その愛情の行方は

ミカン♬

文字の大きさ
8 / 10

8

しおりを挟む
 
 ☆エリアス視点続き☆


「首尾よく終わりました」

 私の報告を疑うことも無く、ユリエラは手を叩いて歓喜した。

「良くやったわ! お兄様は死んだのね。次はレオン第三王子だわ、どうやって消そうかしら。王妃が邪魔なのよ。いっそあの女も消してしまいましょう」

 そうすればこの国は潰れるだろう。この王女はそんな事も分からないのだ。

 ユリエラはテーブルに用意してあったグラスを手に、踊るような仕草をしながらワインを注いだ。

「そうだ、バネッサは?」
「後から来るでしょう」

「ふぅん、じゃぁ二人だけでお祝いの乾杯をしましょう」
 互いにワインを飲み干し、私は王女を抱きかかえてベッドに運んだ。

「後でご褒美の薬を上げるわね!」

 ご機嫌でユリエラは私の服のボタンを外し──

 私はユリエラを押し倒して、細い首に手を掛けた。

「なぁに? エリアス……」
「貴方が憎い……殺したいほど憎い! 地獄で兄上とバネッサが待っていますよ」

 手に力を込めると王女の顔が苦痛に歪んだ。
「ぐっ! ……ぅう……」

「私が愛しているのはセアラだけだ。でも、一緒に死んであげよう」
「ぐぅっ! ……うぅ……」

「貴方達が地獄に落ちるのを、最後までこの目で確認しなければ」

 恐ろしい形相でユリエラは私の腕を掴んでいたが、やがてダランと彼女の腕はベッドの上に落ちて動かなくなった。

 後悔は無い。むしろ誇らしい気持ちで剣を自分の首に押し当てた。


 血飛沫が飛ぶのが見えて死に至るまでの僅か数秒、サファイアのネックレスを握りしめた。

(セアラ……セアラ)

 最後に脳裏に浮かんだのは、幼いセアラが私に一生懸命話しかける姿だった。


 ***


 バスタブで熟睡した私は、懐かしい夢を見た。
 幼い私がお茶会で〈騎士〉の話をしており、向かいの席でエリアス様は静かに美しい笑みを浮かべていた。

 思い出せば──甘い胸の痛みに思わず涙が零れる。

 アヴェルの手が私の頬に触れた。
「どうした? 何を泣いている?」

「懐かしい夢を見たの」

「そうか、もう少し眠るといいよ」
「ううん、もう目が覚めたわ」

「今から昨夜の続きをしてもいいけど、どうする?」
 アヴェルは私の濡れた目じりにキスをした。

「い……いいわよ?」
「怖いのか? 震えてる」
「平気だってば」

 今度は私の震える唇に軽く触れる。

 いい雰囲気になったところでノックが聞こえて、家令に声を掛けられた。

「旦那様が坊ちゃんとセアラ様にお話をと仰っています」
「後で行くと伝えてくれ」
「駄目です。今すぐに向かって下さい」

 私の側妃回避ロストバージン計画は「淑女として有るまじき行為」とアヴェルのご両親によって阻止された。
 よって、付きっ切りでメイド達に監視される羽目になる。

「なんで風呂で寝ちゃったんだよ」
「顔色が悪いから寝ろって、アヴェルも言ったじゃないの」

「まぁ心配するな。側妃になんかさせないから」
「ん……」
 アヴェルは堂々と私に口づけて、メイド達から黄色い悲鳴が上がった。


 翌日、体調が良くなった私は、アヴェルと共にソアレス公爵領で待っているジョシュア伯父様の元へと再び馬を走らせた。


 ***


 数日かかってソアレス公爵家に到着した私を、伯父は喜んで迎え入れてくれた。

「伯父様!」
「セアラ大変だったな、もう何も心配いらないぞ」
 伯父は私の頭にキスを落として「アヴェルもご苦労」と労った。

「父上、セアラと結婚します」
「そうか! だがアヴェル、婚姻を認める前に大事な話がある」


 それから暫くして戻って来たアヴェルから、信じ難い話を聞かされた。

「セアラ、落ち着いて聞いてくれ」
「はい」

「エリアスが死んだ」
「・・・」

「王女と心中したらしい」
「心中?」

「エリアスは王太子を殺害し、後に企てたユリエラ王女と共に心中をした。そう発表されている。
 セアラ、大丈夫か?」

「うん」

「どうやらエリアスは薬物中毒で精神に異常をきたしていたようだ」

「心中をしたのは王女様と愛し合っていたから? でも、どうして薬物なんて……一体何があったの?」
「まだ詳しい事は分からない」

(エリアス様……)
 涙が溢れて止まらない。彼がもうこの世にいないのが信じられない。

「セアラ、何と言っていいのか、俺は」
「これは同情の涙よ。彼の愛情の行方が──心中だなんて……悲しい……」

 最後までエリアス様は分からない人だった。口数が少なくて、信用しろと言ったり側妃になれと言ったり、でも間違いなく私の最愛の人だった。

「エリアスはセアラに深い愛情があったと思うよ」
「きっと妹のような情愛だったと思うわ。アヴェルも同じじゃないの?」

「俺は違う。確かにセアラを妹だと思わなきゃ、切なくてやりきれない時期があった。
 側妃の話は消えた訳だが、セアラはまだ俺の嫁になりたいか?」

「なりたいわ。アヴェルが大好きよ」
「俺も愛してるよ」

 私が泣き止むまでアヴェルは抱きしめてくれた。


 ***


 アヴェルと婚約をして半年後には式を挙げることになった。

 母も離婚届を出してソアレス公爵家にウォルフ卿と共に戻ってきた。

「向こうは国中大混乱だわ。セアラはウェルデス侯爵家を廃嫡して私と共に侯爵家とは縁を切った。義父母はまだ若いから養子でも貰って後継者を育てればいいのよ」

 父の代わりに長年守ってきたウェルデス侯爵家を母はあっさりと捨てた。

 ウォルフ卿は母が結婚する以前から護衛として母を見守ってきた人だ。今後は彼と再婚して母にも幸せになって欲しい。

 少しづつエリアス様への想いは遠い過去のものになっていくだろう。

 もう私の愛情の行方はアヴェルと共にある。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

貴方は私の

豆狸
恋愛
一枚だけの便せんにはたった一言──貴方は私の初恋でした。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…

アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。 婚約者には役目がある。 例え、私との時間が取れなくても、 例え、一人で夜会に行く事になっても、 例え、貴方が彼女を愛していても、 私は貴方を愛してる。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 女性視点、男性視点があります。  ❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜

冬野月子
恋愛
侯爵令嬢ルイーズは、婚約者であるジュノー大公国の太子アレクサンドが最近とある子爵令嬢と親しくしていることに悩んでいた。 そんなある時、ルイーズの乗った馬車が襲われてしまう。 死を覚悟した前に現れたのは婚約者とよく似た男で、彼に拐われたルイーズは……

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

あなたは愛を誓えますか?

縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。 だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。 皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか? でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。 これはすれ違い愛の物語です。

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

処理中です...