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B2 無印なアオイトリ
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(※某アオイトリのネタバレが含まれます。ご注意)
とある休日。
3つ年下の従妹から「話があるんだけど、ゆっくり会えない?」と連絡があった。
ちょうど苑生くんのところに泊まりに来ていた私は、【織苑】の場所を教えて、現在従妹待ち。
「従妹さんはお近くにお住まいですか?」
「蒼蓉市にね。高校教師なんてめんどくさいことやってるよ。話ってなんだろー。嫌な予感」
予想通りだったら弾んでいても良さそうなものなのに、電話ではやけに憂鬱な声出してたし。
むー? と首を傾げていると、苑生くんがもじもじ茶缶を弄りながら言う。
「俺、ご挨拶した方が良いですか」
「んー、どっちでもいいよ。照れくさいけど、あの子だし、家の両親に余計なことは言わないと思うから」
万が一私の付き合っている相手が喫茶店主で地味美形な好青年だと知れれば、うちのオカンはご近所のおばさま方とツアーを組んで【織苑】にやって来るに違いない。恐ろしい。
おっとりさんな苑生くんがオモチャになることは間違いないのだ……!
「……あちらの女性ですか、もしかして」
苑生くんの声に顔を上げる。振り向くと、おずおず扉から顔を覗かせている従妹の姿があった。
私と目が合って、ホッとした表情になる。
「とおこちゃん」
「おぅ、久しぶりー」
かれこれ半年ぶりくらいに会う従妹は、姿形は変わらないのに微妙に以前より女らしい印象になっていた。うん、原因は男だな。それもいい男系だ。彼女ラブという意味で。
苑生くんに目配せして、窓際の席に移動した。
「ここのは何でもオススメだよ」
「さすがとおこちゃんお気に入りのお店、品揃えがマニアック……」
メニューを開いてそう呟いた従妹に、苑生くんが吹き出しそうな顔をする。んもう。
「んで、どうしたのさ。話があるの、なんて改まって」
「……ええと……大変遺憾なことに、この度ワタクシ人生の墓場に入ることが決定致しまして……」
「回りくどいな! 結婚? 以前付き合ってた相手とはポシャったんでしょ、オカンが言ってたけど」
「それ一年以上前のはなし。別の相手。……で、結婚式なんだけど、長時間拘束だけどけっこう自由でめんどくさい方と、短期決戦だけど気疲れはこっちの方が確実なめんどくさい方、とおこちゃん、どっちに出席してくれる?」
「なんだその二択……」
「言わないで。マリッジブルー通り越してブラックになりそうなの……黒いウェディングドレスでも着てやろうかしらうふふふふ……」
それどんな黒鳥。
従妹が言葉を切ったタイミングで、「失礼します」と苑生くんがお茶を運んでくる。「どうしましょう?」と目で訊ねてくるのに「あとで」と返して、従姉妹に向き直った。
「どっちって、アンタ二回結婚式すんの?」
「いやまさか。うん……ごく身近な身内や友人だけの式を海外で挙げて、こっちでは仕事関係とか取引関係とかご親族様一同とかを集めて披露宴をと」
「めんどくさ!」
「言うと思った……」
ガクリ、肩を落とす従妹が憔悴しているのも無理はない。しかし、
「どういう相手なの? 海外とか、その披露宴とか」
「…………ヒヨウグループ知ってる?」
両手で顔を伏せて、チラリ、隙間から私を窺う。挙動不審だなあ。いつもシレッとしているくせに。
知らないわけがなかろう、蒼蓉市を束ねる財閥じゃないか。
「そこのね、……」
「社員? エリートだね」
いや、そうじゃなく、ううん違わないんだけど、歯切れ悪く呟く従妹に話の先を促した。
「そこの、御曹司……」
「ハ?」
――あととりが、相手です。
余命宣告を受けた人のように絶望と諦観のいりまじる笑みを浮かべて従妹が言う。
理解した瞬間のけぞった。
「めんどくせええええ!!」
「……想像通りのリアクションありがとうとおこちゃん」
「いったいぜんたい何故そんな面倒なことに!」
「……えー、うー、……なんか成り行き……? もとは、うちの学校の理事長として来たのがきっかけと言えばきっかけ……?」
疑問符だらけなんだけど! しっかりしてー!
