【完結】前略、閻魔さま~六道さんで逢いましょう~

渡邊 香梨

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第一章 カミモホトケモ

形代

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 近くに住んでいるからと行って、立ち寄ったことがあるとは限らないと言うのは、京都に住んでいる者にとっては、割に「あるある」な話だと思う。

 菜穂子自身、遊びに来た大学の友達に頼まれるまで、金閣寺も大原も二条城も行ったことがなかった。

 京都出身に京都を案内しろと言うのは、往々にして無茶ぶりになる場合もある。

 安井金毘羅宮にしても、今まで「縁切り」を願うようなことがなかったこともあって、これまで足を踏み入れたことがなかったのだ。

 徒歩圏内、清水寺や八坂神社、六道珍皇寺には行ったことがあっても……である。

 割に街中にあることもあってか、安井金毘羅宮の入口はそれほど大きくない。

 鳥居をくぐらなければ、喪中でも大丈夫……と言うのは、都市伝説的なただの噂らしいと最近知ったものの、通らなくて済むならそうしようかと何となく思っていた。

 ただ、東大路通りに面した神社の入口は、真横に灯篭があるなどしていて、どう見ても避けて進むことは難しそうな構造だ。

(うーん……神様、ごめんなさい。どうしても悪縁切りしてから、おばあちゃんに会いたいので勘弁して下さい)

 菜穂子は内心でそう呟いてから、鳥居に向かってぺこりと一礼して、境内へと足を踏み入れた。

 市内の神社と言うこともあって、本殿にはあっと言う間に辿り着く。

 視界の端に、真っ白い、蹲った雪男イエティかとでも言うような物体が映っているものの、何にせよまずは本殿参拝。

 しっかりと「切りたい縁・結びたい縁」を願えとあったので、それに倣っておく。

 先に来ていた参拝客の女性が、菜穂子が手を合わせた後もまだ何か祈っていて、一瞬背筋が寒くなった。
 きっと菜穂子以上に切りたい縁があるんだろう。

 そう思うと、自分のケースがひどく軽いもののように思えてくるのだが、それはそれで、縁が切れた効果なのかもと知れないと、前向きに捉えるようにしておこうと思う。

 本殿横に絵馬を掛けるところもあるが、チラッと見ただけでも、他の神社とは一線を画す内容が書かれているものもある。

(あ……あそこまでじゃなくてもいいかな、うん)

 とは言え、手を合わせて帰るだけというのも今ひとつスッキリとはしないので、菜穂子自身は本殿側のテーブルにあった「形代かたしろ」に、願いを書いて貼り付けておくことにした。

 ……一枚形代を手にして思う。

 なるほど、これを参拝客のほとんどが糊で貼り付けていくから、境内の石が蹲った雪男イエティの如く膨れ上がったわけだ。

 石の傍には「縁切り縁結び碑」と書かれた立て札があり、石には人ひとりがようやく通れるほどの穴が開いている。

 よく見れば参拝作法も書いてあり、菜穂子もそれに倣うことにした。

 切りたい縁と結びたい縁を形代に書き、それを手にして、願い事を念じながらまずは表(手前)から裏へとくぐり、その後同じように形代を持ったまま、今度は裏から表へとくぐるらしい。

 最後、その大石――「縁切り縁結び碑」に、糊で形代を貼り付けて参拝は終了のようだ。

(うん、二股男にバチがあたれとは言わないけど、アイツと後輩が悔しがるような彼氏をどうか紹介して下さい!)



 一陣の風が吹き抜けていったのは、神様が願いを聞き届けてくれた……ということにしておこう。
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