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第一部 宰相家の居候
【宰相Side】エドヴァルドの邂逅(前)
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※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
レイナが「夜這い除け」に実験してみようと言いだしたらしい、害獣を吹き飛ばすための風魔法が込められた、農業用の罠の魔道具は、ギーレンの王宮滞在初日の夜に、仕掛けた側も忍び込もうとしたらしい側も、双方が驚愕すると言う矛盾した事態を引き起こした。
「ちょっと…持って来たのが大型の害獣用だったのが効果ありすぎましたかね……」
手引きをしようとしていたらしい侍女が、私にあてがわれていた部屋の扉から、遠く離れた廊下の向こうに吹き飛ばされ、飾られていた花瓶が破壊されている――と、部屋の扉を開けて、遠くを眺める仕種をしながらフィトが呟いた。
「……いや。まあ、ふざけた事をするなと主張する意味では、ちょうど良いのかも知れんな」
本人は命じられただけなのかも知れないが、それでも怪我をしたかも知れない侍女に同情するつもりは更々ない。
滞在客を不快にさせる様な使用人など、例え公爵邸の使用人だったとしても即刻クビにする案件だ。
「あ、この罠、三回までは一度の魔力込めで発動するらしいんですよ。大抵の害獣は、二回吹っ飛ばされれば学習するだろうって事で、プラス一回。なのであと二回はこのままでも大丈夫ですね」
フィトはさも何でもない事のように、廊下の向こうを見たまま言葉を続けている。
「その後はもう、使い切りで交換が必要になるって、譲って貰った農家のオヤジさんからは聞きました。安い罠だと、見える形でしか設置しておけないらしいですけど、借りて来たのは〝隠形〟の魔力が併せて仕込まれている、ちょっと割高なヤツですから、置けば廊下の色と同化して、見えなくなりますよ。お館様が部屋を出る時には、脇に避けますから、俺かナシオに声かけて下さいね」
何でも、ある一定の角度からだけは、罠の設置後でも触れられる様になっているらしく、それで仕掛けた罠のスイッチを一度切る事が出来るらしい。
「………理解した」
「いやあ、王宮でも使えますよ、コレ!昨今、国王陛下への突撃を試みるような勇気のあるご令嬢はいませんけれど、普通に警備面からでも使えますね!戻ったら早速管理部の連中に声をかけてみます。このままなり、改良なり、彼らならより良い方向に昇華させてくれる筈です」
答えに一瞬間が開いた私をよそに、アンジェスの王宮護衛騎士であるノーイェル始め、他の連中は皆、感心する事しきりだ。
この時になってようやく、ギーレン王宮内の警備担当者がこちらへと駆けつけて来たが、私は「部屋の扉をノックもせず開けようとした使用人がいたので、私の護衛が刺客か賊かと勘違いして、うっかり投げ飛ばしてしまったようだ」と、見るからに嘘と分かる言い訳を押し通しておいた。
エドベリ王子なりベルトルド国王なりが聞けば、夜這いで既成事実を目論んだ誰かの為に手引きをした事が看破されたのだと、すぐに気が付くだろう。
怪我に抗議をすれば、自分達がした事に対しても責められる事が分かりきっているため、恐らくは何の抗議もしてこない筈だと私は思い、事実、翌朝になっても、誰も何も言ってこなかった。
「イデオン宰相殿は、今日はナリスヴァーラ城の方へとお連れしよう。聖女殿はこの王宮に引き続き滞在して貰って、今日は王都周辺の観光、明日は午後からこちらの当代〝扉の守護者〟や、彼の体調管理を担っている、王立植物園の研究施設の室長などと会って、交流を図って貰うつもりだ」