叫んだ瞬間ぎょっとしてこちらを見た苑生くんに、何でもないと手を振って、話に戻る。
「ちょっと、真面目に大丈夫なの? そんなところに嫁に行って」
「あー、うん、個人的には普通……普通? ふつうよ、ちょっと金銭感覚とか常識とかズレてるけど」
それ大丈夫って言わない。ちゃんと話をお聞かせなさい、と口を開きかけたところで、――従妹の携帯がけたたましく鳴った。
むっ、とひそめられる眉。いいよ、出なよ、と指差すと、ため息を吐き、従妹は通話ボタンを押す。
「……はい。どこにいる、って言ったでしょう、従姉に会いに行くって。はあ? なんでいちいち隣の市に行くのに許可を貰わなきゃならないんですか、どうせ警護つけてるんでしょ、なら良いじゃないの。……来んな。挨拶なんかしなくていいから。どうせ結婚式で会うじゃないの。だーかーらー松岡さんをいちいちそんなことに使わない! 切りますよ!」
……どうやら婚約者。ずいぶん過保護というか、ウザそうな野郎だな。写真持ってないかな写真。
まあ、この子がこの調子なら心配ないだろう。ちゃんと手綱取れそうだし。
苦虫を噛み潰したようなものから、諦めたもの、そして仕方ないなあという僅かな微笑みを浮かべた表情に変わる従妹を眺めつつ、紅茶をグビリと飲んだ。
「ええ。――お土産買って帰りますから。お仕事頑張ってくださいね」
鞭と飴、甘ったるい声で最後にそう言って、通話を切った途端――「ウッザ」、とため息を吐く。
思いきり吹き出した。
「愛されてるなー! 御曹司、イイオトコ?」
「……まあ。まあ……、素直にyesとは言い難い人だけど」
「フフーン。ま、アンタが好きならいいわ。会えるの楽しみにしとく」
そんな不満げな顔したって、私にはわかるっつーの。
ツンデレで素直じゃない従妹を、にやにや笑ってやった。
とある休日。
3つ年下の従妹から「話があるんだけど、ゆっくり会えない?」と連絡があった。
ちょうど苑生くんのところに泊まりに来ていた私は、【織苑】の場所を教えて、現在従妹待ち。
「従妹さんはお近くにお住まいですか?」
「蒼蓉市にね。高校教師なんてめんどくさいことやってるよ。話ってなんだろー。嫌な予感」
予想通りだったら弾んでいても良さそうなものなのに、電話ではやけに憂鬱な声出してたし。
むー? と首を傾げていると、苑生くんがもじもじ茶缶を弄りながら言う。
「俺、ご挨拶した方が良いですか」
「んー、どっちでもいいよ。照れくさいけど、あの子だし、家の両親に余計なことは言わないと思うから」
万が一私の付き合っている相手が喫茶店主で地味美形な好青年だと知れれば、うちのオカンはご近所のおばさま方とツアーを組んで【織苑】にやって来るに違いない。恐ろしい。
おっとりさんな苑生くんがオモチャになることは間違いないのだ……!
