張りの廊下だ。奥行きがあり、どこまで伸びているかわからない。
「ホラー映画なら、なんかある展開だよな…。」
目前の鏡張りの廊下を渡るのに怯んだウミは、引き返そうとして振り返った。
ドス、ドス、ドス
背後から地面を叩きつけるような重厚感のある音が耳に迫ってくる。
「な、なにかが後ろから迫って来やがる…。」
こんなお化け屋敷のような世界が現実にあるはずがない。
恐怖に支配され心にまで、びっしょり冷たい汗をかくウミは自分自身を落ち着かせるよう言い聞かせた。
「ははっ!こんな事あってたまるか。
バケモノも悪魔も幽霊もいるわきゃねぇーっての!」
浴衣の帯を締めなおし、気付けに強張る頬を2回ビンタをして気合いをいれた。
必死で精神の安定を図ったウミであったが、重厚な音は止む気配がない。
次第に聞きたくもない恐怖心を掻き立てる音が徐々に近づいて来ているのに気づいた。
「バッカヤロォォォ!クッソヤロォォォ!なんも怖かねぇよぉ!俺は逃げも隠れもしねぇからな!
かかって来やがれってんだ!」
ガクガク震える足に逆らい目一杯の虚勢を張った。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
やけっぱちで怒鳴った事が功を奏したのか例の重厚感のある音は響いてこなくなった。
先ほどとは打って変わり、静かになった廊下で青髪の青年は自分の意思に反してヘナヘナと両膝を床につく。
足音が聞こえてこなくなった事により緊張が解けて力が抜けたのだ。
「止まった…?」
ドガーン!
特撮映画で観るような大袈裟な爆発音とともに、奥から無機質で巨大な岩のような物体が歩いてくる。
ドス、ドス、ドス
「ぎゃあー!!!」
発狂したウミは渡るのを心底恐れていた鏡張りの廊下を涙をちょちょぎらせ全力疾走した。
「ゴーレムがでたぁー!!!」
ウミが走り抜けた鏡の全てが、粉々に砕かれ中から尖ったツノと、先端が矢印でムチのようにしなる尻尾を持つ男女の悪魔が、逃げるウミに何体も襲いかかった。
足がもつれ転んでしまったウミは死を覚悟した。
その時だ。
前方から特殊部隊のような出立ちの男達が数名やってきて、悪魔達をあっという間に始末している。
薄れゆく意識のなか隊員の男がウミを抱き寄せる。
少し遅れてやってきた、サイド以外の髪はハゲ上がりサンタクロースのような長い髭を蓄えた年老いた医師が、ウミの意識を確認し始めた。
「神園くん!」
その隣に慌てふためくかつらがいる。
「センセ、神園くんの容態はいかほどですか!?」
「ふぅむ。」
年老いた医師は老眼鏡をかけ、脈を測っている。
「センセ?命の別状はありませんわよね?センセ!何かおっしゃってください!
まさか、生死の境をさまよっているなんて状態だったりしたら、ワタクシそんなの耐えきれないわ!」
事態を重くみた、かつらは医師に矢継ぎ早に問いかけた。
「落ち着きなさいな。
このボウズはショックで気を失いつつあるだけじゃ。
なぁに、これきし一晩眠ればすぐ回復する。」
「それは本当の事ですのね!?
あぁ、無事で良かったわ。神園くん…。」
目に涙を溜めたかつらは、ウミの頭を撫でた。
「しかしここで見た記憶を確実に消去しなければなりません。」
筋骨隆々で精悍な顔つきをした特殊部隊のリーダー格であろう男は顔色ひとつ変えず冷静な声で言った。
「神園くん、怖い思いをさせてしまい本当にごめんなさい。」
「か…つ、ら…。」
「まだまだ、砂城院家には罪深い問題が山積みです。
自浄作用がないと揶揄された砂城院家を一刻も早くワタクシの力で健全なものにしてみせますわ。
しかし今の段階では、どうしても伏せておかねばならないのです。
ここで見たものを世間には知らせるわけにはなりません。
記憶は消去させていただきますわ。
お許しください…神園くん…。」
ハンカチで涙を拭いかつらは年老いた医師に目で合図を送った。
「ぁ、つ、らぁ…。うぅ!」
年老いた医師はケースから注射器を取り出し、素早くセットをしてウミの首に針を刺した。
「ぁぁ…。」
俺はあれからどうなったんだ?
