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21 グレンの話
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寮に戻ればやはりドアの前にはゴミが散らばっている。
机上にはまた『偽物に幸福は訪れない出て行け』と脅迫文が置いてあった。
留守中に管理人からカギを拝借して私の部屋に出入りしているのだろうか。内容が意味深なので誰にも相談できない。
掃除を終え、荷物を片付け食堂に向かえば、相変わらず嫌な雰囲気だが気にしない。アーヴィング殿下は何とかすると約束してくれた。
私も殿下に頼るだけではこの状況を脱するのは難しいと分かっている。
「どいて下さる!」
食堂で料理を受け取ろうと並んでいる私の背を肘で押したのは1-Aのサイラスフアンのネミラ嬢、前回は大目に見たが今回は許さない。クスクス笑っているご令嬢方の中にはコーデリアのグループも含まれる。
「疚しい気持ちをお持ちだと自責の念で体が反応するそうですよ。お気を付け下さいませ」
食堂の隅まで響く大きな声で私は警告した。今夜アンモニア入りビーカーを持ってお邪魔しますね。
*
翌朝、「あら、お寝坊さんが多いのね」と調理係の女性達が話している。
お寝坊さん達は今頃、真っ青になってベッドを乾かしているはずだ。アンモニアを多めにしておいたので悪臭に涙しているだろう。
寮を出るとグレンが気まずそうな顔で待っていた。
「おはようシア、殿下の命令で迎えに来た」
「やめて、誤解されると困りますので」
「シア、今日だけだ。我慢して欲しい」
差し出されたグレンの腕に、黙って手を添えてエスコートされる形になった。
大勢の令嬢達が何事かと、立ち止まって見ている。
グレンが小声で話しを切り出した。
「私達は殿下より側近の任を解かれた」
「三人ともですか、どうして?」
「殿下はハサウェイ家とは一線を画するつもりだ。王太子派との亀裂は避けたいからね。もっと早くそうするべきだったかもしれないが、私達は幼馴染で親友だった。それはルナシアも同じだ」
「殿下は噂の原因は貴方の妹姫だとご存じでしたよ」
「ルナはいつも悪気は無く、周囲が過剰に反応するんだ。だが今回はそれを利用した。それで殿下は怒っている」
悪気が無いだと?とんだシスコン兄貴だ。
「私は貴方がたに迷惑をかけましたか?なんなのこの仕打ちは」
「今朝から殿下が対処するように学校に申し出ている」
「私は学校生活が楽しめれば満足なんです。邪魔しないで欲しいです」
「分かっている。私からも何対処する。しかし君が平穏な学校生活を望むのは難しいかもしれないぞ」
「どうしてですか?」
「始祖返りなんだ、アーヴィング殿下は。──意味は自分で調べると良い。今まで私は妹のルナシアの恋を応援してきたが、もう諦めるよう説得するよ」
「ルナシア様が殿下を怒らせてしまったから?謝ってもダメなんですか?」
「ああ、絶望的だ」
意地悪なルナシアがどうなろうと構わない、そう思って話題を切り替える。
「グレン様、お願いがあります。夏季休暇に離れ屋に数日滞在させて頂けませんか」
「離れ屋にか?構わないが」
「荷物を置いたままなので取りに行きたいのです。それと譲って頂きたい物があるんです」
屋根裏のアンティーク家具は不要品で処分するつもりだと説明され、幸運にも私は姿見鏡をタダで譲ってもらえる事になった。
「では公爵が留守にする間に来ると良い。調べて連絡しよう」
「有難うございます。食事など自分でしますから放置して下さい」
「好きにするといい」
頭を寄せて小声で話す私達は仲の良い男女に見えるだろう。そんな私達に校舎前で待っていたルナシア様は目を見開いて近づいてきた。同じく解任された他の2名の側近がルナシアの後方にいる。
「お兄様、今朝は早く屋敷を出られたので、どうしたのかと思いました」
「彼女に用があってね、紹介しようバレンシア・オーハン伯爵令嬢だ」
「オーハン特級魔法伯の娘、バレンシアで御座います。お見知りおきを」
「お兄様が側近を辞めるって本当ですか?」
私の挨拶は無視された。
「本当だよ、ルナは満足に挨拶も出来ないのかい?」
「いえ、驚いてしまって、申し訳ありませんでした。バレンシア様」
「お気になさらず。私はこれで失礼致します。グレン様今日は有難うございました」