朝食の席でベルトルド国王は、夜中の騒ぎを知っているだろうに、何事もなかったかのように、そんな事を口にした。
女性は女性同士、後宮にあるダイニングで食事をとると言う事で、この場には今、ベルトルド国王とエドベリ王子と私しかいない状況だった。
「イデオン宰相殿も、引き続きナリスヴァーラ城に滞在されると良いが、明日は聖女殿に同席されては如何かな」
「……我々と交流出来る程に貴国の〝扉の守護者〟殿の体調が回復しておいでなら、もう〝扉〟の揺らぎとやらも修繕可能なのでは?」
返す言葉で私がベルトルド国王の話を切って捨てると、国王のこめかみが僅かに痙攣った様だった。
「い、いや、ようやく身体を起こせるようになった程度なので、まだ完全な回復とは言えんのだが、いずれ聖女殿にも起こり得る症状やも知れんし、医師や室長から話を聞くのも後学の為になるだろうと思ってな」
あくまでまだ〝扉〟は使えない風を装っておきたいらしい。
私もまだ強硬手段に訴えるには、手札が足りないのも確かなため、ここは「そうですか」と答えるしかない。
「それにしても、医師は分かりますが、植物園の研究施設の室長とは、どういった関係が?」
私が〝扉〟から話題を逸らした事に、国王は明らかにホッとした表情を見せた。
「あ、ああ。王立植物園自体は一般開放もしているが、その実、国の内外で薬草と呼ばれる植物の多くを栽培研究している、国にとっての重要な施設も抱えているのだ。そこの室長は、侯爵相当の権威があり、王宮のお抱え医師に卸す薬の原材料の多くを担っている。話をしておいても損はないと思うのだ」
「それは……」
口惜しくはあるが、確かに話はしておきたい相手であるように思えた。
「……そうですね。それは私もぜひ、同席をさせていただければと」
「うむ、もちろんだ。とは言えあの男は研究馬鹿と言ってもいい男で、施設から出る事がほとんどない。研究研究で王宮への呼び出しに応じたのは、室長就任時の一度だけ。エドベリに至っては顔も見た事がない筈だ。ただし今回は〝扉の守護者〟が体調を崩していると伝えてあるから、拒否権がない。室長の都合が良い時間が分かり次第、ナリスヴァーラ城の方に遣いをやるつもりだ」
「いえ。人的遣いなら、派遣していただかずとも結構です。それでしたら午後、早いうちにこちらから参らせて頂きますので、時間が合わないようでしたら、一足先に〝扉の守護者〟の方や医師と話をさせて下さい。そこで待たせて頂きます」
「……っ」
使者と称して例の子爵令嬢に押しかけられでもしたら、面倒な事この上ない。
そんな内心を、分かるようにチラつかせながら釘を刺すと、明らかに国王は言い淀んだ。
勝手に押しかけて待つと言っているようなもので、貴族の作法としては、実際には無作法の誹りを免れ得ないのだが、この場合、裏で余計な事を目論んでいた、国王とエドベリ王子の方が分が悪い筈で、その通りに、彼らはそれ以上強くは出られなかった。
「そ、そうか。まあ、王都近郊と言っても、ナリスヴァーラ城も馬車で20分ほどはかかるしな。使者の負担になるやも知れんし、では宰相殿の仰る通りにさせて貰おう」
使者の負担などと、本来は気遣いもしないだろうに、この場ではそう言わざるを得なかったのだろう。
国王が発言をする以上、エドベリ王子は話を振られない限りは無言を貫くしかないのだが、かなり苛立たしげな表情を見せている事だけは、こちらからでも窺い知れた。
自分はボードリエ伯爵令嬢に強い執着を見せて、国境まで超えて来ている割に、他人が一人の女性に目を向けて、他に見向きもしないと言う可能性にはまるで思い至らないのだろうか。
実務能力はあるのかも知れないが、少しは我が身を振り返れと言ってやりたい。
「イデオン宰相は、もうすぐにナリスヴァーラ城に向かうかね?」
