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第二部 宰相閣下の謹慎事情
328 ここはオペラ座でしたか
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
「ちょっ…何でシーグがここに――」
誰か事情を…と私が言いかけるよりも早く、更に別の声がそこに割って入って来た。
「おい、オッサン!シーグに無茶させんなっつってたろ⁉どう言うコトだよ‼」
「⁉」
まさかとも言えるし、やっぱりとも言える。
「リック……」
茫然とその名前を呟いた私に、隣のシャルリーヌも「えっ」と驚いて、声の主を振り返っていた。
「誰がオッサンだ、このガキンチョ!大事な大事な妹を蹴り飛ばしたヤツならココに転がしといたから、踏みつけるなり何なりすりゃ良いだろうが!殺す以外なら好きにしやがれ!」
「言われなくも、そうしてやるよ‼︎」
地に倒れ伏していた筈の男が一瞬呻き声を上げた気がしたけど、ファルコと入れ替わる様に、今度はリックが男の肩口を勢いよく蹴りつけていた。
こちらも、頭に手をやって剥ぎ取ったカツラを地面に投げ捨てていて、兄妹揃って誰かに変装していたのだと言う事を伺わせていた。
ちなみに後で聞いたところによると、肩口は、強打されると腕が動かなくなる部位らしい。
経絡マッサージが行き過ぎるとああなる、と言う事なんだろう。
「ああ…カツラなしで見れば、確かにリックだわ、あの子。ギーレン王宮で見た事あるし」
「そうね……で、向こうで倒れて呻いているのがシーグ、なんだけど……何でアンジェスにいるんだか……」
駆け寄って様子を確かめたいのは山々なんだけど、あちこちで怒号が飛び交っているこの状況下で、シーグのところに行くのは悪手だと、私でも分かる。
重度のシスコン、リックの様子から、命に別状はないんだろうと判断しておくしかない。
後で事情を聞くのもかねて、お見舞いに行くのは既定路線として。
それに怒号といっても、サレステーデが用意していたと思われる不審者たちは、既に全員が地に沈められていて、今は縛り上げられている途中の状態だ。
だからこそ、私とシャルリーヌもひそひそと言葉を交わせていた訳だけど、もっともな疑問に気付いたらしいファルコが「あー…」と、決まり悪げに自分の頭の後ろに右手をあてていた。
「お嬢さんは、説明は後な。とりあえず、お館様と合流してくれるか。多分さっきこの男が飛びかかったところで、俺が見えてたにしろ、足元凍らすか腹の中でマグマを煮えたぎらせるかしている筈だから」
「え……」
「マジでお館様、最近魔力のコントロール効いてねぇんだよ。誰かさんが色々と単語を家出させている所為で」
宰相として冷徹であれ、と長く己に言い聞かせて、それをものにしてきた分、表情や態度には出にくい代わりに、内から溢れ出る魔力が度々困った状況を引き起こしているらしい。
…って言うか「誰かさん」って、ファルコ、今更オブラートに包む意味ないと思う。
「だったら、その誰かさんにはアレコレ知らせなきゃ周りも平和なんじゃ?って話だったらしいが、そもそもサレステーデの内情を確認するよう、お館様よりも先にアンタが言い出してた時点で、こうなる様な気もしたんだよな。大体が、見て見ぬフリして平和に過ごせる性格してねぇんだし」
色々と悟られてるわね、と感心した呟きをシャルリーヌも洩らしている。
放っといて、と答える私の声は、多分、ちょっと詰まってた気がする。
「アンタの辞書から行方不明の単語が戻って来るのを待つより、お館様が管理部に弟子入りして魔術学ぶ方が早いんじゃねぇか?――と、個人的には思わなくもない」
シャルリーヌの表情に「行方不明の単語って何?」と、ありありと書いてあったけど、私は素知らぬフリを通した。
「まあ、その辺は当事者同士で話し合ってくれるか。く・れ・ぐ・れ・も〝鷹の眼〟を巻き込まない様に」
「……何もそんな強調しなくたって……」
「胸に手を当てろ!そもそも、アンジェスに帰ったら覚悟しておけって、お館様に言われてから『まだ』『何も』言われてない俺らが、いかに針の筵になってるか分かるか⁉ギーレン組全員、今回王宮で護衛騎士の倍働いて、帳消しにして貰おうって魂胆で躍起になってるんだからな!」
……そう言えば、そんな「死刑宣告」みたいな話もあったかも知れない。
「こ、今回はほら、そこの一番強そうなヒトをねじ伏せたんだし、きっとエドヴァルド様も――」
「――きっと私が、何だ」
「ぴゃっ⁉」
そこに割って入った声に、私は思わずおかしな声をあげていて、ファルコやシャルリーヌは、話していた状態のまま、表情が固まっていた。
「宰相……八つ当たりなら、サレステーデの馬鹿王族どもにしてくれるか。少なくとも、私やボードリエ伯爵令嬢を巻き込むな」
再び「魔王サマご降臨」状態のエドヴァルドの後ろから、呆れた様に国王陛下が付いて来ていた。
しれっと私の名前を省いている陛下、貴方も大概です。言えないけど。
「ボードリエ伯爵令嬢も災難だったな。姉君の余波で貴女も何も食べられていないのではないか?どのみち貴女にも、姉君と同様に事情を聞かなくてはならない。別室に食事を再度用意させよう」
「…え、ええ。そうですわね」
テーブルが二つに切断された状態なのだから、当然、そこにあった料理とて見る影もない。
公安長官が、テーブル費用はサレステーデに請求すると言っていたけど、料理代も上乗せして貰うべきだろうと、私もシャルリーヌも、多分この場では同じ事を考えていたと思う。
「――くそッ、離せ!僕は次期サレステーデ国王になる男だぞ!騎士風情が気安く触れて良い人間だと思っているのか!」
ざわつく「月神の間」の中、私とエドヴァルドの視線が合って、互いに口を開きかけたところで、お世辞にも上品とは言えない叫び声が、他の雑音を圧倒していた。
「……アレが国王になったら、一日で滅亡しそうですわ」
流石に国王陛下が近くにいる事を鑑みたのか、シャルリーヌの口調は伯爵令嬢としての口調だ。
――中身はお世辞にもご令嬢らしくない話だけど。
「……一日で滅亡してしまったら、貴女の悲願も台無しですわよ」
私も口調だけはシャルリーヌに寄せてみたけど、それを言ったらシャルリーヌの眉間に盛大に皺が寄った。
恐らくは自治領になるからこそ、いつでも再独立出来る可能性を残すからこそ、ギーレンへの包囲網は重みを増す。
バリエンダールに主権ごと全て乗っ取られるとなれば、逆にギーレン以上の大国となるバリエンダールを孤立させる為の縁組、手段を考える方が自然だし、エヴェリーナ妃なら、きっとそうする。
「あれか、ドナートが処刑されても、まだ第三王子がいるとでも思っているのか⁉︎国内貴族との婚約くらい破棄してやれとでも⁉︎」
喚き続けるキリアン第一王子の声に、フィルバートが若干苛立たしげな表情を垣間見せた。
「…やれ、見苦しいな。やはりあの口も永遠に塞いでおくか?」
「「「……陛下……」」」
貴方の場合はシャレになりません――と全員が内心等しく思っていたそこに、更に予想外の爆弾が追加投入されてしまった。
「それとも、聖女もその姉も、そんなに嫁ぎ先に困っているのか⁉︎だったら安心するが良い、サレステーデも側妃は認められている!このキリアンが、一人でも二人でも面倒をみてやる!ドナートなんぞより、余程良かろうが!」
「‼︎」
その瞬間。
国王陛下の顔色が変わると言う、中々に珍しい瞬間を目撃してしまった。
「馬鹿が地雷を踏み抜いたな⁉︎そこの馬鹿王子周辺の騎士とイデオン家の護衛!離れろ、落ちる‼︎」
何が、と聞く間もなかった。
キラキラと光る物体が、折れて壊れたテーブルにダメ押しの如く突き刺さり――砕け散った。
「つ、氷柱……」
