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B1 とある彼女と彼の小話
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(こちらのSSは『ヒロインかもしれない。』とビミョーにリンクしております。ご注意)
面倒くさいが口癖の彼女が、タダとはいえホテルのブライダルイベントに参加するのをオッケーするなんて、変だと思ったんだ。
従兄弟の仕事先からのツテで手に入れた有名ホテルのチャペルブライダルイベントの招待状。
イベントに参加したカップルには、セミスウィートの宿泊チケットがついてくる。
ブライダルイベントなんて面倒だしヤダ。彼女はきっとそう言うだろうなと予想していた俺は、ちょっと考えたあとに頷かれたいいよと言う言葉に馬鹿みたいにうろたえた。
もしかして、と思ったのに。
案の定俺の仄かな期待は裏切られ、サラリとイベントを流して、夜になったとたん俄然イキイキしだした彼女が言ったのは。
――伝説のバーテンダーがいるバーに飲みに行こう!
めくるめくはずだったスウィートな夜は、酒に負けた。
「おいしいっ♪」
バーの席に着くなり、「ゴキゲンでスカッとサワヤカなやつお願いしますっ」と無茶な注文をした透子さん。
四十代半ば程の渋いバーマスターは、あのよくわからない注文にふっと渋く微笑んで、彼女の要望通りのカクテルをためらいなく出してきた。
参考までに少し貰ったが、なるほど、ゴキゲンでスカッとサワヤカなやつ。ベースはドライジン? 何だろう。俺も茶葉のブレンドはするが、はたしてご満足いただけるものをあんなふうにスマートに出せるか、甚だ疑問だ。
再び隣で、「甘くてウットリではじけそうなやつ!」と無茶な注文を繰り返している透子さんを見つめて、俺はご機嫌ですね、と声をかけた。
「んっ? んふふふ~、そうかな~?」
透子さんのゴキゲンとは裏腹に、俺の思考は下降ぎみ。その理由はどちらも、さきほど出会したカップルにあることは言わずともわかることだ。
「……振ったお見合い相手とその彼女に会って何故ご機嫌になるのか透子さんの頭の中を覗いてみたいですねぇ…」
俺は自分の頼んだカクテルを空けながらポツリと漏らす。それを耳にした透子さんはわかりやすく固まった。
「ふへ? ぅえぇっ? あぅ、何で……」
「何でお見合い相手だってわかったの、ですか? わかりますよ、透子さんの顔見てたら」
慌て出した彼女をじいっと見つめる。そわそわ視線をさ迷わせたあと、透子さんはムゥ、と唇を尖らせた。
「だって。よかったなって思ったんだもん、勝手だけど」
よかったな? 言葉の意味が分からず、目線で訊ねると、
「ほらぁ、私、失礼なことしちゃったでしょ? あっちから見ると、当て馬的な。……正直、あのお見合いがなかったら、自分の気持ち自覚してなかっただろうし……」
最後は口ごもる。
ああ、まあ、確かに。透子さんの見合いの話を聞かなければ、俺だって多分まだ悠長に構えていたんじゃないだろうか。
それを思えば―――、
「それ考えたら、苑生くんとこうしていられるのだって南条さんのお陰かなって。だから、彼も自分の相手を見つけられていてよかったなって思ったの!」
あの時のことを思い出したのか、いささか照れながら透子さんはグラスのカクテルを飲み干す。
「まあそうですね……、あの様子を見るに透子さんに未練なんて少しも無いようでしたし」
