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A1 合鍵
しおりを挟む「透子さん、これ」
さりげなさを装って、カウンター越しに渡されたものに、私は目を瞬かせた。
いつもの仕事帰り、毎度の『織苑orien』、今までと少し違うのは彼と私の関係――の、はず、なんだけど。
この度想いを通じ合わせて恋人同士、になった私と苑生くん。
でも、なんと申しますか、私たちの間にある空気はあんまり今までと変わりはない。
仕事の終わった私が閉店間際の店に寄り、お茶を飲み、どうってことないことを話して、閉店時間になって、彼が私の家まで送ってくれる。
もちろん夜遅いそんな時間に上がったりしないし、「コーヒーでも飲んでく?」は紅茶党の私たちにはない(第一、お茶飲んだ直後だよ)。
ベタベタするワケでもなし。
いちゃいちゃするワケでもなし。
いや、そんな辺り憚らずバカップルな真似をしたいとかそんなことを言っているんじゃないんだけど。
なんかこう、物足りないかなーとかなんとかごにょごにょ。
苑生くんたら紳士過ぎるんじゃないのとかごにょごにょごにょ。
私たちの年齢でキスしかしてないってどうなのとかって欲求不満か私はぁ!
こっちから言い出すのもちょっと、
なんかそういうムードになると邪魔が入るというかタイミングが悪いっていうか、
別にどうしてもしなきゃってワケでもないけど、
今まで焦らしすぎちゃったからアレなの、萎えちゃったの苑生くんっっ!?
なんて延々悶々と考え続け、結局今日も健全にご帰宅コース――と思ったら。
「家の鍵と店の鍵。持っていてくれますか」
こんな不意打ちってアリ?
ぱちぱち瞬きした瞳を、二つの鍵と、じっと私の反応を窺っている苑生くんとの間で往復させる。
あまりにも無言が続く私の様子に、平然、としていた苑生くんの顔が徐々に俯いていく。
耳とか、目元に朱が入って。
「……透子さん…、なんか、反応してください……」
涼しい顔をしたつもりで実はいっぱいいっぱいだったらしい苑生くんが傾いて棚に寄りかかる。
こみあげる笑みを抑えきれなかった。
「えへ」
にまにま、自分でもどうよってくらいニヤけながら、鍵をつまみ上げる。
輪っかを指に引っ掻けて、チャラチャラ。
「店の鍵まで、いいのー?」
「……透子さんに、持っていて欲しいんです。それで、出来れば、自由に使って貰えたら…」
そんな下手でどうするの。
まあ、それが苑生くんなんだろうけど。
なのにイキナリ強引な時もあったりするから、そのギャップにトキメいたりするんだけども。
てゆうかまだシテもないのに合鍵かぁ。
ズレてるよね、やっぱり私たち。
「あの、強制じゃありませんから、嫌だったら」
「マテマテマテ。どこをどう見たら今の私が嫌がってる風に見えるの」
引き気味な苑生くんが取り戻そうとする前に、さっさと鍵をキーケースにつけてやった。
ふと思って、訊いてみる。
「苑生くんにも、家の鍵渡した方がいい?」
いえそれは、と何故か躊躇いが返って。
「タガが外れますから。それに、透子さん嫌でしょう? 自分の時間邪魔されるの」
そうだけども。
私が自分の気持ちを自覚する前に、さんざん恋愛メンドイ男イラナイと言われ続けた苑生くんは、お付き合いを始めても遠慮がちだ。
私にウザイと言われないようにか、こちらが申し訳無いくらい気を使ってくれている。
どちらかというと、私が苑生くんに呆れられないか不安になる方だと思うんだけど。
もうちょっと、自信持ってくれていいのにな。
苑生くんは今までの彼氏とは違うのにな。
……ハイ、苑生くんがそういう態度になっちゃうのも、全て私のせいですね。
「私の自由に、って、都合よすぎる気がする」
「俺はいつ透子さんがいらしても構いませんから。――その代わり、」
――透子さんが来たときには、遠慮はしませんよ?
こちらに身を寄せた彼が囁く言葉に、身体の奥が震えた。
……それってどう取ればいいのかしら。
とりあえず。
今週末、さっそくこの鍵を使ってみたりしちゃったら、どうしてくれるのかな、苑生くん?
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