226 / 790
第二部 宰相閣下の謹慎事情
319 魔王サマ、お考え直し下さいっ!
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
「いずれにしても、今はまだ、仮の話でしかないので、夕食会の後でもう一度、皆でこの話は」
結局エドヴァルド主導で、私はバリエンダールに行かないと言う結論で話は切られてしまい、それと察したっぽいアンディション侯爵も、軽く肩をすくめただけだった。
「まあ確かに、起きてもいない事態を前提に話を進めるのもおかしな事だしな。概ね、今の状況は理解したとも。それで良かろう?」
「充分です。侯におかれては、夕食会まで今しばらくこちらでお待ち下さいますか。私と彼女はフォルシアン公爵夫妻と令息に、少し時間が欲しいと言われているので」
「そう言えば、何やら謁見の間でそんな話をしておったな。構わんよ。時間まで、さっきの副官から其方の武勇伝でも聞いておくとするか」
エドヴァルドがイヤそうに眉を顰めているのは私にも分かったけど、シモンに釘を刺したところで、宰相副官の地位で元王族に逆らえる筈もない。
そこはスルーするしかないと諦めたみたいで、すぐさま「それほど長い時間ではありません」と、さりげなく予防線は張っていた。
「じきにボードリエ伯爵令嬢がここへ来ます。レイナがいる前提でここへ案内するよう騎士には通達してあったのですが、フォルシアン公との話が出来ましたので。申し訳ありませんが、侯にはボードリエ伯爵令嬢のエスコートをお願いしても?」
アンディション侯爵の方も、シャルリーヌの名前には思わずと言った態で相好を崩していた。
「そう言う事なら、構わんよ。知らぬご令嬢でもないからな」
シャルリーヌにも、謁見の間の「三文芝居」な出来事の事は先に話しておきたかったけど、建前として、私がフォルシアン公爵令息からの「礼」を受け取る必要は、どうしてもあるらしい。建前大事。
「では、後ほど夕食会でまた。――レイナ」
エドヴァルドにエスコートの為の手を差し出され、慣れと言うよりは半ば条件反射で手を差し出すと、あっと言う間にソファからは引き上げられ、曲げた肘の内側に手を乗せた、礼儀作法通りのエスコートの形に変わっていた。
「この方が至近距離で話が出来る」
「あ…はは……」
気分は荷馬車に乗せられた仔牛。
あの歌って、思ったより秀逸だなー…なんて、どうでも良い事を思っていないと、エドヴァルドの隣を素で歩けそうにはなかった。
初日こそ私への嫉妬(?)に溢れていた、忠犬1号こと副官シモン青年も、近頃では気のせいか視線が同情的な気がする。
執務室の方には、ベルセリウス将軍とウルリック副長も待機をしていた。
「二人はこの後、アンディション侯爵とボードリエ伯爵令嬢の護衛を兼ねて、共に夕食会に来てくれ。私はレイナ共々、フォルシアン公爵にまだ用がある。そちらはファルコに付き添わせる。残りはサレステーデからの正規客の動向に気を配るよう、人を散らせろ」
淡々としているようで、逆らい難い空気をそこに感じたんだろう。
将軍も副長も、無言で頭を下げた。
廊下に出るとファルコがいたので、私が思わずキッと睨むと、ファルコは人差し指でわざとらしく頬を掻きながら、明後日の方向に視線を逸らしていた。
(いやいや、あのな⁉︎頼まれて調べただけの巻き込まれで、猛吹雪で氷漬けにされるのはごめんだっつーの!自分で説明しろ!蒔いた種は自分で刈り取れ!だからとっととお館様には報告しろっつったろ⁉︎)
…謎の魔道具越し、エドヴァルドには聞こえていないっぽいけど。
そう言われると、ぐうの音も出ません。ハイ。
「レイナ」
「……ハイ」
「ファルコにサレステーデの内情を調べさせていたのか」
「えーっと…直接の伝手が無いとは聞いていたので、私の知っている『話』との齟齬だけでも分からないかな、と思いまして……」
「結果として、正妃の不貞疑惑に突き当たったと?」
「……その、私がそれを聞いたのも、アンディション侯爵様と宰相室に向かう途中だったので、意図的に黙っていた訳ではないと言うか……」
言いながらも、声が小さくなる。
ソウデスネ。結果を待ってから報告…じゃなくて、調べるよう頼んだ事そのものを先に言えってコトですよね。スミマセン。