あの兄妹に関わるとロクな目に遭わない。
片っ端からアンモニアのお仕置きしても良いけど、殿下と生徒会が動いてくれるなら、任せてみよう。
机上にはまた『偽物に幸福は訪れない出て行け』と脅迫文が置いてあった。
留守中に管理人からカギを拝借して私の部屋に出入りしているのだろうか。内容が意味深なので誰にも相談できない。
掃除を終え、荷物を片付け食堂に向かえば、相変わらず嫌な雰囲気だが気にしない。アーヴィング殿下は何とかすると約束してくれた。
私も殿下に頼るだけではこの状況を脱するのは難しいと分かっている。
「どいて下さる!」
食堂で料理を受け取ろうと並んでいる私の背を肘で押したのは1-Aのサイラスフアンのネミラ嬢、前回は大目に見たが今回は許さない。クスクス笑っているご令嬢方の中にはコーデリアのグループも含まれる。
「疚しい気持ちをお持ちだと自責の念で体が反応するそうですよ。お気を付け下さいませ」
食堂の隅まで響く大きな声で私は警告した。今夜アンモニア入りビーカーを持ってお邪魔しますね。
*
翌朝、「あら、お寝坊さんが多いのね」と調理係の女性達が話している。
お寝坊さん達は今頃、真っ青になってベッドを乾かしているはずだ。アンモニアを多めにしておいたので悪臭に涙しているだろう。
寮を出るとグレンが気まずそうな顔で待っていた。
「おはようシア、殿下の命令で迎えに来た」
「やめて、誤解されると困りますので」
「シア、今日だけだ。我慢して欲しい」
差し出されたグレンの腕に、黙って手を添えてエスコートされる形になった。
大勢の令嬢達が何事かと、立ち止まって見ている。
グレンが小声で話しを切り出した。
「私達は殿下より側近の任を解かれた」
「三人ともですか、どうして?」
「殿下はハサウェイ家とは一線を画するつもりだ。王太子派との亀裂は避けたいからね。もっと早くそうするべきだったかもしれないが、私達は幼馴染で親友だった。それはルナシアも同じだ」
「殿下は噂の原因は貴方の妹姫だとご存じでしたよ」
「ルナはいつも悪気は無く、周囲が過剰に反応するんだ。だが今回はそれを利用した。それで殿下は怒っている」
悪気が無いだと?とんだシスコン兄貴だ。
「私は貴方がたに迷惑をかけましたか?なんなのこの仕打ちは」
「今朝から殿下が対処するように学校に申し出ている」
「私は学校生活が楽しめれば満足なんです。邪魔しないで欲しいです」
「分かっている。私からも何対処する。しかし君が平穏な学校生活を望むのは難しいかもしれないぞ」
「どうしてですか?」
「始祖返りなんだ、アーヴィング殿下は。──意味は自分で調べると良い。今まで私は妹のルナシアの恋を応援してきたが、もう諦めるよう説得するよ」
「ルナシア様が殿下を怒らせてしまったから?謝ってもダメなんですか?」
「ああ、絶望的だ」
意地悪なルナシアがどうなろうと構わない、そう思って話題を切り替える。
「グレン様、お願いがあります。夏季休暇に離れ屋に数日滞在させて頂けませんか」
「離れ屋にか?構わないが」
「荷物を置いたままなので取りに行きたいのです。それと譲って頂きたい物があるんです」
屋根裏のアンティーク家具は不要品で処分するつもりだと説明され、幸運にも私は姿見鏡をタダで譲ってもらえる事になった。
「では公爵が留守にする間に来ると良い。調べて連絡しよう」
「有難うございます。食事など自分でしますから放置して下さい」
「好きにするといい」
頭を寄せて小声で話す私達は仲の良い男女に見えるだろう。そんな私達に校舎前で待っていたルナシア様は目を見開いて近づいてきた。同じく解任された他の2名の側近がルナシアの後方にいる。
「お兄様、今朝は早く屋敷を出られたので、どうしたのかと思いました」
「彼女に用があってね、紹介しようバレンシア・オーハン伯爵令嬢だ」
「オーハン特級魔法伯の娘、バレンシアで御座います。お見知りおきを」
「お兄様が側近を辞めるって本当ですか?」
私の挨拶は無視された。
「本当だよ、ルナは満足に挨拶も出来ないのかい?」
「いえ、驚いてしまって、申し訳ありませんでした。バレンシア様」
「お気になさらず。私はこれで失礼致します。グレン様今日は有難うございました」
あの兄妹に関わるとロクな目に遭わない。
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