その愛情の行方は

ミカン♬

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 ☆エリアス視点☆

 婚約を解消してセアラと決別した。

 それにしても、まさか私が剣の勝負に負けるなんて。セアラはどれほど訓練を積んできたんだろう。
 黙って見逃すべきだったが最後に約束を一つ、セアラと剣の手合わせを叶えたかった。

 手加減はしていた。
 セアラの剣を弾き飛ばせば後は護衛の騎士達を相手に時間稼ぎをして、セアラとウォルフ卿を逃がすつもりだったのに。

 去っていくセアラの姿が小さくなるまで見送っていると、やがて闇の中にその雄姿は溶けていった。

 セアラが投げ捨てたサファイアのネックレス。
「ずっと身に着けていたのか」

 夜会のデビュー時にも付けていた。
 セアラをエスコート出来ず、アヴェルと踊るのを見ていた。いつかアヴェルに奪われる、そんな不安は絶えずあった。彼の愛情は本物だ。きっとセアラは幸せになる。


 *
『エリアスを王配にしてあげる』
 悪魔の囁きだった。
 ユリエラ王女は血の繋がった兄と弟を亡き者にし、女王になろうとしていた。


 運命が狂ったのは、王太子殿下に望まれて護衛騎士になったのが始まりだ。
 あと数か月でセアラは女侯爵となりいよいよ婚姻の準備が始まる、なので断ろうとしたが実家の長兄からの命令もあってお受けすることとなった。

 最初に与えられた仕事が女性の死体の始末だった。

『私に寵愛と薬を乞う女性達の姿が可愛いいのだよ』
 恍惚とした表情を浮かべる王太子、私は忠誠を捧げる相手を違えたのに気付いた。
 王太子は愛人達に狂薬を与えて快楽に溺れ、中毒症状が酷くなると命を奪っていたのだ。

 実家の長兄に訴えたが『政治手腕に問題はない』と王太子を庇護した。

『家族や婚約者に被害が及ぶのが怖い』
 陛下が倒れ王太子が実権を握っており、私を含め誰もが王太子を恐れて命令に背けなかった。

 セアラの手紙だけが私の癒しとなった。だが私は返事が書けなかった。何を書けばいい? 汚い仕事に手を汚した私などが。

 そんな時にユリエラ王女が私を護衛騎士にしたいと王太子殿下に強請ったのだ。
 王太子からは王女の行動を監視するよう命令された。だがこれで王太子と距離が置けると安堵したのも束の間、ユリエラ王女は私に執着を始めた。

『エリアスを王配にしてあげる』

 城に私の部屋を用意し常に身を束縛して、家には決して戻さなかった。セアラの悪評をバラ撒き、私を恋人だと言いふらした。セアラは傷ついたに違いない、すっかり手紙も途絶えてしまった。


 一度だけ王女と配下の目を盗んでセアラに会いに行った。その時に渡したのがサファイアのネックレスだった。

『私を信じて欲しい』
 頷くセアラを必ず妻にすると、この時はまだ決心していた。

 だが、私が婚約者に会いに行ったと知った王女は怒り嫉妬し、狂薬を私に使用したのだ。
 何度も薬を与えられて私の意識は泥沼に落ち、王女の飼い犬に成り下がった。

 それからは王女と爛れた日々を過ごし、王女を憎みながらも狂った私は薬が無ければ生きていけない。

 もうセアラとの結婚は絶望的になり婚約の解消を考えていると、夜会で王太子が美しく成長したセアラを見初めてしまった。

 忌々しい事に『忠誠の証にセアラを捧げろ』と長兄と私に命令を下した。

 王女はこれを機会に王太子を暗殺すると言い出す始末だ。
『邪魔なセアラに罪を被せるの。側妃を嫌がってお兄様を殺してしまうのよ。素敵な計画でしょう?』

(ふざけるな……)

 私の思考が正常なうちに悪魔達からセアラを救わなければならない。


 セアラに婚約解消を告げた日に、前もって〈セアラが危険な状態にある〉と書いた手紙をウエルデス侯爵夫人に渡すと、賢い夫人は私に協力してくれた。

 セアラが国境を越えるまでの約1週間。夫人には婚約解消は拒否する姿勢で耐えてもらった。


 そして今日、ウエルデス侯爵夫人によって貴族院に書類は届けられ、正式にセアラとの婚約は解消された。

 今より私は腐敗した王家の粛清を始める。


「セアラに逃げられたですって!」
「ユリエラ、声が大きい。まだここだけの話だ」


「バネッサ~、計画の練り直しだわ」

 王女の配下に黒髪の、セアラと身体つきの似ている侍女バネッサがいる。
 ユリエラが最も信頼している女だ。私への狂薬もバネッサが示唆し調達したに違いない。

「ユリエラ様、こんなチャンスを逃す手はございません。セアラの替え玉で王太子を騙せば宜しいかと」
「上手くいくかしら?」
「私が替え玉になりましょう」

「なら、私が王太子に止めを刺す。貴方を女王にしてみせよう」
「貴方が王配よ。エリアス愛してるわ」

 ユリエラは私を信じ切っていた。
 勘違いも甚だしい。薬で縛っておきながら何が王配だ! 



 セアラとの婚約解消は済み、側妃になるよう説得したと王太子に伝えれば「今夜にでもセアラを呼ぶように」と私に命令した。

「王太子殿下、セアラには薬は決して使わないで下さい。私の大切な婚約者だったのですから」
「分かっている、大事にしてやるから心配するな。ユリエラの動きはどうだ?」
「私の婚約解消を喜んでいます」
「ははは、では私は馬鹿な妹に感謝されているのだな」

 馬鹿なのは殿下だ。見下している妹に殺されようとしているのに。


 翌日の夜に王太子殿下の寝室にバネッサを待機させた。殿下はベッドの傍で私に警護をしろと命じる。本当に愚かな男だ。

 ベッドの上で背を向けて座るバネッサを「セアラ」と王太子が抱きしめるのを見て吐き気がした。
 躊躇無く王太子の背後からバネッサごと剣で串刺しにする。

「がっ!」と二人は短い悲鳴を上げた。

「貴様がセアラの名を呼ぶな……」

 驚愕した顔の王太子とバネッサの心臓を一刺し、息の根を止めた。



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