【完結】前略、閻魔さま~六道さんで逢いましょう~

渡邊 香梨

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第三章 うたかた歌

この世とあの世をつなぐ場所(1)

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「ほんで、ちゃんと鐘つけたんかいな」

 多分以前に祖母から、音が小さかったと言って泣いていた話を聞いたことがあるのかも知れない。

 帰宅するなり、そう聞いてきた父親に菜穂子は苦笑いを見せた。

「まあ、さすがにこの年齢としになったら、あの頃よりもうちょっと音は出たよ」
「そうか」
「そやけど、お参りの順番間違まちごうたわ」

 鐘をつくよりも先に水塔婆を納めてしまったと正直に暴露した菜穂子に、案の定父は「まあ、ええんと違うか」と笑った。

「要はお参りして、鐘ついて来た――言うことで」

 要は気持ち。

 それは菜穂子が小さかった頃から、祖父母も両親も、何ならお上人しょうにんさんも何度も口にしている。

「ええんかな」
「ええやろ」

 そこに、お風呂の準備をして奥から出てきた母も「そうやな」と、相槌をうった。

「あかんかっても、帰って来はったご先祖さんに『あほか』言うて笑われるか、おじいちゃんに『仕方がないヤツだなしゃぁないやっちゃな』言われるか、どっちかやわ』

「う……」

 まさに境内で菜穂子が思っていたことを言い当てられて、思わず口ごもってしまう。

「まあ、深町家ウチとしては13日にお上人しょうにんさんに来て貰っもろて、お仏壇の前できちんとお盆供養して貰うんやさかいに、必要以上に気にせんでも、どうもないわ」

「せや。そもそも、水塔婆かて毎年納めてるわけやないからな」

 父も隣で頷いている。

「……そっか」

「鐘が鳴らへんかった言うて泣いたり、お参りの順番間違まちごうた言うたり、今ごろ本当ほんまに『仕方がないヤツだなしゃぁないやっちゃな』言われてるえ」

 ……うん、言われてそうだ。

「もう、お風呂入って早よ寝よし。どうせ東京むこうにいる間は夜更かしばっかりしてるんやろ。もうちょっと健康的な生活した方がええわ」

 母にそう言われたところで、話も潮時かと思ったから、菜穂子は若宮八幡宮の鏡の話はしなかったのだ。

 決して馬鹿にされそうだと思ったからじゃない。
 多分。
 
 両親の思う夜更かしと、菜穂子の思う夜更かしとには何時間もの時間差があるとは思ったものの、ここは実家。

 そんなこんなで、菜穂子は戻って早々に布団をかぶることになったのだ。




.゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚.゚*。:゚ .゚*。:゚ .゚*。:゚*。




 あの世とこの世をつなぐ場所、と言われているところは実は一ヶ所ではない。
 
 青森の恐山、出雲の黄泉比良坂よもつひらさかなどなど京の都以外にも複数の場所が存在をしている。

 京都だけをとってみても、平安京の外側、一条戻橋もどりばしや鞍馬といった場所でそれぞれの言い伝えを持っていた。

 六道珍皇寺の「冥土通いの井戸」「黄泉がえりの井戸」も、あくまで複数ある「この世とあの世をつなぐ」場所の一つなのだろう。

 出入口は複数あるにしても、例えば小野篁がどうやって冥府にまで行っていたのかと言う菜穂子のイメージは、何かのイラストか絵本かで見た、伊邪那岐命イザナギノミコト黄泉比良坂よもつひらさかを行き来したイメージの方が、むしろ近かった。

 その先に三途の川や賽の河原があって、死後裁判を受ける閻魔の庁があるんだろうな――と言うイメージだ。

 普段はそんなことを考えて眠るわけでもないのに、結果的にそうなっているのは、ついさっきまで「六道まいり」に行っていたせいだろう。

 おかしな夢を見ないといいなと思いながら、うつらうつらと睡魔に身を委ねる。




『――ああ、大丈夫ですよ。この時期に会うとしたら、大抵ご先祖さんでしょうから』

(⁉)

 だから、まさかそんな思いもしない声が頭の中に聞こえてくるとは、菜穂子は思いもしなかったのだ。
 
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