隣に誰かさん。etc.

深月織

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A4 はちみつはにー

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 甘やかされるのは嫌いだ。
 女の子扱いも、時にはこちらを軽く見ているような気分に陥らせる。
 そういうとこ、可愛くないって言われたこともあるけれど。
 性に合わないのは仕方ない。


 ――しつこく鳴るアラームを叱るように叩いて止めた。
 休みだっていうのに、どうして目覚ましなんて掛けたんだろう私。
 自分に対してぶつぶつ文句を言いながら、もう一度布団にもぐり込む。
 二度寝の至福。ふふふふふ。
 昨夜はね~、予定があるから早く寝なくちゃって言ってるのに、みっちゃんが長電話してきてさ~……
 飛び起きた。
  予 定 !!
 苑生くんと約束してたんじゃないか、私ッッ!
 枕元の目覚ましを掴んで針の位置を確かめる。
「ぎゃーっ十時いいいい!!!」
 よりによって約束の時間とかあり得ないし! 朝ごはんなんて当然パス、ってかどーして今日にかぎって髪跳ねてるかな! しかも着る服決めてないし!
 洗面所と自室を行ったり来たりバタバタして、いや、そんなことより連絡を入れる方が先だ、と携帯をひっ掴んだ。
 あうっ、メール来てるー!
 慌ててアドレスから苑生くんの番号を呼び出し押した。数コールも待たずに彼は出て。
 開口一番、見えていないというのに私はその場で土下座した。
『は……』
「ごめんなさいいいぃ!! 寝坊しましたああああぁっ!!」
 向こう側の静寂が痛い。
 いやもうホント、彼氏との久々デートに寝坊するってなにこの女。いくら苑生くんが私を恋人にするくらい心が広いっていってもムッとするでしょ。
 自分でツッコミを入れながらびくびくと返事を待つ。
 ふっと息を吐く気配に、『今、家ですか』と苦笑混じりの声が聞こえた。正座していた私は「はい!」とお行儀の良い返答。
『映画は次の回に変更しましょうか。この辺りをぶらついているんで、着いたら連絡下さい』
「了解致しました! 超早で行きます! 倍速で! 特急で!」
 何を言ってるんだか、テンパって叫ぶ私に笑う声。
『大丈夫ですよ、待っていますから。慌てて転ばないようにして下さいね』
 ・・・・・・。
 プチリと通話を切ったあと、私は撃沈。
 耳からヤられた……。
 なんだあの甘ったるい声は!
 お外でそんな声出すんじゃありません! 悪いオネーサンに連れてかれちゃうよ、苑生くんてば! はっ、私か、私が悪いオネーサンか!?
 こうしちゃいられない、と私は復活し猛スピードで着替え化粧身支度を整え、家を飛び出した。
 あの苑生くんを野放しにしておけば、ナンパ順番待ち行列が出来てしまう……!
 断固阻止なのよ!


「苑生くんはっ、私に甘すぎだと思いますっっ!」
 息を整えるより、遅れたお詫びより先に、そんな言葉が出た。
 待ち合わせ近くの雑貨屋に、目指す人物の頭が見えて、駆け寄って。私に気づいた苑生くんが、微笑ったのを目にした瞬間、たまらなくなったのだ。
 ああああ! なんでそんなカワイイかな!
 苑生くんは私より四つ下で、でも、だからって特に年下扱いをしている訳じゃない。場合によっては、私の方が子どもっぽかったりするし。
 だけど、ときどき。
 もうこんちくしょうどうしてくれようか! ってくらい、可愛くてしょうがないときがあるの。可愛いとか直接言ったらヘコむから、言わないけど。
 着くなり突然の私の発言に、当然ながら苑生くんはキョトン。駅着ダッシュで咳き込む私のツムジを瞬きしながら見下ろす。
「……そうですか? 普通だと思いますけど」
「甘いよ! 遅刻女にもっと厳しくしなきゃ、付け上がるだけなんだからね!」
 自分が言うことじゃないけど。苑生くんもそう思ったのか、笑い声を上げる。
「透子さんが急いで来てくれたのは一目瞭然だし――反省してるのも、勢いでわかります」
 それよりも、と乱れた私の髪をときながら。
「“寝坊した! 面倒くさいからキャンセルしようかな”、なんて気分にならずに走って来てくれたことの方が、ずっと嬉しいです」
 それどんな不義理人間、と聞かれたらツッコミが入りそうな感想だけど、心当たりがありすぎた私は呻いて苑生くんを睨んだ。
「それ言ったのバカ篤史でしょ……。余計なことばっかり苑生くんに吹き込んであのバカいっぺんシメる……!」
 はい、どんな不義理人間は私です、私が歴代のオトコにした仕打ちだよそれは!
 学生時代の友人で、瞬間彼氏だったこともある男は私のいない隙に苑生くんのところへ現れて、このように、過去の私の女としてのダメさ加減を彼に話しているらしいのだ。
 うんやっぱりシメよう。キュッと。ギュギュッと。
 頭の中で篤史に制裁を加えていると、握りこぶしを解かれて、繋がる手のひら。
「走って来てくれるうちは、透子さんが俺を想ってくれているんだって実感できますから。待つのも楽しいですよ」
 私の渋面にクスクス笑いながら、そんなことを言う。
「……だから甘いよ、苑生くん……」
 指を絡めて。
 ぎゅっと握った。
 頭二つは低い私のために、少し屈んで言葉を聞いてくれる彼に、背伸びして、ささやく。
 ―遅れてごめんね、待っててくれてありがとう―
 返ってくる柔らかい笑顔に、やっぱり甘いよ苑生くん、と胸に呟きながら。
 とろけるように甘ったるい気分も、君がくれるなら悪くない、と思ってしまう、現金な私なのだった。

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