エドベリ王子が纏う空気に気付いているのかいないのか、話を切り上げようとしてきた国王に、私はゆっくりと首を横に振った。
「いえ。相続権放棄に関して、以前より何度か手紙のやり取りをしていた事務弁護士の所に立ち寄ってからにしたいと思っています。改めて、現法律での宣誓書を出して貰って、署名をしませんと」
「そ…れは……」
そしてこの話にも、二人はやはり顔を痙攣らせた。
「ま、まずは城に行ってからにすればどうだろうか?実際の城を見たら、気が変わるやも知れんだろう」
「いえ。私はこの地に根を下ろすつもりはありませんし、醜聞を持つ親族の籍を今更戻したいとも思いません。眠っていた話が面白おかしく掘り返されるだけでしょうから、むしろ不利益しか感じません」
どのみち、容易く放棄させないよう、弁護士の方に圧力がかかるに違いないのだから、最初の内に旗色は明確にしておくべきだろう。
「ナリスヴァーラ城自体は、歴史のある建造物であると聞き及んでいます。観光資源として一般開放したり、その財源で周辺地域の保全活動を行う方が余程健全でしょうし、陛下の御名も国の内外にまで轟く事でしょう」
レイナの居た国では「ナショナル・トラスト」と呼ばれているらしい。
廃れたり取り潰されたりした貴族階級の有する歴史的建物や土地などが、手入れをされなくなって荒れ果てていく状況を憂いた地域住民の有志が、それらを買い上げ、更に次世代に伝えていくために管理・保全していく活動の事を指すのだそうだ。
保全された環境を二次的な商品として利用し、そこから得られる産品で収益事業を行い、維持にかかるコストを賄おうと言う発想の下に広がった概念だと言う事だった。
相続権放棄を渋られたら、その考え方を主張してみたらどうかと、出発前に教えてくれていた事が、まさか本当に活かされようとは。
「保全活動……」
ベルトルド国王もエドベリ王子も、反論の取っ掛かりが掴めないと言わんばかりに、口を噤んだ。
――これで少しでも、手続きの引き延ばしを思いとどまってくれれば良いのだが。
レイナが「夜這い除け」に実験してみようと言いだしたらしい、害獣を吹き飛ばすための風魔法が込められた、農業用の罠の魔道具は、ギーレンの王宮滞在初日の夜に、仕掛けた側も忍び込もうとしたらしい側も、双方が驚愕すると言う矛盾した事態を引き起こした。
「ちょっと…持って来たのが大型の害獣用だったのが効果ありすぎましたかね……」
手引きをしようとしていたらしい侍女が、私にあてがわれていた部屋の扉から、遠く離れた廊下の向こうに吹き飛ばされ、飾られていた花瓶が破壊されている――と、部屋の扉を開けて、遠くを眺める仕種をしながらフィトが呟いた。
「……いや。まあ、ふざけた事をするなと主張する意味では、ちょうど良いのかも知れんな」
本人は命じられただけなのかも知れないが、それでも怪我をしたかも知れない侍女に同情するつもりは更々ない。
滞在客を不快にさせる様な使用人など、例え公爵邸の使用人だったとしても即刻クビにする案件だ。
「あ、この罠、三回までは一度の魔力込めで発動するらしいんですよ。大抵の害獣は、二回吹っ飛ばされれば学習するだろうって事で、プラス一回。なのであと二回はこのままでも大丈夫ですね」
フィトはさも何でもない事のように、廊下の向こうを見たまま言葉を続けている。
「その後はもう、使い切りで交換が必要になるって、譲って貰った農家のオヤジさんからは聞きました。安い罠だと、見える形でしか設置しておけないらしいですけど、借りて来たのは〝隠形〟の魔力が併せて仕込まれている、ちょっと割高なヤツですから、置けば廊下の色と同化して、見えなくなりますよ。お館様が部屋を出る時には、脇に避けますから、俺かナシオに声かけて下さいね」