「私が言いたい事には気が付いたようだな」
「……ハイ」
「もしも、調べさせていた事そのものを誰かに勘付かれて、狙われでもしたらどうするつもりだったんだ。知られたかどうかより、自分達が目をつけられた事自体が問題だとでも思われていたら、私の知らないところで事態が動く可能性だってあった筈だ」
「……そう、ですね……」
気持ち斜め前に視線を落としたまま歩く私に、エドヴァルドは微かな溜息を溢した。
「これは一晩では足りないのか……?」
「⁉︎」
え、何か今恐ろしいセリフが聞こえた気がするんですけど⁉︎
「あああっ、あのっ、エ――閣下⁉︎」
「レイナ」
「はいっ」
エドヴァルドが足を止めたので思わず顔を上げると、フォルシアン公爵のいる部屋に来たのか、そこは既に扉の前だった。
「どうやら再検討が必要なようだな――色々と」
「いや…その…あの……」
そしてこちらには何か言う隙を与えないまま、エドヴァルドは扉の前にいた騎士に軽く頷いて、中の人間に来訪を告げるよう合図を出していた。
こちらに何も言わせないタイミングを、まるで図っていたかの様だった。
「不貞疑惑云々の話は、夕食会後までは少なくとも伏せておいてくれるか。アンディション侯爵は、正式に特使に任じられるまでは、自分からは何も仰らない筈だ」
「……わ、分かりました。この扉の先では話題にしないと言う事ですよね?」
「そこまで察せられるのに、どうして肝心なところで自重出来ないんだ……」
――視界の端のファルコは、頷いてるだけでフォローしてくれる気はカケラもないみたいだし。
絶対どこかで楯にして巻き込んでやろうと、私は密かに決意した。
「忙しいところ済まない、イデオン公。妻と息子は中にいる。入ってくれ」
私がぐるぐると色んな事を考えている間にも、扉は開いて、何とフォルシアン公爵自らお出迎えと言う、礼儀作法に則らない状況に陥ってしまっていた。
「えっと…腕は、このまま…?」
見上げればエドヴァルドが「ああ」と頷いた
「その方がユセフにも分かりやすい」
「そ…そうですか」
哀しいかな今の私には、何の拒否権もないみたいだった。
「いずれにしても、今はまだ、仮の話でしかないので、夕食会の後でもう一度、皆でこの話は」
結局エドヴァルド主導で、私はバリエンダールに行かないと言う結論で話は切られてしまい、それと察したっぽいアンディション侯爵も、軽く肩をすくめただけだった。
「まあ確かに、起きてもいない事態を前提に話を進めるのもおかしな事だしな。概ね、今の状況は理解したとも。それで良かろう?」
「充分です。侯におかれては、夕食会まで今しばらくこちらでお待ち下さいますか。私と彼女はフォルシアン公爵夫妻と令息に、少し時間が欲しいと言われているので」
「そう言えば、何やら謁見の間でそんな話をしておったな。構わんよ。時間まで、さっきの副官から其方の武勇伝でも聞いておくとするか」
エドヴァルドがイヤそうに眉を顰めているのは私にも分かったけど、シモンに釘を刺したところで、宰相副官の地位で元王族に逆らえる筈もない。
そこはスルーするしかないと諦めたみたいで、すぐさま「それほど長い時間ではありません」と、さりげなく予防線は張っていた。
「じきにボードリエ伯爵令嬢がここへ来ます。レイナがいる前提でここへ案内するよう騎士には通達してあったのですが、フォルシアン公との話が出来ましたので。申し訳ありませんが、侯にはボードリエ伯爵令嬢のエスコートをお願いしても?」
アンディション侯爵の方も、シャルリーヌの名前には思わずと言った態で相好を崩していた。
「そう言う事なら、構わんよ。知らぬご令嬢でもないからな」
シャルリーヌにも、謁見の間の「三文芝居」な出来事の事は先に話しておきたかったけど、建前として、私がフォルシアン公爵令息からの「礼」を受け取る必要は、どうしてもあるらしい。建前大事。
「では、後ほど夕食会でまた。――レイナ」
エドヴァルドにエスコートの為の手を差し出され、慣れと言うよりは半ば条件反射で手を差し出すと、あっと言う間にソファからは引き上げられ、曲げた肘の内側に手を乗せた、礼儀作法通りのエスコートの形に変わっていた。
「この方が至近距離で話が出来る」
「あ…はは……」
気分は荷馬車に乗せられた仔牛。
