天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる

こたろう文庫

文字の大きさ
40 / 75

視察⑤ スラム

しおりを挟む
「約束は守ります。ただ、その前に聞きたいことがあります」

本来であれば衛兵に渡す等するべきなのだろうけど、国として不明瞭な今、衛兵がちゃんと機能しているのか不明だ。
最優先の男の子を助けることは出来たので、約束を守り解放してあげることにする。
ただ、その前にやることはある。

「なんだ?」

「人攫いはこれが初めでじゃないですよね?」

「……ああ、そうだ」

「これまでに買った人を教えてください。それから拐ったまま監禁している人がいるなら、解放してください」

「……わかった。だがほとんどは俺も相手を知らない。わかるのはそいつみたいに貴族本人が買いに来て、俺が顔を知っている奴だけだ。代理の者が買いに来たり、俺の知らない奴は聞かれても答えられない」

「あなたがわかる範囲で大丈夫です。後から嘘が判明したら次はないです。あなたを見つけることは僕には容易です。どこに逃げようともすぐに見つけることが出来ます。ちゃんと悪事からは足を洗って、真っ当に生きてください」
この人のシャツを持っている。シンクに頼めば本当にすぐに見つけてくれるだろう。

「……嘘を言うつもりはない。監禁している奴らも解放する。だが、俺達は真っ当に生きることが出来なかったから今こうしている。俺達のほとんどは親を亡くしたり、捨てられた孤児だ。生きる為には悪事に手を染めるしかなかった。真っ当な金の稼ぎ方なんて知らない」

「……だからといって、人を拐っていいはずはないです。足を洗ってください。次見つけた時は容赦しません」
そうせざる得なかったのかもしれないけど、人を拐うのはやっぱりダメだ。
生きる為に仕方なかったのかもしれないけど、その為に他人の人生を狂わせるのはいけない。

ただ、これはこの人達が全て悪いわけではない。
そうでもしないと生きていけない子供を周りが放置していた結果だ。

僕は情報を聞いた後、男の腕の拘束を外す。

「わかっていると思いますが、目隠しをしているのは僕の姿を見られない為です。僕はここから離れます。30秒待ってから足の拘束を外して、目隠しを取ってください。今日ここであったことは誰にも話さないように。そちらの人もわかりましたね?」

「ひ、ひぃぃ」

「わかりましたね?ヘンド・リクソンさん。同じようなことを見つけた時に、僕がまず関与を疑うのはあなたです。あなたが関与していなくても、勘違いであなたを処刑するかもしれません。そうならない為に、まずは今まで不当に奴隷とした人を解放して下さい。他の悪事からも手を引いてください。それから、同じことをやっている方を知っているなら、不当に奴隷としている人を解放するように忠告してください。そうすれば、あなたは改心してくれたから関係ないと僕は判断するでしょう。許すのは今回だけです。改心する可能性がないのであれば、死んでもらった方が世の為です」