一緒にいた彼女にしか神経がいってなかったようだし。透子さんを認めて、ヤベエって焦った色が一瞬目に過ってたもんな。
あのちっこい彼女、ご機嫌損ねてないといいんだけど。
「未練なんてあるわけないよ~。彼、恋愛感情で私を選んだんじゃないもの」
一組のカップルに波風を立てたかもしれないと気付いているのかいないのか、ピックに刺さったオリーブをつまみながらケロリと透子さんが発言する。
「そりゃ好意は持っててくれただろうけど、どっちかっていうと当たり障りない結婚相手としてしか見られてなかったと思うんだ。オトナの事情的な」
冷静に分析する彼女は、俺が意外だ、という表情をしたのに気付いてニヤリと笑う。
「それくらいわかりますよ~。全然違ったもん、私とお見合いしてたときと、さっきの南条さん。かわいかったねぇ~」
その“かわいい”はどちらに掛かるのか。彼女か彼か。彼だとしたら気の毒なので、追求しないことにしよう。
天然のくせにときどき鋭い。ぽやんとしてるくせにある部分は大人な彼女。
普段四つの年の差なんて気にならないけれど、ふと見せる悟った思考に淡く焦りを感じることもある。
恋人になって一年経つんだけどな。従兄弟から、このホテルのブライダルフェアのチケットを貰ったのはいい機会だと思ったのに。
普通、年上の彼女の方が結婚を焦ったりするもんじゃないんだろうか。
お互いいい年なんだし、その辺りを考えても良さそうなのに、透子さんは『結婚は面倒くさい』という主張を変えてはくれない。
俺のことは好きでいてくれている。それを疑ったことなんてない。が、それとこれとは別、らしい。
さっきも大否定してくれちゃいましたしね。
昼間フェアで見て回ったウェディングドレスやチャペルに、はしゃいで興味深げにしてたくせに。肝心の話になるとスルーだし。
もはやアレか、この面倒くさがりなひとに結婚を決意させるのはあの手段しかないのか。
まあ貯金はそこそこ増えてきたし。
店の方も軌道に乗ってきたし。
透子さんも俺も、特に贅沢をしようなんて考えてないし。
扶養家族が一人や二人増えても何とかなるくらいには、生活も出来る。
最終手段について俺が作戦をたてている横で、もう何杯目になるのか分からないカクテルを美味しそうに口にしている彼女を眺めた。
目が合うと首を傾げつつも微笑む。
いえいえ酔ってませんよ、透子さん。役に立たなくなったら困りますしね。明日も休みを取っていますからね。チェックアウトの時間は遅く出来るそうだし、閉店まで飲んでいても、部屋に戻ったら時間はたっぷりありますよ。
透子さん、俺は是非とも透子さん似の女の子が欲しいなぁと思うんですが、どうですか?
面倒くさいが口癖の彼女が、タダとはいえホテルのブライダルイベントに参加するのをオッケーするなんて、変だと思ったんだ。
従兄弟の仕事先からのツテで手に入れた有名ホテルのチャペルブライダルイベントの招待状。
イベントに参加したカップルには、セミスウィートの宿泊チケットがついてくる。
ブライダルイベントなんて面倒だしヤダ。彼女はきっとそう言うだろうなと予想していた俺は、ちょっと考えたあとに頷かれたいいよと言う言葉に馬鹿みたいにうろたえた。
もしかして、と思ったのに。
案の定俺の仄かな期待は裏切られ、サラリとイベントを流して、夜になったとたん俄然イキイキしだした彼女が言ったのは。
――伝説のバーテンダーがいるバーに飲みに行こう!