あの歌って、思ったより秀逸だなー…なんて、どうでも良い事を思っていないと、エドヴァルドの隣を素で歩けそうにはなかった。
初日こそ私への嫉妬(?)に溢れていた、忠犬1号こと副官シモン青年も、近頃では気のせいか視線が同情的な気がする。
執務室の方には、ベルセリウス将軍とウルリック副長も待機をしていた。
「二人はこの後、アンディション侯爵とボードリエ伯爵令嬢の護衛を兼ねて、共に夕食会に来てくれ。私はレイナ共々、フォルシアン公爵にまだ用がある。そちらはファルコに付き添わせる。残りはサレステーデからの正規客の動向に気を配るよう、人を散らせろ」
淡々としているようで、逆らい難い空気をそこに感じたんだろう。
将軍も副長も、無言で頭を下げた。
廊下に出るとファルコがいたので、私が思わずキッと睨むと、ファルコは人差し指でわざとらしく頬を掻きながら、明後日の方向に視線を逸らしていた。
(いやいや、あのな⁉︎頼まれて調べただけの巻き込まれで、猛吹雪で氷漬けにされるのはごめんだっつーの!自分で説明しろ!蒔いた種は自分で刈り取れ!だからとっととお館様には報告しろっつったろ⁉︎)
…謎の魔道具越し、エドヴァルドには聞こえていないっぽいけど。
そう言われると、ぐうの音も出ません。ハイ。
「レイナ」
「……ハイ」
「ファルコにサレステーデの内情を調べさせていたのか」
「えーっと…直接の伝手が無いとは聞いていたので、私の知っている『話』との齟齬だけでも分からないかな、と思いまして……」
「結果として、正妃の不貞疑惑に突き当たったと?」
「……その、私がそれを聞いたのも、アンディション侯爵様と宰相室に向かう途中だったので、意図的に黙っていた訳ではないと言うか……」
言いながらも、声が小さくなる。
ソウデスネ。結果を待ってから報告…じゃなくて、調べるよう頼んだ事そのものを先に言えってコトですよね。スミマセン。
「私が言いたい事には気が付いたようだな」
「……ハイ」
「もしも、調べさせていた事そのものを誰かに勘付かれて、狙われでもしたらどうするつもりだったんだ。知られたかどうかより、自分達が目をつけられた事自体が問題だとでも思われていたら、私の知らないところで事態が動く可能性だってあった筈だ」
「……そう、ですね……」
気持ち斜め前に視線を落としたまま歩く私に、エドヴァルドは微かな溜息を溢した。
「これは一晩では足りないのか……?」
「⁉︎」
え、何か今恐ろしいセリフが聞こえた気がするんですけど⁉︎
「あああっ、あのっ、エ――閣下⁉︎」
「レイナ」
「はいっ」
エドヴァルドが足を止めたので思わず顔を上げると、フォルシアン公爵のいる部屋に来たのか、そこは既に扉の前だった。
「どうやら再検討が必要なようだな――色々と」
「いや…その…あの……」
そしてこちらには何か言う隙を与えないまま、エドヴァルドは扉の前にいた騎士に軽く頷いて、中の人間に来訪を告げるよう合図を出していた。
こちらに何も言わせないタイミングを、まるで図っていたかの様だった。
「不貞疑惑云々の話は、夕食会後までは少なくとも伏せておいてくれるか。アンディション侯爵は、正式に特使に任じられるまでは、自分からは何も仰らない筈だ」
「……わ、分かりました。この扉の先では話題にしないと言う事ですよね?」
「そこまで察せられるのに、どうして肝心なところで自重出来ないんだ……」
――視界の端のファルコは、頷いてるだけでフォローしてくれる気はカケラもないみたいだし。
絶対どこかで楯にして巻き込んでやろうと、私は密かに決意した。
「忙しいところ済まない、イデオン公。妻と息子は中にいる。入ってくれ」
私がぐるぐると色んな事を考えている間にも、扉は開いて、何とフォルシアン公爵自らお出迎えと言う、礼儀作法に則らない状況に陥ってしまっていた。
「えっと…腕は、このまま…?」
見上げればエドヴァルドが「ああ」と頷いた
「その方がユセフにも分かりやすい」
「そ…そうですか」
哀しいかな今の私には、何の拒否権もないみたいだった。
あなたにおすすめの小説
王太子に「戦友としか思えない」と言われたので、婚約を解消しました
明衣令央
恋愛
婚約者である王太子ヘンリーから「君のことは戦友としか思えない」と告げられた、公爵令嬢アリスティア。
十年以上の王妃教育を積んできた彼女は、静かに婚約解消を受け入れる。
一年後、幸せな結婚を迎えた彼女にとって、ヘンリーのその後は――もうどうでもいいことだった。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
離縁した元夫が毎日のように押しかけてきますが、もう私は辺境伯家の妻です
なつめ
恋愛
妹ばかりを優先する夫と、そんな夫を当然のように擁護する実家に、長年尽くしてきた侯爵夫人イリディア・レーヴェニア。
夫のため、家のため、妹のため。
そう言われるたびに自分を後回しにしてきた彼女は、ある日、流産をきっかけに悟る。
自分は妻ではなかった。
愛されていたのでも、守られていたのでもない。
ただ都合よく働き、黙って耐え、壊れても替えが利く“便利な駒”だったのだと。
離縁後、静養のため北の辺境を訪れたイリディアは、無愛想で寡黙な辺境伯セヴラード・ノルヴァイルと出会う。
豪奢ではない屋敷。
冷たい風の吹く土地。
けれどそこには、温かな食卓と、彼女の顔色を気にしてくれる使用人たちと、不器用ながら誠実に手を差し伸べる男がいた。
やがてイリディアはセヴラードと再婚し、ようやく穏やかな居場所を手に入れる。
しかし、彼女を失って初めてその価値に気づいた元夫は、毎日のように辺境伯家へ押しかけてくる。
妹は「姉だけ幸せになるなんて許せない」と彼女の新しい暮らしを壊そうとし、実家は「家のために戻れ」と迫る。
けれど、もうイリディアは戻らない。
これは、失うだけだった女が、自分の居場所を守るために立ち上がる物語。
血のつながりでも、婚姻の形でもなく、自分を大切にしてくれる場所こそが家なのだと知る物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
『彼を解放して!』とおっしゃいましたが、何から解放されたいのですか?
シエル
恋愛
「彼を解放してください!」
友人たちと教室に戻ろうとしていると、突如、知らない令嬢に呼び止められました。
「どなたかしら?」
なぜ、先ほどから私が問いかける度に驚いているのでしょう?
まるで「え!?私のこと知らないの!?」と言わんばかりですけれど、知りませんよ?
どうやら、『彼』とは私の婚約者のことのようです。
「解放して」とおっしゃっいましたが、私の目には何かに囚われているようには見えないのですが?
※ 中世ヨーロッパモデルの架空の世界
※ ご都合主義です。
※ 誤字、脱字、文章がおかしい箇所は気付いた際に修正しております。
「仕方ない」には疲れました ~三年続いた白い結婚を終わらせたら、辺境公爵の溺愛が待っていました~
ゆぷしろん
恋愛
「仕方ない」と白い結婚に耐え続けていた伯爵夫人エリス。
彼女の誕生日、夫は幼なじみのセシリアを屋敷に連れ帰り、エリスが大切にしてきた猫を彼女に見せろと言う。冷めた晩餐の前で心が折れたエリスは、ついに離縁を宣言し実家へ戻った。
彼女の薬草知識と領地経営の才は、北方を守る公爵ディートリヒが目を留める。流行り病に苦しむ公爵領を救うため奮闘するエリスは、初めて努力を認められ、大切に扱われる喜びを知っていく。一方で彼女を失った元夫の伯爵家は傾き、身勝手な幼なじみの嘘も暴かれて――。
我慢をやめた傷心令嬢が、辺境公爵に溺愛され、自分らしい幸せを選び直す逆転愛されファンタジー。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
「三番以下を取りなさい」と五年言われ続けたので、公開試験で本気を出しました
歩人
ファンタジー
王立魔法学院、入学時首席のリュシエンヌは、婚約者レイナルト公爵令息から五年間「女は三番以下を取れ」と命じられてきた。学院の序列は国家序列の縮図。レイナルトは常に一位に居続けた。婚約披露を控えた十九歳の春、レイナルトが新しい婚約者を連れて告げる。「お前では並び立てぬ。学力も身分も、足りなすぎる」——リュシエンヌは微笑んで、その翌日の年次公開試験で、五年封じてきた本気を出した。国王臨席の場で、史上最高点。魔法局長官が教授陣に命じる。「過去五年間の彼女の実測点と、もし本気で受けていたら出せた推計点を、公表したまえ」。教授陣は震える手で数字を並べた。レイナルトの「首席」は、全て彼女が譲った場所だった。