「……あちらの女性ですか、もしかして」
苑生くんの声に顔を上げる。振り向くと、おずおず扉から顔を覗かせている従妹の姿があった。
私と目が合って、ホッとした表情になる。
「とおこちゃん」
「おぅ、久しぶりー」
かれこれ半年ぶりくらいに会う従妹は、姿形は変わらないのに微妙に以前より女らしい印象になっていた。うん、原因は男だな。それもいい男系だ。彼女ラブという意味で。
苑生くんに目配せして、窓際の席に移動した。
「ここのは何でもオススメだよ」
「さすがとおこちゃんお気に入りのお店、品揃えがマニアック……」
メニューを開いてそう呟いた従妹に、苑生くんが吹き出しそうな顔をする。んもう。
「んで、どうしたのさ。話があるの、なんて改まって」
「……ええと……大変遺憾なことに、この度ワタクシ人生の墓場に入ることが決定致しまして……」
「回りくどいな! 結婚? 以前付き合ってた相手とはポシャったんでしょ、オカンが言ってたけど」
「それ一年以上前のはなし。別の相手。……で、結婚式なんだけど、長時間拘束だけどけっこう自由でめんどくさい方と、短期決戦だけど気疲れはこっちの方が確実なめんどくさい方、とおこちゃん、どっちに出席してくれる?」
「なんだその二択……」
「言わないで。マリッジブルー通り越してブラックになりそうなの……黒いウェディングドレスでも着てやろうかしらうふふふふ……」
それどんな黒鳥。
従妹が言葉を切ったタイミングで、「失礼します」と苑生くんがお茶を運んでくる。「どうしましょう?」と目で訊ねてくるのに「あとで」と返して、従姉妹に向き直った。
「どっちって、アンタ二回結婚式すんの?」
「いやまさか。うん……ごく身近な身内や友人だけの式を海外で挙げて、こっちでは仕事関係とか取引関係とかご親族様一同とかを集めて披露宴をと」
「めんどくさ!」
「言うと思った……」
ガクリ、肩を落とす従妹が憔悴しているのも無理はない。しかし、
「どういう相手なの? 海外とか、その披露宴とか」
「…………ヒヨウグループ知ってる?」
両手で顔を伏せて、チラリ、隙間から私を窺う。挙動不審だなあ。いつもシレッとしているくせに。
知らないわけがなかろう、蒼蓉市を束ねる財閥じゃないか。
「そこのね、……」
「社員? エリートだね」
いや、そうじゃなく、ううん違わないんだけど、歯切れ悪く呟く従妹に話の先を促した。
「そこの、御曹司……」
「ハ?」
――あととりが、相手です。
余命宣告を受けた人のように絶望と諦観のいりまじる笑みを浮かべて従妹が言う。
理解した瞬間のけぞった。
「めんどくせええええ!!」
「……想像通りのリアクションありがとうとおこちゃん」
「いったいぜんたい何故そんな面倒なことに!」
「……えー、うー、……なんか成り行き……? もとは、うちの学校の理事長として来たのがきっかけと言えばきっかけ……?」
疑問符だらけなんだけど! しっかりしてー!
叫んだ瞬間ぎょっとしてこちらを見た苑生くんに、何でもないと手を振って、話に戻る。
「ちょっと、真面目に大丈夫なの? そんなところに嫁に行って」
「あー、うん、個人的には普通……普通? ふつうよ、ちょっと金銭感覚とか常識とかズレてるけど」
それ大丈夫って言わない。ちゃんと話をお聞かせなさい、と口を開きかけたところで、――従妹の携帯がけたたましく鳴った。
むっ、とひそめられる眉。いいよ、出なよ、と指差すと、ため息を吐き、従妹は通話ボタンを押す。
「……はい。どこにいる、って言ったでしょう、従姉に会いに行くって。はあ? なんでいちいち隣の市に行くのに許可を貰わなきゃならないんですか、どうせ警護つけてるんでしょ、なら良いじゃないの。……来んな。挨拶なんかしなくていいから。どうせ結婚式で会うじゃないの。だーかーらー松岡さんをいちいちそんなことに使わない! 切りますよ!」
……どうやら婚約者。ずいぶん過保護というか、ウザそうな野郎だな。写真持ってないかな写真。
まあ、この子がこの調子なら心配ないだろう。ちゃんと手綱取れそうだし。
苦虫を噛み潰したようなものから、諦めたもの、そして仕方ないなあという僅かな微笑みを浮かべた表情に変わる従妹を眺めつつ、紅茶をグビリと飲んだ。
「ええ。――お土産買って帰りますから。お仕事頑張ってくださいね」
鞭と飴、甘ったるい声で最後にそう言って、通話を切った途端――「ウッザ」、とため息を吐く。
思いきり吹き出した。
「愛されてるなー! 御曹司、イイオトコ?」
「……まあ。まあ……、素直にyesとは言い難い人だけど」
「フフーン。ま、アンタが好きならいいわ。会えるの楽しみにしとく」
そんな不満げな顔したって、私にはわかるっつーの。
ツンデレで素直じゃない従妹を、にやにや笑ってやった。
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