18 / 42
【Case.1】狙われた竜の卵
18 辺境伯領は竜だらけ
しおりを挟む
いきなり辺りが光り出したら、辺境伯領に棲まう竜たちをさぞや驚かすんじゃ――と、投げる前ちょっとだけ心配だったけど、いざやってみたら、それは全くの杞憂だった。
と言うのも、首長竜が手紙や物を運んで来て、発光弾で知らせる事が、ままあるんだろう。
発光弾を投げた後、騎獣軍の竜たちに襲い掛かられることはなかった。
さっきは猛スピードで突っ込むように飛行して来たせいで、火竜たちも驚いたのかも知れない。
「ハルトっ⁉」
ただ、こちらに向かって来なかった火竜の代わりに、見覚えのある白い竜が、辺境伯家の館の裏から突然空へ、僕の視界の目の前へと舞い上がった。
今、デュルファー王国にただ一頭しか姿を確認されていない竜。白竜。
この国を代表する(元)冒険者、リュート叔父さんの契約竜だ。
当然その竜の背には、長剣を片手にした叔父さんがいて、目の前で首長竜に一人乗りをしている僕に、驚愕の視線を向けていた。
白竜と叔父さん。
僕からすれば、そっちの方がよほど絵になって、ポカンと口を開いてしまったくらいなんだけど。
「おまえ……っ、牧場で訓練を受けていたんじゃないのか⁉ 何があった!」
叔父さんの厳しい声に、僕もハッと我に返る。
「その『竜の牧場』が大変なんだよ、叔父さん! 二人組の少年が首長竜の卵を奪って逃げたんだ!」
「――んだって⁉」
「それで、指導員の冒険者の一人が、僕にここへ助力を仰ぎにいけ、って……!」
本当なら、一連の流れを詳しく言いたいところだけれど、今は上空、竜の上。
お互いに最大限に声を張り上げないと会話が出来ない。
どうやらちょっとイラっとしてきたらしい叔父さんが、先に根を上げた。
「とりあえず、降りるぞ! 話はそのあとだ……っ」
そう言って、辺境伯家の館の裏手を人差し指でちょいちょいと指さしている。
ついて来いって言うコトなんだろう。
僕はそっと、首長竜の背中に手をあてた。
「大丈夫。今の人、僕の叔父さんだから。後ろをついて行って、一緒に下りてくれる?」
哀しいかな僕はまだ、そんな華麗な手綱さばきで竜を制御することができない。
首長竜に「お願い」をすることしか出来ないのが、ちょっと悔しかった。
「――――」
首長竜は、そんな僕を慰めるかのような柔らかい鳴き声を発して、くるりと旋回した。
.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜ .゜*。:゜
「ハルト!」
辺境伯家の館の裏には、竜のための離発着場のような空間があり、叔父さんも僕も、そこにそれぞれの竜を下ろしていた。
僕が首長竜の背中から地面に降り立つや否や、リュート叔父さんが急いで様子を見に来てくれた。
「竜の牧場から辺境伯家の館まで、休みなしで飛んで来たんだろう? 疲れているとは思うが、事情と状況を聞かせて貰っても良いか? もう日が暮れる、とりあえずは中へ」
「叔父さん! でも……っ」
「いくら火竜と言えど、無計画に追いかけさせるワケにもいかない。ちゃんと話を聞いて、対策を立てるくらいの時間なら、アイツらならすぐに取り戻せるさ」
火竜は首長竜よりも遥かに早く飛ぶことが出来る。
叔父さんはそう言って、僕に落ち着けとばかりに背中を何度も叩いた。
「――うおっ、マジでハルトかよ⁉ 騎獣訓練初日で長距離飛行とは恐れ入る! 騎獣軍来るか? ウチはいつでも新人歓迎だ!」
そう言いながら辺境伯家の館の中から出て来たのは、叔父さんと一緒に辺境伯領に向かった、ギルさんだった。
その声色は、意外と本気の勧誘な気がしたけど、叔父さんの方が秒でそれを却下していた。
「冗談は顔だけにしろ、ギルフォード。だいいち、今はそんな場合じゃないだろう」
「おぉい、騎獣軍屈指の美丈夫捕まえて、それはないだろう⁉ まあ確かに、そんな場合じゃないってのは賛成だけどな。そんなワケでハルト、悪いが中で軍団長とエイベル当主が詳しく聞きたいと待ってる。その首長竜はそこで待機させて、中に入ってくれ」
投げた発光弾には全員が気が付いていたようで、僕はギルさんに辺境伯家の館の中へ入ることを促された。
チラっとリュート叔父さんを見れば、叔父さんも、従ってくれと言わんばかりに頷いていた。
「大丈夫だ、ハルト。見聞きしたことを、中に入って話すだけでいいから」
「う……うん」
最後には「俺もついてる」と、まるでご令嬢相手であるかのように囁いた叔父さんに、僕は白旗を上げた。
「……ごめん、もうちょっとここで待っててね。必ず、卵は取り戻すから」
――僕はそう言って、隣にいた首長竜の背を軽く撫でた。
「ハルト、盗まれた卵って、その竜の……?」
首長竜をじっと見る叔父さんに、僕はふるふると首を横に振る。
「ううん。違うみたい。ただこのコが、あの牧場での竜のリーダーみたいだったって、指導者さんが言ってくれていたんだ。すごい責任感のあるコだよ」
「……へえ」
そうか、と呟いた叔父さんは、僕と同じように首長竜の背中を撫でた。
「ハルトをここまで連れて来てくれてありがとうな。俺の相棒の白竜を置いていくから、ちょっとの間、一緒に待っていてくれ」