…誰の仕業か、聞くまでもない気がした。
と言うか、絶対にフラグを立てたの、ファルコだよね⁉︎
「ちょっ…何でシーグがここに――」
誰か事情を…と私が言いかけるよりも早く、更に別の声がそこに割って入って来た。
「おい、オッサン!シーグに無茶させんなっつってたろ⁉どう言うコトだよ‼」
「⁉」
まさかとも言えるし、やっぱりとも言える。
「リック……」
茫然とその名前を呟いた私に、隣のシャルリーヌも「えっ」と驚いて、声の主を振り返っていた。
「誰がオッサンだ、このガキンチョ!大事な大事な妹を蹴り飛ばしたヤツならココに転がしといたから、踏みつけるなり何なりすりゃ良いだろうが!殺す以外なら好きにしやがれ!」
「言われなくも、そうしてやるよ‼︎」
地に倒れ伏していた筈の男が一瞬呻き声を上げた気がしたけど、ファルコと入れ替わる様に、今度はリックが男の肩口を勢いよく蹴りつけていた。
こちらも、頭に手をやって剥ぎ取ったカツラを地面に投げ捨てていて、兄妹揃って誰かに変装していたのだと言う事を伺わせていた。
ちなみに後で聞いたところによると、肩口は、強打されると腕が動かなくなる部位らしい。
経絡マッサージが行き過ぎるとああなる、と言う事なんだろう。
「ああ…カツラなしで見れば、確かにリックだわ、あの子。ギーレン王宮で見た事あるし」
「そうね……で、向こうで倒れて呻いているのがシーグ、なんだけど……何でアンジェスにいるんだか……」
駆け寄って様子を確かめたいのは山々なんだけど、あちこちで怒号が飛び交っているこの状況下で、シーグのところに行くのは悪手だと、私でも分かる。
重度のシスコン、リックの様子から、命に別状はないんだろうと判断しておくしかない。
後で事情を聞くのもかねて、お見舞いに行くのは既定路線として。
それに怒号といっても、サレステーデが用意していたと思われる不審者たちは、既に全員が地に沈められていて、今は縛り上げられている途中の状態だ。
だからこそ、私とシャルリーヌもひそひそと言葉を交わせていた訳だけど、もっともな疑問に気付いたらしいファルコが「あー…」と、決まり悪げに自分の頭の後ろに右手をあてていた。
「お嬢さんは、説明は後な。とりあえず、お館様と合流してくれるか。多分さっきこの男が飛びかかったところで、俺が見えてたにしろ、足元凍らすか腹の中でマグマを煮えたぎらせるかしている筈だから」
「え……」
「マジでお館様、最近魔力のコントロール効いてねぇんだよ。誰かさんが色々と単語を家出させている所為で」
宰相として冷徹であれ、と長く己に言い聞かせて、それをものにしてきた分、表情や態度には出にくい代わりに、内から溢れ出る魔力が度々困った状況を引き起こしているらしい。
…って言うか「誰かさん」って、ファルコ、今更オブラートに包む意味ないと思う。
「だったら、その誰かさんにはアレコレ知らせなきゃ周りも平和なんじゃ?って話だったらしいが、そもそもサレステーデの内情を確認するよう、お館様よりも先にアンタが言い出してた時点で、こうなる様な気もしたんだよな。大体が、見て見ぬフリして平和に過ごせる性格してねぇんだし」
色々と悟られてるわね、と感心した呟きをシャルリーヌも洩らしている。
放っといて、と答える私の声は、多分、ちょっと詰まってた気がする。
「アンタの辞書から行方不明の単語が戻って来るのを待つより、お館様が管理部に弟子入りして魔術学ぶ方が早いんじゃねぇか?――と、個人的には思わなくもない」
シャルリーヌの表情に「行方不明の単語って何?」と、ありありと書いてあったけど、私は素知らぬフリを通した。
「まあ、その辺は当事者同士で話し合ってくれるか。く・れ・ぐ・れ・も〝鷹の眼〟を巻き込まない様に」
「……何もそんな強調しなくたって……」
「胸に手を当てろ!そもそも、アンジェスに帰ったら覚悟しておけって、お館様に言われてから『まだ』『何も』言われてない俺らが、いかに針の筵になってるか分かるか⁉ギーレン組全員、今回王宮で護衛騎士の倍働いて、帳消しにして貰おうって魂胆で躍起になってるんだからな!」
……そう言えば、そんな「死刑宣告」みたいな話もあったかも知れない。
「こ、今回はほら、そこの一番強そうなヒトをねじ伏せたんだし、きっとエドヴァルド様も――」
「――きっと私が、何だ」
「ぴゃっ⁉」
そこに割って入った声に、私は思わずおかしな声をあげていて、ファルコやシャルリーヌは、話していた状態のまま、表情が固まっていた。
「宰相……八つ当たりなら、サレステーデの馬鹿王族どもにしてくれるか。少なくとも、私やボードリエ伯爵令嬢を巻き込むな」
再び「魔王サマご降臨」状態のエドヴァルドの後ろから、呆れた様に国王陛下が付いて来ていた。
しれっと私の名前を省いている陛下、貴方も大概です。言えないけど。
「ボードリエ伯爵令嬢も災難だったな。姉君の余波で貴女も何も食べられていないのではないか?どのみち貴女にも、姉君と同様に事情を聞かなくてはならない。別室に食事を再度用意させよう」
「…え、ええ。そうですわね」
テーブルが二つに切断された状態なのだから、当然、そこにあった料理とて見る影もない。
公安長官が、テーブル費用はサレステーデに請求すると言っていたけど、料理代も上乗せして貰うべきだろうと、私もシャルリーヌも、多分この場では同じ事を考えていたと思う。
「――くそッ、離せ!僕は次期サレステーデ国王になる男だぞ!騎士風情が気安く触れて良い人間だと思っているのか!」
ざわつく「月神の間」の中、私とエドヴァルドの視線が合って、互いに口を開きかけたところで、お世辞にも上品とは言えない叫び声が、他の雑音を圧倒していた。
「……アレが国王になったら、一日で滅亡しそうですわ」
流石に国王陛下が近くにいる事を鑑みたのか、シャルリーヌの口調は伯爵令嬢としての口調だ。
――中身はお世辞にもご令嬢らしくない話だけど。
「……一日で滅亡してしまったら、貴女の悲願も台無しですわよ」
私も口調だけはシャルリーヌに寄せてみたけど、それを言ったらシャルリーヌの眉間に盛大に皺が寄った。
恐らくは自治領になるからこそ、いつでも再独立出来る可能性を残すからこそ、ギーレンへの包囲網は重みを増す。
バリエンダールに主権ごと全て乗っ取られるとなれば、逆にギーレン以上の大国となるバリエンダールを孤立させる為の縁組、手段を考える方が自然だし、エヴェリーナ妃なら、きっとそうする。
「あれか、ドナートが処刑されても、まだ第三王子がいるとでも思っているのか⁉︎国内貴族との婚約くらい破棄してやれとでも⁉︎」
喚き続けるキリアン第一王子の声に、フィルバートが若干苛立たしげな表情を垣間見せた。
「…やれ、見苦しいな。やはりあの口も永遠に塞いでおくか?」
「「「……陛下……」」」
貴方の場合はシャレになりません――と全員が内心等しく思っていたそこに、更に予想外の爆弾が追加投入されてしまった。
「それとも、聖女もその姉も、そんなに嫁ぎ先に困っているのか⁉︎だったら安心するが良い、サレステーデも側妃は認められている!このキリアンが、一人でも二人でも面倒をみてやる!ドナートなんぞより、余程良かろうが!」
「‼︎」
その瞬間。
国王陛下の顔色が変わると言う、中々に珍しい瞬間を目撃してしまった。
「馬鹿が地雷を踏み抜いたな⁉︎そこの馬鹿王子周辺の騎士とイデオン家の護衛!離れろ、落ちる‼︎」
何が、と聞く間もなかった。
キラキラと光る物体が、折れて壊れたテーブルにダメ押しの如く突き刺さり――砕け散った。
「つ、氷柱……」
…誰の仕業か、聞くまでもない気がした。
と言うか、絶対にフラグを立てたの、ファルコだよね⁉︎
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