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第二部 宰相閣下の謹慎事情
407 王女様のお茶会(2)
※1日複数話更新です。お気を付け下さい。
白く塗られたガーデンテーブルに、色とりどりのお菓子や軽食が載せてあるのは、いかにも年若い王女の心尽くし――と言った感じだった。
今までに見たドーム型の天井を持つガゼボとは違って、長方形の天井を4本の柱で支えてある、大きなガゼボも後ろにあって、布地で覆われた上から、季節の花を散らばせたり挿したりしてある。
ただそっちには今は何も置かれていないので、もしかしたら悪天候だった場合の事を考えて、飾りつけだけが為されているのかも知れなかった。
「テオお祖父様!」
高音、だけど澄んだ可愛らしい声。
卑屈や拗れを知らない、純な少女の声。
そして、そんな声を裏切らない美少女。
(うん、頭の両方にリボンを付けて似合うのは、王女様の年齢くらいまでだよねー……)
ツインテールとは違う。
ふわふわの、肘の辺りまで伸びる長い髪を生かして、少し掬い取ってリボンで巻いているだけだ。
ミルテ・バリエンダール王女は、静止画通りの超絶美少女でした。ハイ。
テオドル大公を見て、喜色満面と言った表情を浮かべたものの、今日はお茶会!と、ハッと思い出したらしく、その場で慌てて〝カーテシー〟の姿勢をとった。
ここまでの美少女だったら、そのくらいはきっと周囲の皆が受け入れるような気もした。
実際「お祖父様」と呼ばれたテオドル大公の相好も、ちょっと崩れている。
「今日は私のお茶会にようこそお越し下さいました。本日はゆっくり楽しんで下さいませ」
「うむ。其方も大きくなったな!ミラン殿下からは、今日が初めての主催と聞いておる。この年寄り程度、いくらでも練習台にすると良い。次はユリアとまた来ようぞ」
「はい!ユリアお祖母様の〝ルーネベリタルト〟には及ばないかも知れませんけれど、今、バリエンダールで人気のお菓子なんかも取り寄せましたの。お祖父様には少し甘いかも知れませんけど、そこはお祖母様の為にぜひ味わって頂きたいです!」
そんな風に顔を輝かせていたミルテ王女の視線が、ふと私の方を捉えた。
「テオお祖父様、こちらの方が……?」
「書記官が女性と言うのは、上層部にまでは届いておらんかったようだ。謁見の際に知ったミラン殿下が、急遽儂と一緒に参加してはどうかとな。驚かせて済まなかったな」
テオドル大公の言葉に合わせて、私もなるべく低い姿勢の〝カーテシー〟をとった。
何と言っても相手は王女様。私の方から何が言える筈もない。
「ああ、何やら妙な噂が流れておったようだが、この娘は其方の兄の相手に連れて来た訳ではないからな。そんな事をすれば、国に戻ってから儂が婚約者の公爵に殺されるわ」
そしてどうやら、さっきの話を聞いたテオドル大公は、早いうちに噂の火消しを試みてくれたようだ。
事実、この場のあちらこちらで「まあ…」と言った囁きも聞こえて来る。
「遠路はるばる、ようこそお越し下さいました、レイナ・ユングベリ嬢。私がバリエンダール王国第一王女ミルテです。聞けば商会も経営されていて、多くの国の言葉を話されて、現地にも行かれておいでとか。兄のミランが、良い刺激になるだろうと言っておりましたものですから、楽しみにしておりましたの。後でお話、お聞かせ下さいませね?」
「勿体ないお言葉です、王女殿下。既にご準備も整われていたであろうところ、急なご参加をお認め下さった点、深謝申し上げます。本日は宜しくお願い致します」
一連のやり取りから考える限りは、静止画通りの見た目はさておき、まるで病弱と言う感じがしない。
これが〝蘇芳戦記〟の元の設定からずれてしまったからか、それとも過去は病弱でも今は克服したとか、そう言う設定なのか――会ったばかりの今は、とてもまだ判断がつかなかった。
その後、テオドル大公と一緒に、ミルテ王女から紹介されたところによると、その他、ミラン王太子の婚約者であるフランカ・ハールマン侯爵令嬢とその母親、バリエンダールの当代〝扉の守護者〟だと言うマリーカ・ノヴェッラ女伯爵、王女の親友だと言うオリエッタ・ロサーナ公爵令嬢が、今日の参加者と言う事だった。
バリエンダールの当代〝扉の守護者〟は女性、すなわち「聖女」サマらしい。
女傑風でもゴスロリ風でも年齢不詳に目立つ女性でもないけれど、嫌味のない、清楚な雰囲気の女性だった。
イリナ・ハルヴァラ伯爵夫人がもう少し年齢を重ねたら、こんな風になるかも…そんな感じだ。
年齢としてはフランカ嬢の母、ハールマン侯爵夫人と同世代に見える感じだなと思っていたら、こちらはどうやら、今回のお茶会には欠席、テオドル大公曰く長い間社交の表舞台からは遠ざかっている、ベネデッタ正妃と幼馴染の関係にあるとの事だった。