返事の代わり――なのか返事そのものなのか、首長竜はゆっくりと目を瞬かせて、頷いた……ように、見えた。
と言うのも、首長竜が手紙や物を運んで来て、発光弾で知らせる事が、ままあるんだろう。
発光弾を投げた後、騎獣軍の竜たちに襲い掛かられることはなかった。
さっきは猛スピードで突っ込むように飛行して来たせいで、火竜たちも驚いたのかも知れない。
「ハルトっ⁉」
ただ、こちらに向かって来なかった火竜の代わりに、見覚えのある白い竜が、辺境伯家の館の裏から突然空へ、僕の視界の目の前へと舞い上がった。
今、デュルファー王国にただ一頭しか姿を確認されていない竜。白竜。
この国を代表する(元)冒険者、リュート叔父さんの契約竜だ。
当然その竜の背には、長剣を片手にした叔父さんがいて、目の前で首長竜に一人乗りをしている僕に、驚愕の視線を向けていた。
白竜と叔父さん。
僕からすれば、そっちの方がよほど絵になって、ポカンと口を開いてしまったくらいなんだけど。
「おまえ……っ、牧場で訓練を受けていたんじゃないのか⁉ 何があった!」
叔父さんの厳しい声に、僕もハッと我に返る。
「その『竜の牧場』が大変なんだよ、叔父さん! 二人組の少年が首長竜の卵を奪って逃げたんだ!」
「――んだって⁉」
「それで、指導員の冒険者の一人が、僕にここへ助力を仰ぎにいけ、って……!」
本当なら、一連の流れを詳しく言いたいところだけれど、今は上空、竜の上。
お互いに最大限に声を張り上げないと会話が出来ない。
どうやらちょっとイラっとしてきたらしい叔父さんが、先に根を上げた。
「とりあえず、降りるぞ! 話はそのあとだ……っ」
そう言って、辺境伯家の館の裏手を人差し指でちょいちょいと指さしている。
ついて来いって言うコトなんだろう。
僕はそっと、首長竜の背中に手をあてた。
「大丈夫。今の人、僕の叔父さんだから。後ろをついて行って、一緒に下りてくれる?」
哀しいかな僕はまだ、そんな華麗な手綱さばきで竜を制御することができない。
首長竜に「お願い」をすることしか出来ないのが、ちょっと悔しかった。
「――――」
首長竜は、そんな僕を慰めるかのような柔らかい鳴き声を発して、くるりと旋回した。
.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜ .゜*。:゜
「ハルト!」
辺境伯家の館の裏には、竜のための離発着場のような空間があり、叔父さんも僕も、そこにそれぞれの竜を下ろしていた。
僕が首長竜の背中から地面に降り立つや否や、リュート叔父さんが急いで様子を見に来てくれた。
「竜の牧場から辺境伯家の館まで、休みなしで飛んで来たんだろう? 疲れているとは思うが、事情と状況を聞かせて貰っても良いか? もう日が暮れる、とりあえずは中へ」
「叔父さん! でも……っ」
「いくら火竜と言えど、無計画に追いかけさせるワケにもいかない。ちゃんと話を聞いて、対策を立てるくらいの時間なら、アイツらならすぐに取り戻せるさ」
火竜は首長竜よりも遥かに早く飛ぶことが出来る。
叔父さんはそう言って、僕に落ち着けとばかりに背中を何度も叩いた。
「――うおっ、マジでハルトかよ⁉ 騎獣訓練初日で長距離飛行とは恐れ入る! 騎獣軍来るか? ウチはいつでも新人歓迎だ!」
そう言いながら辺境伯家の館の中から出て来たのは、叔父さんと一緒に辺境伯領に向かった、ギルさんだった。
その声色は、意外と本気の勧誘な気がしたけど、叔父さんの方が秒でそれを却下していた。
「冗談は顔だけにしろ、ギルフォード。だいいち、今はそんな場合じゃないだろう」
「おぉい、騎獣軍屈指の美丈夫捕まえて、それはないだろう⁉ まあ確かに、そんな場合じゃないってのは賛成だけどな。そんなワケでハルト、悪いが中で軍団長とエイベル当主が詳しく聞きたいと待ってる。その首長竜はそこで待機させて、中に入ってくれ」
投げた発光弾には全員が気が付いていたようで、僕はギルさんに辺境伯家の館の中へ入ることを促された。
チラっとリュート叔父さんを見れば、叔父さんも、従ってくれと言わんばかりに頷いていた。
「大丈夫だ、ハルト。見聞きしたことを、中に入って話すだけでいいから」
「う……うん」
最後には「俺もついてる」と、まるでご令嬢相手であるかのように囁いた叔父さんに、僕は白旗を上げた。
「……ごめん、もうちょっとここで待っててね。必ず、卵は取り戻すから」
――僕はそう言って、隣にいた首長竜の背を軽く撫でた。
「ハルト、盗まれた卵って、その竜の……?」
首長竜をじっと見る叔父さんに、僕はふるふると首を横に振る。
「ううん。違うみたい。ただこのコが、あの牧場での竜のリーダーみたいだったって、指導者さんが言ってくれていたんだ。すごい責任感のあるコだよ」
「……へえ」
そうか、と呟いた叔父さんは、僕と同じように首長竜の背中を撫でた。
「ハルトをここまで連れて来てくれてありがとうな。俺の相棒の白竜を置いていくから、ちょっとの間、一緒に待っていてくれ」
返事の代わり――なのか返事そのものなのか、首長竜はゆっくりと目を瞬かせて、頷いた……ように、見えた。
11
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる