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しおりを挟む選定会場を出ると廊下に父の姿を見つけた。
「お父様~ 来てくださったのね」
「ああアヴィが心配で、それとこちらの方がアレを取りに来られたんだ」
お父様の後ろには高貴な美丈夫が立っておられた。
鉄色の髪に水色の瞳「無精ひげの・・・まぁバルトさんも」
「俺はハーレン国の第四王子ビクトールだ。あの時は救ってくれて有難う」
「ハーレン国の王子様でしたか。石を受け取りに来て下さったのですね」
「ああ、確かに受け取ったよ。あの後直ぐに帰国して陛下に報告したんだ。それから公爵の手紙も届いて、陛下は国宝を返してくれるなら2年間の事は不問にすると仰ってくれた」
「有難うございます」
ビクトール殿下は陛下の命令で国宝の【聖石】を探し求めて旅をしていたところ我が国の震災に出くわした。あの日私が突然【聖石】の存在を叫んだのは心底驚いたと言って笑った。
「今日は興味深い催しを見れた。一度国に戻ってまた会いに来るよ、アヴィオール聖女」
殿下は私の髪を掬ってキスを落とし───私の心臓は跳ねた。
殿下とお別れをしていると「アヴィオール!」とユーミナが血相を変えて近づいて来る。
本来ビクトール殿下を救ったのはユーミナだったのだ。何か嫌な予感がして私もユーミナに向かって歩いて行った。
「何かしら?選定会の結果は私のせいじゃないわ。クレームなら神殿にどうぞ」
「うるさい!お前のせいだ!お前がぁああ!」
ユーミナはナイフを振り上げて───死ぬのは私?
だが彼女は私を庇ったビクトール様に腕を掴まれてナイフを取り上げられた。
「離せ!悪役は消してリセットするんだから!」
「バルト!この女を押さえろ・・・くっ!暴れるな・・!!アヴィオール!危ない!」
ビクトール様はユーミナを突き放し、次に私を突き飛ばした。
倒れざまに司祭が長剣でビクトール様の心臓を貫くのが見えた・・・・バルトさんが司祭を羽交い絞めにして、父がビクトール様に駆け寄って・・・司祭は私に向かって叫んでいた・・・
「お前のせいで私は神殿を追放された!殺してやる!」
「あはははイベントが起きてるわ!私が救ってあげる大聖女は私なんだから!」
二人は狂ってる・・・狂ってるわ!!!
私のせいでビクトール様が?
「そんな・・・違う、こんなのは間違ってる」
ビクトール様の手を取っても彼は微動だにしなかった。
「神様、≪声≫は?私に≪懺悔≫させてよ!」
「ああ・・即死だったようだ・・・」
父が横に首を振る、ビクトール様が死んだ?
「殿下!」
父を押しのけてベルトさんがビクトール殿下の体を揺さぶるも殿下は動かなかった。
「神様!懺悔します。私は転生者で、全て知っていました。それなのにビクトール様の死を防げなかった。私がストーリーを変えてしまったからです!どうか私の命で償わせて下さい!お願いします!」
懺悔したよ?神様はなんで答えてくれないの?
「死なせないで!いやよ!ぁあ・・あああ・・・」
≪汝の願い聞き届けた≫
「ふぇ?」
彼の体が淡い光で包まれて───握っていたビクトール様の手がかすかに動いた・・・
薄く目を開いて・・・「ほぉ」と息を吐いた。
「ビクトール様?・・・生きて・・・ますか?」
「走馬灯を・・・見る間も無かった。死とは 無だな・・・」
「ビクトールさま・・」
何も言えなくて泣き続ける私をビクトール様は抱き締めた。
大勢の足音が聞こえてくる。
「ハーレン国第四王子ビクトール殿、私はこの国の王太子エドワーズと申します」
殿下と彼の後ろには護衛に縛られた司祭とユーミナがいた。
「始めましてですね、エドワーズ王太子殿下」
「この度は申し訳ない。どうお詫びすれば良いのか」
「いえ、命と引き換えにもっと大事なモノを手に入れました」
「そうですか・・・」
エドワーズ殿下は眉を寄せて私に顔を向けた。
「大司祭殿と話していたんだ。君が大聖女に選ばれるべきではないかと。だが『私に神の声は聞こえなかった。アヴィオール様には聞こえたようです。そんな私に選定などおこがましい』と仰った。君には聞こえていたのか?」
「私は≪懺悔せよ≫と言われただけです。悪い事ばかりしてきましたから」
「そうか、私は・・・最後まで君を信じられなかった。すまなかった」
「私は修道院行きで許して頂けます?」
「なんの事かな?」
「殿下・・・」
終わった。私は処刑を回避して失われる命と家族を守った。
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