竜の国の探偵事務所~元英雄の弟子は冒険者ギルドで探偵を目指す~

渡邊 香梨

文字の大きさ
17 / 42
【Case.1】狙われた竜の卵

17 発光弾を使うよ!

しおりを挟む
 冒険者ギルドに来る人たちの中には、高い所が苦手だと言っていた人もたまにいたけれど、どうやら僕は大丈夫そうだった。

「わぷっ」

 ただ結構な速度で上昇をしているせいか、物凄い圧力を持った風が顔に叩きつけられる。

 何とか目を開いて見れば、僕と首長竜ギータが飛ぶ方向よりもだいぶ左にずれた方へと、ダドリーさんを乗せた首長竜ギータが飛んで行くのが見えた。

 きっと卵を奪った兄弟(……かどうかも、今となっては分からない)と二人を乗せた首長竜ギータが、そっちの方角へと飛んで行ったって言うことなんだろう。

 ダドリーさんは、あの年齢で二人だけの考えでどうにかするのは難しいはずだから、事前に何か、竜を誘導するような薬なり香りなりを渡されていて、それを使って飛んでいるんじゃないかと言っていた。

 出来ればそのこともザイフリート辺境伯家の火竜騎獣軍に伝えて欲しい、と。

 今のところ、僕の服のポケットに入っている魔道具型の方位磁石が指し示す光の方へと、首長竜ギータは一直線に飛行している。

 同じねぐらに住む首長竜ギータの卵が盗まれたとあっては、本当なら皆で取り返してボコボコにしてやりたいだろうに、完全な野生じゃない分、人との共闘の意思が彼らにもあるのかもしれない。

 学校で、二人乗りで習った時には、前に座る人間は背筋を伸ばして騎獣用の鞍の持ち手をしっかり持って――なんて言われていたけど、どう考えても緊急速度で飛んでいる首長竜ギータに乗るための乗り方じゃない。
 荷物や手紙を運ぶ「運び屋」たちが、荷物優先で速度緩めに飛ぶ乗り方だ。

 なので僕は、学校で習った乗り方を、ここでは忘れることにした。

 と言うか、そんな恰好つけたことを言っている余裕はどこにもなくて、実際のところは、頭を低くして首長竜ギータにしがみつくくらいのことしか出来なかったのだ。

「――――」

 そして気のせいじゃなく、僕を乗せてくれているこの首長竜ギータ、さっきからチラチラと首をこちらに傾けている。

 それで飛行スピードが落ちないのもすごいけど、どう考えても「僕が」気遣われていた。

「ごめん! 素人乗せて飛びにくいかもしれないけど、何とかザイフリート辺境伯領まで頼むよっ!」

 僕の叫び声に首長竜ギータは一度だけ「きいぃー!」と、甲高い声で鳴いた。

 竜の鳴き声ってこんなだったっけ?と思ったけど、これもこれで、もしかしたら僕が怖がらないように首長竜ギータが考えてくれたのかも知れない。

 多分きっと、生きる年齢の違う首長竜ギータにとっては、僕は赤ん坊レベルの人間だ。

 騎獣軍や王家の竜ばかりが褒め称えられて、悪くすれば庶民の竜と見られがちな首長竜ギータだけど、やっぱり人よりは高位の生き物なんだと思う。

 僕は午後の部の騎獣訓練に出たから、途中で休んだりしていると、悪くすれば辺境伯家に辿り着く前に、日が暮れてしまう。

 僕と首長竜ギータは、とにかく一心不乱にザイフリート辺境伯領を目指して飛行した。




.゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜ .゜*。:゜.゜*。:゜ .゜*。:゜



 そうして、辺りの暗さよりも先に肌に感じる空気の冷たさから、日が落ちるのを感じ始めた頃。
 それまでずっと直線で伸びていた「光」が、徐々に下を向き始めた。

 どうやら、ザイフリート辺境伯領が近くなってきたみたいだった。

 それはそれで、いきなり領主館の庭や周囲に降下したりしたら、向こうだってビックリするだろうし、下手をすれば「すわ敵襲か⁉」と誤解を受けて、火竜リントヴルムを差し向けられかねない。

 僕はダドリーさんが言っていたことを思い出して、着ていた服のポケットの中から、小さな丸い玉を取り出した。

 首長竜ギータを日常的に使う商人や「運び屋」の人たちは、目的地に着いた時に上空からコレを投げて、相手に到着を知らせるらしい。

 職人ギルド内で売られている、発光弾だと言う話だった。

 実際の弾を覆っている、魔力草を剥がして投げれば、何秒か後に光る仕組みになっているらしい。
 特に武器としての危険性はなく、相手に居場所を知らせる為の、使い捨ての魔道具だそうだ。

「建物が見えたら、しばらくその建物の上をグルグルと回ってくれるかな⁉その後で僕が光る玉を投げるから、直接見ないように気を付けてね‼」

 鞍の当たっていない、竜の背中部分を軽く叩いて僕が声を張り上げると、首長竜ギータは理解したとでも言うように鳴き声を上げた。

 そして、それを合図とするかのように首長竜ギータはどんどんと高度を落としていく。

 やがてその先に、森の中の古城とも、要塞とも取れる大貴族の館が少しずつ見えはじめた。

「!」

 僕はまだ発光弾を投げていないけれど、やっぱり首長竜ギータと言えど竜の来訪は、この地に住まう火竜リンドヴルムたちを刺激しているんだろう。

 姿は見えないものの、あちらこちらから鼓膜を突き刺すような声が響くようになってきた。

 僕は首長竜ギータに「ごめん、とりあえずもうちょっとガマンしてくれるかな⁉」と背中を撫でて、発光弾の封を剝がす準備を整えた。

 あまりに辺境伯家の館と離れていては、発光弾を投げても意味がない。

 首長竜ギータも、分かっているとばかりに館の方へと更に飛行を続けて、最後、真上近くまで来た頃、急停止するかのように羽根を大きく羽ばたかせた。

「よし、投げるねっ!」

 僕は片手で鞍を持ちながら、もう片方の手で持っていた発光弾を力いっぱい下へと投げた。

 ……ただ落ちただけじゃないか、なんて言うツッコミは、認めない。
 僕は、館の窓から見えるようにと、それを「投げた」んだ。

 そして僕が投げたのを見届けるようにして、首長竜ギータは上空その場でくるりと館に対して背を向けた。



 ――その数秒後、辺りに眩しい光が満ちた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...