その愛情の行方は

ミカン♬

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「腕を切り落とすところでした。なんて危険なマネを」
「約束を守って下さるなら、腕の一本ぐらい惜しくありません」

「ふふ・・ははは・・・あはははは・・・」
 愉快そうに笑うエリアス様に──
(まさか約束を違える気?)私は再び身構えた。

「約束は守りますよ。ただし逃げ切れるとは思わないことです」
 エリアス様が剣を鞘に仕舞い、勝負は終わった。

「お嬢様急ぎましょう!」
 ウォルフ卿に言われて私は馬に跨り隣国に向かって出立した。


 一度だけ振り返ったが、もうエリアス様の姿は消えていた。
「さようなら、大好きだったエリアス様」
 もう涙は出ない。
 私はサファイアのネックレスを引き千切って投げ捨てた。

 幸い天候にも恵まれ国境に向かって私達は馬を走らせた。
 通りがかった町で少しだけ休息を取り、数回馬を買い替えた。

 時には野宿をして1週間かかって私達は国境に辿り着いた。
 強行突破も覚悟したがすんなりと国境を越えることが出来た。

「こんなに簡単に・・・ウォルフ卿、これはどういう事かしら?」
「まだ国境まで連絡が来ていないのでしょう」
「そんな事ってあるかしら? 追っ手も来なかったわ」
「考えるより行動です! まだ目的地は遠いですよ!」

 そうだ、ソアレス公爵領までは、まだ数日かかる。
 お母様は大丈夫だろうか、捕らえられていないだろうか。
 既に疲労困憊だったが私達は先を急いだ。



 翌日、チェージ伯爵領に入ると安堵した。ここはアヴェルの実家の領地で私は何度か訪れていた。
 馬を走らせていると騎士達に行く手を遮られる。

「ウェルデス侯爵令嬢様でいらっしゃいますか?」
「そうです。ソアレス公爵領に向かう途中です!」
「ソアレス公爵令息様がお待ちです!」
「アヴェルが?」

 立ち止まった私達に向かって来る騎兵隊の一団、先頭にアヴェルの姿を見つけた。

「セアラ!」
「アヴェル!」

 私達は馬から下りると互いを抱きしめた。
「セアラ・・・無事で良かった」

 安堵のあまり、このままずっとアヴェルの温もりを感じていたい誘惑に駆られる。

「そうだお母様の手紙を・・・」
 私は伯父様への手紙をアヴェルに渡した。

「手紙なら先日、伝書鳩が無事に届けてくれたよ」
「鳩が?・・・あ、だからここに来てくれたのね」

「こちらの精鋭を送るから、夫人の事も心配いらない」
 アヴェルはてきぱきと兵士に支持を出しつつ「顔色が悪いな、寝ていないんだろう?」と私を気遣ってくれる。

「アヴェル、エリアスが・・・私に側妃になれって」
「大丈夫だ。俺が守ってやる」

「あ・・アヴェ・・」
 何か返事しようとしたが体が脱力を起こし、ツーーーンと耳鳴りがした。

「セアラ? ・・しっかり・ろ・・セ・・」
 アヴェルの声が遠くなって、私は意識を失った。


 気が付くとベッドに横たわり、一瞬自分の置かれている状況が判断できなかった。
 傍にメイドが立っていて「間もなくソアレス公爵令息様が来られます」と教えてくれた。

 ここはチェージ伯爵の屋敷。
「私、倒れたのね。どれくらい寝てたの?」
一刻2時間ばかりです」

 アヴェルは直ぐにやって来た。
「セアラ、もう少し眠るんだ」

「もう大丈夫よ。ウォルフ卿たちは?」
「戻ったよ。こちらの精鋭も一緒だから心配するな」
「そう、ありがとう」

「アヴェル・・・私ずっと考えていたの。王太子殿下は本当に私を側妃にと望んだのかしら。こんなに簡単に越境できるなんて」

 エリアス様はいきなり婚約を解消し側妃になれと言った。その後すぐに、母から王家からの正式な通達前に逃げるよう言われて今、私はここにいる。

「セアラが王太子から側妃にと望まれたのは本当の事だ」
「そう・・・」
「多分エリアスは君を逃がしたのだと思う」

 彼は元婚約者の私に同情して逃がしてくれたのだろうか。

「今から戻れば私はどうなるかしら?」
「王太子の側妃になるだろうな」

 王太子が本当に私を側妃に望んだのだとしたら、この国に引き渡しの要求が来る。

「アヴェル・・・私を助けてくれる?」
「俺にどうして欲しい?」
「側妃は・・・絶対に嫌なの」

 私達はしばらく見つめ合った。

「セアラが俺の手を取れば俺は二度と離さないぞ?」
 そう言って差し出したアヴェルの手を私は握りしめた。

「離さないで欲しい。アヴェルは裏切らないよね」
「絶対離さないし、裏切らない」

「アヴェルのお嫁さんにして欲しいの。今すぐに・・・」
「分かった」

 恥ずかしい告白に即答されて少し戸惑う・・・
「えっと・・・その前に体を綺麗にしたいです・・」

 アヴェルは私の額にキスをすると、メイドに「湯の用意を」と頼んだ。

 王家の古いしきたりで、純潔を失えば側妃には選ばれない。
 温かなお湯を張ったバスタブに身を沈めると私は覚悟を決めた。


 それから・・・

 目が覚めるとベッドの上で「おはよう」とアヴェルの苦笑いが目の前にあった。

「お前、バスタブで溺れるところだったぞ」
「あぁ・・・」
 ・・・不覚にも私は心地良いお湯に浸かって、熟睡してしまったのだ。


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