天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる

こたろう文庫

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大事にしたいこと

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スラムの方は今日食べるものがないということにはならないので、これで散歩という名目の視察は終わりにして城に戻る。

僕はまず地下の研究室に行き、フェレスさんに話を聞くことにする。

「フェレスさんに聞きたいことがあるんですけど……」

「何ですか?スキル球の研究はまだ終わってませんよ」

「それは引き続きお願いします。今日聞きたいのは、この街の商業ギルドについてです。特定の店と癒着しているようで、悪い人達と繋がりもあるみたいなんですけど、何か知ってますか?」

「街のことはほとんど知らない。癒着というのは?」

「聞いた話だと、服飾屋はもうあるからという理由で新しく店を出させてもらえなかったそうなんです。商品も見てもらえなかったみたいで、今出店している店を優遇しているのではと思うんです。それから、商業ギルドを通さないと城に物を売れないと言ってました。なんでそんなことになってるんですか?」

「私は城を作っているだけだ。他はルマンダに任せている。契約通り相談には乗るが、ルマンダに話を聞かないことにはなんとも言えない。それに、この街は元々ルマンダの領地だ。商業ギルドとは前から付き合いがあるだろう。城のことに関しては、商業ギルドの独断なのか、それともルマンダの指示なのか不明だ」
フェレスさんはノータッチらしい。
出店中の店もだけど、ルマンダさんとも癒着関係にあるのかもしれない。

「ルマンダさんに聞いてきます。後で相談に乗ってください」

「ああ」

僕はルマンダさんに話を聞きにいくけど、どこにいるんだろう?

「ルマンダさんがどこにいるか知りませんか?」
僕は目に付いた使用人の男性に聞く。

「す、すぐに探してきます」

「知らないなら、仕事を続けてもらっていいよ。ありがとう」
慌てて駆け出そうとするので止める。
僕は怖がられているんだろうか……。
いや、当たり前か。ここで働いている人は基本的にこの辺りに住んでいる人だろうから。

何人かに似た対応をされた後、ルマンダさんを発見する。

「聞きたいことがあるんですけど、忙しいですか?」

「私もマ王様に用がありましたので、ちょうどよかったです。聞きたいこととはなんでしょうか?」
ルマンダさんは僕に用があったそうだ。

「先にルマンダさんの用件を聞きますよ」

「では失礼して、先日お話しした建国式の準備が整いました。こちらがマ王様に読んでいただきたい原稿です。式典は3日後の昼に行います。参列される貴族の方はいませんので、原稿は民衆に向けての内容になっています」
ルマンダさんから封筒をもらう。
中にスピーチの原稿が入っているらしい。

「わかったよ。確認しておくね」

「私の用件はこれだけです。マ王様の聞きたいことを教えてください」

「商業ギルドについて聞きたいんだけど――――」
僕はルマンダさんにも商業ギルドであったことを説明する。

「……もちろん存じています」
ルマンダさんは商業ギルドのことを知ってはいたけど、特に動こうとは思っていないのかな?

「城に物を売りにくるのに、商業ギルドをなんで通さないといけないの?」
問題ではないかと思うところを聞いてみることにする。

「商業ギルドの方である程度選定してくれた上でこちらに話が来ますので、こちらの手間が省けます。また、商業ギルドを通すことで、商業ギルドに利益が生まれます。商業ギルドの利益となることをすることで、こちらが何かを頼む時に話を聞いてくれやすくなります」
こちらにもちゃんと益はあるようだ。

「手間はあるかもしれないけど、商業ギルドを通さない方が安く手に入るんじゃないかな?それに、商業ギルドにメリットがある話なら、そんなことしなくても話には乗ってくると思うけど……。選定する為なら、こちらから指定した場合は商業ギルドを通す必要は無いよね?」

「確かに安く手に入るかもしれませんが、商業ギルドとのパイプを強固にするのも大切です。契約を交わしているわけではありませんが、こちらから商人を招く場合にも商業ギルドを通してもらいます」
かなりズブズブな関係のようだ。

「それじゃあとりあえずその話は置いておきます。商品を見もせずに、出店の許可を出さないことは問題ですよね?」
次は服飾店を出そうてしていたお兄さんの話について聞く。

「それは商業ギルドの管轄だから、私の関与しているところではありません。そういうことをやっているという話を知っているというだけです。商業ギルドを通さずに店を出すと賊のような輩に潰されるという話ですが、商業ギルドが関与している証拠がないのでどうすることも出来ません」

「それはルマンダさんが侯爵だった時からですよね?なんで証拠を見つけるなりして対処してないんですか?」

「領地を運営する上で不利益がなかったからです。証拠があれば放置はしませんが、そうでないなら私が率先して動く理由はありません」
これが普通なのか、それともルマンダさんの頭が固いのか。
上に立つ者としての考えとして良し悪しはわからないけど、自分が良ければそれでいいという風にも聞こえてしまう。

「ルマンダさんは、今の現状を良しとしているんですか?」

「良いとはいいませんが、侯爵家の権力を使ってまで動くほど悪いとは思っていませんでした」

「悪いという認識はあるんですね?」

「ええ。ただ、商業ギルドを敵に回した場合のリスクと天秤に掛けると放置する方がいいと判断したまでです」
全体を考えて、個人は見捨てる判断をしたわけだ。

「それなら僕が商業ギルドを潰すと言ったらどうしますか?」

「もちろんお止めしますが、私はマ王様の配下です。マ王様が決めたのならば従います」

「ルマンダさんの考えはわかったよ。潰すつもりはないけど、今の状況を変えたいと思うから協力してほしい」

「もちろん協力いたします」

「それでだけど、ルマンダさんはこの服をどう思う?」
僕はお兄さんから買った服を見せる。

「特に変わった物には見えませんが……。何か特殊な効果でもあるんですか?」

「普通の服だよ。いくらだと思う?」

「大銅貨8枚くらいでしょうか?」

「こっちの服は?」
次に見せたのはシトリー用に買ったやつだ。
見せる為に借りている。

「銀貨1枚はすると思います」

「こっちが大銅貨3枚で、こっちが大銅貨5枚だよ」

「……ずいぶん安いですね」

「物も悪くないよね?」

「そうですね」

「これを作っている人が商業ギルドの利益の為に店を出せないんだよ。今の服飾屋は競合相手がいないから、利益を取りすぎていていると思う。服飾屋に限らずこの街は物価が高い。住みにくい街からはいつか人がいなくなるよ」

「申し訳ありませんでした。私の思慮が足りなかったみたいです」

「ルマンダさんを責めるつもりではなかったです。僕の考え方は王として間違っているかもしれません。商業ギルドと敵対することはリスクが大きいかもしれません。でも、国よりもそこに住む人を大事にしたいと思うんです。それに、結果として長い目で見れば、国の繁栄に繋がると僕は思います」

「かしこまりました。そのように進めます」
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