聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?

渡邊 香梨

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第二部 宰相閣下の謹慎事情

319 魔王サマ、お考え直し下さいっ!

※1日複数話更新です。お気を付け下さい。

「いずれにしても、今はまだ、仮の話でしかないので、夕食会の後でもう一度、皆でこの話は」

 結局エドヴァルド主導で、私はバリエンダールに行かないと言う結論で話は切られてしまい、それと察したっぽいアンディション侯爵も、軽く肩をすくめただけだった。

「まあ確かに、起きてもいない事態を前提に話を進めるのもおかしな事だしな。概ね、今の状況は理解したとも。それで良かろう?」

「充分です。侯におかれては、夕食会まで今しばらくこちらでお待ち下さいますか。私と彼女はフォルシアン公爵夫妻と令息に、少し時間が欲しいと言われているので」

「そう言えば、何やら謁見の間でそんな話をしておったな。構わんよ。時間まで、さっきの副官から其方の武勇伝でも聞いておくとするか」

 エドヴァルドがイヤそうに眉を顰めているのは私にも分かったけど、シモンに釘を刺したところで、宰相副官の地位で元王族に逆らえる筈もない。

 そこはスルーするしかないと諦めたみたいで、すぐさま「それほど長い時間ではありません」と、さりげなく予防線は張っていた。

「じきにボードリエ伯爵令嬢がここへ来ます。レイナがいる前提でここへ案内するよう騎士には通達してあったのですが、フォルシアン公との話が出来ましたので。申し訳ありませんが、侯にはボードリエ伯爵令嬢のエスコートをお願いしても?」

 アンディション侯爵の方も、シャルリーヌの名前には思わずと言ったていで相好を崩していた。

「そう言う事なら、構わんよ。知らぬご令嬢でもないからな」

 シャルリーヌにも、謁見の間の「三文芝居」な出来事の事は先に話しておきたかったけど、建前として、私がフォルシアン公爵令息からの「礼」を受け取る必要は、どうしてもあるらしい。建前大事。

「では、後ほど夕食会でまた。――レイナ」

 エドヴァルドにエスコートの為の手を差し出され、慣れと言うよりは半ば条件反射で手を差し出すと、あっと言う間にソファからは引き上げられ、曲げた肘の内側に手を乗せた、礼儀作法マナー通りのエスコートの形に変わっていた。

「この方が至近距離で話が出来る」
「あ…はは……」

 気分は荷馬車に乗せられた仔牛。
 あの歌って、思ったより秀逸だなー…なんて、どうでも良い事を思っていないと、エドヴァルドの隣を素で歩けそうにはなかった。

 初日こそ私への嫉妬(?)に溢れていた、忠犬1号こと副官シモン青年も、近頃では気のせいか視線が同情的な気がする。

 執務室の方には、ベルセリウス将軍とウルリック副長も待機をしていた。

「二人はこの後、アンディション侯爵とボードリエ伯爵令嬢の護衛を兼ねて、共に夕食会に来てくれ。私はレイナ共々、フォルシアン公爵にまだ用がある。そちらはファルコに付き添わせる。残りはサレステーデからのの動向に気を配るよう、人を散らせろ」

 淡々としているようで、逆らい難い空気をそこに感じたんだろう。
 将軍も副長も、無言で頭を下げた。

 廊下に出るとファルコがいたので、私が思わずキッと睨むと、ファルコは人差し指でわざとらしく頬を掻きながら、明後日の方向に視線を逸らしていた。

(いやいや、あのな⁉︎頼まれて調べただけの巻き込まれで、猛吹雪で氷漬けにされるのはごめんだっつーの!自分で説明しろ!蒔いた種は自分で刈り取れ!だからとっととお館様には報告しろっつったろ⁉︎)

 …謎の魔道具越し、エドヴァルドには聞こえていないっぽいけど。
 そう言われると、ぐうの音も出ません。ハイ。

「レイナ」

「……ハイ」

「ファルコにサレステーデの内情を調べさせていたのか」

「えーっと…直接の伝手が無いとは聞いていたので、私の知っている『話』との齟齬だけでも分からないかな、と思いまして……」

「結果として、正妃の不貞疑惑に突き当たったと?」

「……その、私がそれを聞いたのも、アンディション侯爵様と宰相室に向かう途中だったので、意図的に黙っていた訳ではないと言うか……」

 言いながらも、声が小さくなる。

 ソウデスネ。結果を待ってから報告…じゃなくて、調べるよう頼んだ事そのものを先に言えってコトですよね。スミマセン。

「私が言いたい事には気が付いたようだな」

「……ハイ」

「もしも、調べさせていた事そのものを誰かに勘付かれて、狙われでもしたらどうするつもりだったんだ。知られたかどうかより、自分達が目をつけられた事自体が問題だとでも思われていたら、私の知らないところで事態が動く可能性だってあった筈だ」

「……そう、ですね……」

 気持ち斜め前に視線を落としたまま歩く私に、エドヴァルドは微かな溜息を溢した。

「これは一晩では足りないのか……?」

「⁉︎」

 え、何か今恐ろしいセリフが聞こえた気がするんですけど⁉︎

「あああっ、あのっ、エ――閣下⁉︎」

「レイナ」

「はいっ」

 エドヴァルドが足を止めたので思わず顔を上げると、フォルシアン公爵のいる部屋に来たのか、そこは既に扉の前だった。

「どうやら再検討が必要なようだな――

「いや…その…あの……」

 そしてこちらには何か言う隙を与えないまま、エドヴァルドは扉の前にいた騎士に軽く頷いて、中の人間に来訪を告げるよう合図を出していた。

 こちらに何も言わせないタイミングを、まるで図っていたかの様だった。

「不貞疑惑云々の話は、夕食会後までは少なくとも伏せておいてくれるか。アンディション侯爵は、正式に特使に任じられるまでは、自分からは何も仰らない筈だ」

「……わ、分かりました。この扉の先では話題にしないと言う事ですよね?」

「そこまで察せられるのに、どうして肝心なところで自重出来ないんだ……」

 ――視界の端のファルコは、頷いてるだけでフォローしてくれる気はカケラもないみたいだし。

 絶対どこかで楯にして巻き込んでやろうと、私は密かに決意した。

「忙しいところ済まない、イデオン公。妻と息子は中にいる。入ってくれ」

 私がぐるぐると色んな事を考えている間にも、扉は開いて、何とフォルシアン公爵自らお出迎えと言う、礼儀作法マナーに則らない状況に陥ってしまっていた。

「えっと…腕は、このまま…?」

 見上げればエドヴァルドが「ああ」と頷いた

「その方がユセフにも分かりやすい」
「そ…そうですか」

 哀しいかな今の私には、何の拒否権もないみたいだった。
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