何でも、ある一定の角度からだけは、罠の設置後でも触れられる様になっているらしく、それで仕掛けた罠のスイッチを一度切る事が出来るらしい。
「………理解した」
「いやあ、王宮でも使えますよ、コレ!昨今、国王陛下への突撃を試みるような勇気のあるご令嬢はいませんけれど、普通に警備面からでも使えますね!戻ったら早速管理部の連中に声をかけてみます。このままなり、改良なり、彼らならより良い方向に昇華させてくれる筈です」
答えに一瞬間が開いた私をよそに、アンジェスの王宮護衛騎士であるノーイェル始め、他の連中は皆、感心する事しきりだ。
この時になってようやく、ギーレン王宮内の警備担当者がこちらへと駆けつけて来たが、私は「部屋の扉をノックもせず開けようとした使用人がいたので、私の護衛が刺客か賊かと勘違いして、うっかり投げ飛ばしてしまったようだ」と、見るからに嘘と分かる言い訳を押し通しておいた。
エドベリ王子なりベルトルド国王なりが聞けば、夜這いで既成事実を目論んだ誰かの為に手引きをした事が看破されたのだと、すぐに気が付くだろう。
怪我に抗議をすれば、自分達がした事に対しても責められる事が分かりきっているため、恐らくは何の抗議もしてこない筈だと私は思い、事実、翌朝になっても、誰も何も言ってこなかった。
「イデオン宰相殿は、今日はナリスヴァーラ城の方へとお連れしよう。聖女殿はこの王宮に引き続き滞在して貰って、今日は王都周辺の観光、明日は午後からこちらの当代〝扉の守護者〟や、彼の体調管理を担っている、王立植物園の研究施設の室長などと会って、交流を図って貰うつもりだ」
朝食の席でベルトルド国王は、夜中の騒ぎを知っているだろうに、何事もなかったかのように、そんな事を口にした。
女性は女性同士、後宮にあるダイニングで食事をとると言う事で、この場には今、ベルトルド国王とエドベリ王子と私しかいない状況だった。
「イデオン宰相殿も、引き続きナリスヴァーラ城に滞在されると良いが、明日は聖女殿に同席されては如何かな」
「……我々と交流出来る程に貴国の〝扉の守護者〟殿の体調が回復しておいでなら、もう〝扉〟の揺らぎとやらも修繕可能なのでは?」
返す言葉で私がベルトルド国王の話を切って捨てると、国王のこめかみが僅かに痙攣った様だった。
「い、いや、ようやく身体を起こせるようになった程度なので、まだ完全な回復とは言えんのだが、いずれ聖女殿にも起こり得る症状やも知れんし、医師や室長から話を聞くのも後学の為になるだろうと思ってな」
あくまでまだ〝扉〟は使えない風を装っておきたいらしい。
私もまだ強硬手段に訴えるには、手札が足りないのも確かなため、ここは「そうですか」と答えるしかない。
「それにしても、医師は分かりますが、植物園の研究施設の室長とは、どういった関係が?」
私が〝扉〟から話題を逸らした事に、国王は明らかにホッとした表情を見せた。
「あ、ああ。王立植物園自体は一般開放もしているが、その実、国の内外で薬草と呼ばれる植物の多くを栽培研究している、国にとっての重要な施設も抱えているのだ。そこの室長は、侯爵相当の権威があり、王宮のお抱え医師に卸す薬の原材料の多くを担っている。話をしておいても損はないと思うのだ」
「それは……」
口惜しくはあるが、確かに話はしておきたい相手であるように思えた。
「……そうですね。それは私もぜひ、同席をさせていただければと」
「うむ、もちろんだ。とは言えあの男は研究馬鹿と言ってもいい男で、施設から出る事がほとんどない。研究研究で王宮への呼び出しに応じたのは、室長就任時の一度だけ。エドベリに至っては顔も見た事がない筈だ。ただし今回は〝扉の守護者〟が体調を崩していると伝えてあるから、拒否権がない。室長の都合が良い時間が分かり次第、ナリスヴァーラ城の方に遣いをやるつもりだ」
「いえ。人的遣いなら、派遣していただかずとも結構です。それでしたら午後、早いうちにこちらから参らせて頂きますので、時間が合わないようでしたら、一足先に〝扉の守護者〟の方や医師と話をさせて下さい。そこで待たせて頂きます」
「……っ」
使者と称して例の子爵令嬢に押しかけられでもしたら、面倒な事この上ない。
そんな内心を、分かるようにチラつかせながら釘を刺すと、明らかに国王は言い淀んだ。
勝手に押しかけて待つと言っているようなもので、貴族の作法としては、実際には無作法の誹りを免れ得ないのだが、この場合、裏で余計な事を目論んでいた、国王とエドベリ王子の方が分が悪い筈で、その通りに、彼らはそれ以上強くは出られなかった。
「そ、そうか。まあ、王都近郊と言っても、ナリスヴァーラ城も馬車で20分ほどはかかるしな。使者の負担になるやも知れんし、では宰相殿の仰る通りにさせて貰おう」
使者の負担などと、本来は気遣いもしないだろうに、この場ではそう言わざるを得なかったのだろう。
国王が発言をする以上、エドベリ王子は話を振られない限りは無言を貫くしかないのだが、かなり苛立たしげな表情を見せている事だけは、こちらからでも窺い知れた。
自分はボードリエ伯爵令嬢に強い執着を見せて、国境まで超えて来ている割に、他人が一人の女性に目を向けて、他に見向きもしないと言う可能性にはまるで思い至らないのだろうか。
実務能力はあるのかも知れないが、少しは我が身を振り返れと言ってやりたい。
「イデオン宰相は、もうすぐにナリスヴァーラ城に向かうかね?」
エドベリ王子が纏う空気に気付いているのかいないのか、話を切り上げようとしてきた国王に、私はゆっくりと首を横に振った。
「いえ。相続権放棄に関して、以前より何度か手紙のやり取りをしていた事務弁護士の所に立ち寄ってからにしたいと思っています。改めて、現法律での宣誓書を出して貰って、署名をしませんと」
「そ…れは……」
そしてこの話にも、二人はやはり顔を痙攣らせた。
「ま、まずは城に行ってからにすればどうだろうか?実際の城を見たら、気が変わるやも知れんだろう」
「いえ。私はこの地に根を下ろすつもりはありませんし、醜聞を持つ親族の籍を今更戻したいとも思いません。眠っていた話が面白おかしく掘り返されるだけでしょうから、むしろ不利益しか感じません」
どのみち、容易く放棄させないよう、弁護士の方に圧力がかかるに違いないのだから、最初の内に旗色は明確にしておくべきだろう。
「ナリスヴァーラ城自体は、歴史のある建造物であると聞き及んでいます。観光資源として一般開放したり、その財源で周辺地域の保全活動を行う方が余程健全でしょうし、陛下の御名も国の内外にまで轟く事でしょう」
レイナの居た国では「ナショナル・トラスト」と呼ばれているらしい。
廃れたり取り潰されたりした貴族階級の有する歴史的建物や土地などが、手入れをされなくなって荒れ果てていく状況を憂いた地域住民の有志が、それらを買い上げ、更に次世代に伝えていくために管理・保全していく活動の事を指すのだそうだ。
保全された環境を二次的な商品として利用し、そこから得られる産品で収益事業を行い、維持にかかるコストを賄おうと言う発想の下に広がった概念だと言う事だった。
相続権放棄を渋られたら、その考え方を主張してみたらどうかと、出発前に教えてくれていた事が、まさか本当に活かされようとは。
「保全活動……」
ベルトルド国王もエドベリ王子も、反論の取っ掛かりが掴めないと言わんばかりに、口を噤んだ。
――これで少しでも、手続きの引き延ばしを思いとどまってくれれば良いのだが。
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