めくるめくはずだったスウィートな夜は、酒に負けた。
「おいしいっ♪」
バーの席に着くなり、「ゴキゲンでスカッとサワヤカなやつお願いしますっ」と無茶な注文をした透子さん。
四十代半ば程の渋いバーマスターは、あのよくわからない注文にふっと渋く微笑んで、彼女の要望通りのカクテルをためらいなく出してきた。
参考までに少し貰ったが、なるほど、ゴキゲンでスカッとサワヤカなやつ。ベースはドライジン? 何だろう。俺も茶葉のブレンドはするが、はたしてご満足いただけるものをあんなふうにスマートに出せるか、甚だ疑問だ。
再び隣で、「甘くてウットリではじけそうなやつ!」と無茶な注文を繰り返している透子さんを見つめて、俺はご機嫌ですね、と声をかけた。
「んっ? んふふふ~、そうかな~?」
透子さんのゴキゲンとは裏腹に、俺の思考は下降ぎみ。その理由はどちらも、さきほど出会したカップルにあることは言わずともわかることだ。
「……振ったお見合い相手とその彼女に会って何故ご機嫌になるのか透子さんの頭の中を覗いてみたいですねぇ…」
俺は自分の頼んだカクテルを空けながらポツリと漏らす。それを耳にした透子さんはわかりやすく固まった。
「ふへ? ぅえぇっ? あぅ、何で……」
「何でお見合い相手だってわかったの、ですか? わかりますよ、透子さんの顔見てたら」
慌て出した彼女をじいっと見つめる。そわそわ視線をさ迷わせたあと、透子さんはムゥ、と唇を尖らせた。
「だって。よかったなって思ったんだもん、勝手だけど」
よかったな? 言葉の意味が分からず、目線で訊ねると、
「ほらぁ、私、失礼なことしちゃったでしょ? あっちから見ると、当て馬的な。……正直、あのお見合いがなかったら、自分の気持ち自覚してなかっただろうし……」
最後は口ごもる。
ああ、まあ、確かに。透子さんの見合いの話を聞かなければ、俺だって多分まだ悠長に構えていたんじゃないだろうか。
それを思えば―――、
「それ考えたら、苑生くんとこうしていられるのだって南条さんのお陰かなって。だから、彼も自分の相手を見つけられていてよかったなって思ったの!」
あの時のことを思い出したのか、いささか照れながら透子さんはグラスのカクテルを飲み干す。
「まあそうですね……、あの様子を見るに透子さんに未練なんて少しも無いようでしたし」
一緒にいた彼女にしか神経がいってなかったようだし。透子さんを認めて、ヤベエって焦った色が一瞬目に過ってたもんな。
あのちっこい彼女、ご機嫌損ねてないといいんだけど。
「未練なんてあるわけないよ~。彼、恋愛感情で私を選んだんじゃないもの」
一組のカップルに波風を立てたかもしれないと気付いているのかいないのか、ピックに刺さったオリーブをつまみながらケロリと透子さんが発言する。
「そりゃ好意は持っててくれただろうけど、どっちかっていうと当たり障りない結婚相手としてしか見られてなかったと思うんだ。オトナの事情的な」
冷静に分析する彼女は、俺が意外だ、という表情をしたのに気付いてニヤリと笑う。
「それくらいわかりますよ~。全然違ったもん、私とお見合いしてたときと、さっきの南条さん。かわいかったねぇ~」
その“かわいい”はどちらに掛かるのか。彼女か彼か。彼だとしたら気の毒なので、追求しないことにしよう。
天然のくせにときどき鋭い。ぽやんとしてるくせにある部分は大人な彼女。
普段四つの年の差なんて気にならないけれど、ふと見せる悟った思考に淡く焦りを感じることもある。
恋人になって一年経つんだけどな。従兄弟から、このホテルのブライダルフェアのチケットを貰ったのはいい機会だと思ったのに。
普通、年上の彼女の方が結婚を焦ったりするもんじゃないんだろうか。
お互いいい年なんだし、その辺りを考えても良さそうなのに、透子さんは『結婚は面倒くさい』という主張を変えてはくれない。
俺のことは好きでいてくれている。それを疑ったことなんてない。が、それとこれとは別、らしい。
さっきも大否定してくれちゃいましたしね。
昼間フェアで見て回ったウェディングドレスやチャペルに、はしゃいで興味深げにしてたくせに。肝心の話になるとスルーだし。
もはやアレか、この面倒くさがりなひとに結婚を決意させるのはあの手段しかないのか。
まあ貯金はそこそこ増えてきたし。
店の方も軌道に乗ってきたし。
透子さんも俺も、特に贅沢をしようなんて考えてないし。
扶養家族が一人や二人増えても何とかなるくらいには、生活も出来る。
最終手段について俺が作戦をたてている横で、もう何杯目になるのか分からないカクテルを美味しそうに口にしている彼女を眺めた。
目が合うと首を傾げつつも微笑む。
いえいえ酔ってませんよ、透子さん。役に立たなくなったら困りますしね。明日も休みを取っていますからね。チェックアウトの時間は遅く出来るそうだし、閉店まで飲んでいても、部屋に戻ったら時間はたっぷりありますよ。
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