ピースオブケイク

沙那

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終端速度

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 「アリって10cmの所から落ちるのと、東京タワーから落ちるのはダメージ変わらないんだよ!知ってた?!」

「それ昨日Tw◯terで見たやつだろう?」

「なんでわかったの?!」


ハルキはいつも通り適当な事を言っていた。
僕はこの時間が好きだった。


ハルキは、またね~と彼氏の元に行く。


 陰鬱な気持ちで1人歩く。少し肌寒い。


『嫌な事は空を見て忘れる。
 悩みなんてちっぽけに感じる』


この言葉が僕は嫌いだった。

『人生の主人公は自分』

これもよく聞く。
これは頷ける。

なら主人公の悩みがちっぽけなわけがないだろう?

 

 家に着くが、もう何も見たくないので目を瞑る。

目を瞑っても視界はゼロにならない。
瞼の内側が見えている。


その幾何学のモヤモヤは理想と嫌な事を反芻する。


ハルキの笑顔は僕の1番好きなものだった。
考えるだけで、文字通り吐き気がするぐらいに。

ハルキの笑顔は1番見たくないものだった。
彼氏の話をする時しか見せないから。

もう取り憑かれてるな、なんて自嘲する。

それだけ熱々ならさっさとキュリー点を超えて欲しい。


シャワーを浴びたが少し外に出たくなった。
ドライヤー、上着、イヤホンも無しで。

「あぁ、靴下は履くべきだったな」

冷えるつま先、あても無く歩くペースは一定だった。


 日照時間が短くなってきたのを感じる。
金木犀の香りが僕は好きだった。


終端速度の話を思い出す。


『アリの10cm』


「僕はハルキとどれだけ距離をおけばこんなに辛くないんだろう。」


そんな僕を嘲笑うように、近所の仏具街を風俗求人トラックが爆音で走っていった。




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