確か…
おかしいな…
何があったか思い出せない。
あっ。
俺、死んだんだっけ?
あぁ…
そうだ…
死んだんだよ…
ロックスターになりたかったな。
まぁいっか…
あの世にいっちまえば、ジミ・ヘンドリックスやエディ・ヴァンヘイレンやジェフ・ベックに会えるだろ…?
それで勘弁してやらぁ。
や、ちょっと待ってくれ。
くたばったって事は、ソラと永遠のお別れかよ…
アイツの事、あの若さで未亡人にしちまった。
俺が守らなきゃ変態どもに穢されちまうってのに…
せめて最後に別れの挨拶くらいしたかったよ。
ゴメンな…
ソラ。
ぷるんぷるん
ん?
それにしても、天国って暖かくて柔らかい場所なんだな。
ソラ…
やっぱし俺、まだ死にたくない。
おまえのそばにいたいんだ…
おまえを守れるのは俺だけだ。
ソラを愛する資格があるのは…
俺しかいないんだからよ。
「俺、ソラを愛してる…。」
ムニュムニュ
「ウミィ?目が覚めたの?」
「え…。」
「良かった。意識が戻ったようね。
ウミは私達がお風呂から上がった後、倒れていたのよぉ。」
夫婦はベッドで寝ている。
「俺が?」
「そうよぉ。大浴場のお風呂でのぼせていたところを、警備の方が発見してくれたみたい。」
「それはほんとか?」
「あん、かつらちゃんが言うんだから、ほんとよぉ。ほんとにほんとマン!」
「…かつら?」
何かが引っかかってはいるがウミは思い出せない。
「それより、ウミィ…。さっき寝言を言ってたのよぉ。
"俺、ソラを愛してる"って。
ウフフ!私のオッパイに顔を埋めて言ったんだからね。
嬉しいわ。きっと夢に私が出てきたのね。
寝言とはいえ私に愛の告白をしてくれたんだもん。」
何かを話すたびにソラの息が頭のてっぺんにあたってウミは熱を感じて暑そうだ。
ベッドの中心で包み込むようにソラは、背を丸めたウミを優しく抱き寄せている。
「ウミは甘えん坊さんね。
ずっと私がそばにいて、お世話してあげる。」
「うぅぅ。」
浴衣からはだけた柔らかく大きい乳房から顔をつき離して言った。
「なぁ、ソラァ?俺は何をしていたか、まったく記憶にねぇんだ。」
「仕方ないわ、気を失っていたからね。
可哀想にーーーー
ちょっとぉ、どうしたの?まだ寝ていなくちゃ。」
ウミは立ち上がり、照明を点けて部屋を歩き回る。
ガラスのテーブルに折り畳まれた用紙を発見した。
「こ、これは?」
マップを手にとる。
「それはね、ウミの浴衣の帯に挟んであったの。
本来は従業員以外には見せちゃいけないマップなんだって。
これについても、かつらちゃんが言ってたよぉ。」
背後にいるソラはウミの背中に乳房を押し付け耳に息を吹きかけた。
「ねぇ~ウミ。」
甘ったるい声でゆっくりウミの固く結ばれた浴衣の帯を外していく。
「今夜は夫婦水入らずだよぉ。」
失った記憶を探すウミはソラの話など耳に入らず、青い髪を掻きむしり頭を抱えた。
「離してくれ!」
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