「わ、わかった。だから見逃してくれ」

「今回限りその言葉を信じます。では、また会わないことを願います」

僕は男の子を抱えて建物を出て、シトリーと他の4人も連れてこの場を離れる。

「無事に首輪を外せて良かったです。無理はしてないですか?」

「大丈夫だよ。思ったよりすんなりと核を出してくれたからね」

「それはなによりです。この方達はどうしますか?」

「……城の方で保護しようか。目が覚めたら、どこに住んでいたか聞いて送りとどけよう。表向きは城の前に放置されていたってことにしようか」

「わかりました」

僕達は一度城に戻り、名前の知らない使用人の女性に、この人達が庭に寝かされていたから保護したと説明して、空いている部屋で寝かせておくように頼む。

目が覚めたら食事を与えて、庭に寝かされていたことを説明して、どこに住んでいたか聞いておいて欲しいとも頼む。

その後シンクに頼み、フクロウと呼ばれていた男のシャツの匂いを嗅いでもらい、住処がどの辺りにあるのかざっくりと教えてもらう。

あの人の言っていることを信じるなら、そこにスラムがある可能性が高い。

僕達はまたスラム探しをする為に街に戻る。

そして、シンクから聞いた方向へ歩いていく。

そこには思った通りスラムがあった。
負のオーラが見えるのではないかというくらいに、空気がどんよりと沈んでおり、異臭がする。

家と呼んでいいのか分からないような建物が並んでおり、見かける人は皆痩せ細っている。

子供もいる。
親と一緒に住んでいるのかはわからない。

しまったな。普通の格好をしているけど、ここでは目立つ。視線を感じる。

「こんな所に何のようだ?もしかして、新入りか?」
こっちを見ていた無精髭を生やした男に話しかけられる。

「先程この街に着いたんですが、宿に泊まるお金がなくて、どこか雨風凌げるところがないかとウロウロしてました」
スラムに用があったわけではなく、ただただ金が無いということにした。

「金もなくどうやってこの街まで来たんだ?」
この人鋭いな。

「途中で賊に襲われてしまいまして……。持ち金を全て渡したら命までは取られなかったんですが、この有様です」

「それは災難だったな。この街には何しに来たんだ?当てはあるのか?」

「商売に来ました。遅れて出発することになっていた知り合いとこの街で合流する予定なので、数日凌げればなんとかなると思います」

「そうか。食い物はあるか?」

「ええ。お金以外は盗られませんでした」

「まだマシだったな。ここで寝るならボスに挨拶だけしておけよ。この道をまっすぐ行って突き当たりを右だ」

「親切にありがとうございます。お兄さんこそ食べ物は足りてますか?」

「なんとかギリギリな」

「よかったらこれをどうぞ。お金はありませんが、食べ物に余裕はあるので、知り合いの方達と分けてください」
店を適当に見て回っていた時に買った食べ物がちょうど収納に入っていたので、お礼として渡す。

「いいのか?悪いな」

「親切にしていただいたお礼です。これで知り合いがこの街に到着するまで過ごせそうです」
お礼を言ってこの人と別れる。

「マオ様、どうするんですか?ここで寝るつもりですか?」

「とりあえず、ボスという人の所に行ってみようか。ここで寝るつもりはないけど、必要なら考えるよ」

「わかりました」

教えてもらった通りに道を真っ直ぐ進み、突き当たりを右に曲がると、他よりは大きい家らしきものがあった。

「すみません。ここにこの辺りを仕切っている方がいると聞いてきたんですが……」
入り口らしき所で呼びかける。

「ボスは今留守だ。何の用だ?」

「賊にお金を盗まれてしまって、知り合いと合流するまでの数日間寝る場所を探していました。向こうにいた人に、この辺りで寝るつもりならボスに挨拶しておけと言われたので、まだここで寝るかはわかりませんが、揉め事にならないように挨拶に来ました」
ここで寝ると言ってしまうと、そのままここで寝ることになってしまいそうなので、とりあえず考えているくらいで話をしておく。

「そうか。ボスはじきに戻るだろう。外で待ってろ」

「わかりました」
もうすぐ帰ってくるらしいので、外でシトリーと雑談をしながら待つ。

「マオ様、あの人……」
シトリーが戻ってきたボスと思われる人を見て、呟くように言った。

「……確かに可能性はあったけど、本当にそうだとは思わなかったよ。悪いんだけど、僕がしゃべると気付かれるかもしれない。会話はシトリーに任せていいかな?僕は最低限にする」

「わかりました。任せて下さい」

やってきたのはさっきフクロウと呼ばれていた、人攫いの男だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

妖精の森の、日常のおはなし。

華衣
ファンタジー
 気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?  でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。  あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!? 「僕、妖精になってるー!?」  これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。 ・毎日18時投稿、たまに休みます。 ・お気に入り&♡ありがとうございます!

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...