本来はオルミ地方にあるガラス工房の職人の娘さんだったそうだけど、ガラス作りの為の魔道具の使い方を覚えるにあたって、内包する魔力が桁違いである事が発覚し、当代〝扉の守護者〟になる事が決定した時点で、一代限りの、領地を持たない女伯爵としての地位が与えられたんだそうだ。
後継者のいなくなった爵位が論功行賞の対象になると言う、バリエンダールのシステムに添った結果だろう。
当初は両親も一緒に王都へ…との話だったらしいが、両親はそれを固辞、オルミでガラスを作り続ける事を選んで、今はもう二人とも没しているとの事だった。
一人娘のいなくなった工房に跡取りはおらず、今は別の工房から独立した職人が、その場所を全て引き継いでいると言う。
まだご両親が健在、あるいは後継者がいたなら、一度話をしてみても良かったけれど、そこは残念ながら諦めざるを得なかった。
現時点で、このお茶会に出席する男性がテオドル大公だけと言うのも、普段からの交流ぶりが伺えて凄いと思うけど、恐らくは国王や王太子が後から顔を出す事が見込まれているんだろう。
「ええと…きょうはまず、王宮の晩餐会などでも振る舞われている紅茶を淹れさせて頂きます。バリエンダールと言えばコーヒーと思われがちですけれど、昨今、他国に倣って紅茶にも力を入れ始めております。王都から少し西にあるサビーノと言う街にある工房で丹念にブレンドされた、華やかなお花と天然フルーツの甘い香りで、独特の味わいが楽しめる紅茶ですの。ぜひ味わってみて下さいませ」
ギリギリまで、きっと一生懸命暗記していたんだろう。
親友だと言うオリエッタ・ロサーナ公爵令嬢含め、周囲の皆が、手に汗握ると表現しても過言じゃない空気を醸し出しながら、ハラハラとそれを見守っていた。
この様子だと、少なくともこの中にはお茶会テンプレ、飲み物をぶちまけるような意地悪令嬢、夫人はいないのかも知れない。
私自身、仲良くなる前のシャルリーヌ相手にガゼボでお茶会を開いたっきりなので、王女様の緊張は良く分かる。
この時は、私もまだ呑気に王女様の口上と、紅茶の支度を見守っていた。
*******************************
2021年、最後の更新です。
年明け2日頃には「カクヨム」様に追いつきますので、それ以降は
1日1話更新となる予定です。
第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞もいただき、充実した1年となりました。
完結およびもう1つの愛称発表(笑)に向けて頑張りますので、来年も
引き続きどうぞ宜しくお願い致します!!
白く塗られたガーデンテーブルに、色とりどりのお菓子や軽食が載せてあるのは、いかにも年若い王女の心尽くし――と言った感じだった。
今までに見たドーム型の天井を持つガゼボとは違って、長方形の天井を4本の柱で支えてある、大きなガゼボも後ろにあって、布地で覆われた上から、季節の花を散らばせたり挿したりしてある。
ただそっちには今は何も置かれていないので、もしかしたら悪天候だった場合の事を考えて、飾りつけだけが為されているのかも知れなかった。
「テオお祖父様!」
高音、だけど澄んだ可愛らしい声。
卑屈や拗れを知らない、純な少女の声。
そして、そんな声を裏切らない美少女。
(うん、頭の両方にリボンを付けて似合うのは、王女様の年齢くらいまでだよねー……)
ツインテールとは違う。
ふわふわの、肘の辺りまで伸びる長い髪を生かして、少し掬い取ってリボンで巻いているだけだ。
ミルテ・バリエンダール王女は、静止画通りの超絶美少女でした。ハイ。
テオドル大公を見て、喜色満面と言った表情を浮かべたものの、今日はお茶会!と、ハッと思い出したらしく、その場で慌てて〝カーテシー〟の姿勢をとった。
ここまでの美少女だったら、そのくらいはきっと周囲の皆が受け入れるような気もした。
実際「お祖父様」と呼ばれたテオドル大公の相好も、ちょっと崩れている。
「今日は私のお茶会にようこそお越し下さいました。本日はゆっくり楽しんで下さいませ」
「うむ。其方も大きくなったな!ミラン殿下からは、今日が初めての主催と聞いておる。この年寄り程度、いくらでも練習台にすると良い。次はユリアとまた来ようぞ」
「はい!ユリアお祖母様の〝ルーネベリタルト〟には及ばないかも知れませんけれど、今、バリエンダールで人気のお菓子なんかも取り寄せましたの。お祖父様には少し甘いかも知れませんけど、そこはお祖母様の為にぜひ味わって頂きたいです!」
そんな風に顔を輝かせていたミルテ王女の視線が、ふと私の方を捉えた。
「テオお祖父様、こちらの方が……?」
「書記官が女性と言うのは、上層部にまでは届いておらんかったようだ。謁見の際に知ったミラン殿下が、急遽儂と一緒に参加してはどうかとな。驚かせて済まなかったな」
テオドル大公の言葉に合わせて、私もなるべく低い姿勢の〝カーテシー〟をとった。
何と言っても相手は王女様。私の方から何が言える筈もない。
「ああ、何やら妙な噂が流れておったようだが、この娘は其方の兄の相手に連れて来た訳ではないからな。そんな事をすれば、国に戻ってから儂が婚約者の公爵に殺されるわ」
そしてどうやら、さっきの話を聞いたテオドル大公は、早いうちに噂の火消しを試みてくれたようだ。
事実、この場のあちらこちらで「まあ…」と言った囁きも聞こえて来る。
「遠路はるばる、ようこそお越し下さいました、レイナ・ユングベリ嬢。私がバリエンダール王国第一王女ミルテです。聞けば商会も経営されていて、多くの国の言葉を話されて、現地にも行かれておいでとか。兄のミランが、良い刺激になるだろうと言っておりましたものですから、楽しみにしておりましたの。後でお話、お聞かせ下さいませね?」
「勿体ないお言葉です、王女殿下。既にご準備も整われていたであろうところ、急なご参加をお認め下さった点、深謝申し上げます。本日は宜しくお願い致します」
一連のやり取りから考える限りは、静止画通りの見た目はさておき、まるで病弱と言う感じがしない。
これが〝蘇芳戦記〟の元の設定からずれてしまったからか、それとも過去は病弱でも今は克服したとか、そう言う設定なのか――会ったばかりの今は、とてもまだ判断がつかなかった。
その後、テオドル大公と一緒に、ミルテ王女から紹介されたところによると、その他、ミラン王太子の婚約者であるフランカ・ハールマン侯爵令嬢とその母親、バリエンダールの当代〝扉の守護者〟だと言うマリーカ・ノヴェッラ女伯爵、王女の親友だと言うオリエッタ・ロサーナ公爵令嬢が、今日の参加者と言う事だった。
バリエンダールの当代〝扉の守護者〟は女性、すなわち「聖女」サマらしい。
女傑風でもゴスロリ風でも年齢不詳に目立つ女性でもないけれど、嫌味のない、清楚な雰囲気の女性だった。
イリナ・ハルヴァラ伯爵夫人がもう少し年齢を重ねたら、こんな風になるかも…そんな感じだ。
年齢としてはフランカ嬢の母、ハールマン侯爵夫人と同世代に見える感じだなと思っていたら、こちらはどうやら、今回のお茶会には欠席、テオドル大公曰く長い間社交の表舞台からは遠ざかっている、ベネデッタ正妃と幼馴染の関係にあるとの事だった。
本来はオルミ地方にあるガラス工房の職人の娘さんだったそうだけど、ガラス作りの為の魔道具の使い方を覚えるにあたって、内包する魔力が桁違いである事が発覚し、当代〝扉の守護者〟になる事が決定した時点で、一代限りの、領地を持たない女伯爵としての地位が与えられたんだそうだ。
後継者のいなくなった爵位が論功行賞の対象になると言う、バリエンダールのシステムに添った結果だろう。
当初は両親も一緒に王都へ…との話だったらしいが、両親はそれを固辞、オルミでガラスを作り続ける事を選んで、今はもう二人とも没しているとの事だった。
一人娘のいなくなった工房に跡取りはおらず、今は別の工房から独立した職人が、その場所を全て引き継いでいると言う。
まだご両親が健在、あるいは後継者がいたなら、一度話をしてみても良かったけれど、そこは残念ながら諦めざるを得なかった。
現時点で、このお茶会に出席する男性がテオドル大公だけと言うのも、普段からの交流ぶりが伺えて凄いと思うけど、恐らくは国王や王太子が後から顔を出す事が見込まれているんだろう。
「ええと…きょうはまず、王宮の晩餐会などでも振る舞われている紅茶を淹れさせて頂きます。バリエンダールと言えばコーヒーと思われがちですけれど、昨今、他国に倣って紅茶にも力を入れ始めております。王都から少し西にあるサビーノと言う街にある工房で丹念にブレンドされた、華やかなお花と天然フルーツの甘い香りで、独特の味わいが楽しめる紅茶ですの。ぜひ味わってみて下さいませ」
ギリギリまで、きっと一生懸命暗記していたんだろう。
親友だと言うオリエッタ・ロサーナ公爵令嬢含め、周囲の皆が、手に汗握ると表現しても過言じゃない空気を醸し出しながら、ハラハラとそれを見守っていた。
この様子だと、少なくともこの中にはお茶会テンプレ、飲み物をぶちまけるような意地悪令嬢、夫人はいないのかも知れない。
私自身、仲良くなる前のシャルリーヌ相手にガゼボでお茶会を開いたっきりなので、王女様の緊張は良く分かる。
この時は、私もまだ呑気に王女様の口上と、紅茶の支度を見守っていた。
*******************************
2021年、最後の更新です。
年明け2日頃には「カクヨム」様に追いつきますので、それ以降は
1日1話更新となる予定です。
第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞もいただき、充実した1年となりました。
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引き続きどうぞ宜しくお願い致します!!
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