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しおりを挟む☆アヴェル視点☆
セアラとの結婚式が近づくとセアラの母上が俺を呼び出した。現在夫人はウォルフ卿の妻となり別宅に住んでいる。
一通の手紙を差し出し「エリアスの手紙よ」と言って夫人は真実を俺に打ち明けた。
*
夫人は娘に冷たいエリアスを最初から気に入らなかった。だがセアラはすっかりエリアスに夢中になってしまった。
どこか浮世離れした冷たい美貌のエリアス。セアラと仲良くなると少しは人間らしくなっていった。
二人は相思相愛だったが、蝶のように華麗なエリアスは、王家という蜘蛛の巣に絡め取られてしまった。
婚約解消の日エリアスはセアラに会う前に、内緒で夫人に手紙を渡した。
俺はその手紙を読もうとしている。
前略
緊急事態であり、無礼をお許し下さい。
本日はセアラに婚約解消を告げに参りました。
セアラへの愛情を失った訳ではありません。
王太子殿下がセアラを側妃にと望み、王女がセアラの命を狙っています。
情けないことに今の私にはセアラを守る術を持っていません。
王太子殿下は非情で冷酷な人間です。
なので直ぐにセアラを隣国へ逃がして欲しいのです。
国境を越えるまでの1週間、夫人はどうか婚約の解消を拒否して下さい。私の実家や王家から矢の様な催促が来ると思いますが耐えて下さい。
その後は私が全てに決着を付け、腐敗した王家に粛清を行います。
夫人の望み通り、セアラにはアヴェルと幸せになって欲しい。
セアラには心の底から私を憎んで欲しい。
皮肉ではありません、心からセアラの無事と幸福を願っています。
私のセアラを攫ってしまうアヴェルが憎らしい。しかしアヴェル以上にセアラを託したいと思う人物も存在しない。
彼ならば必ずセアラを生涯守ってくれると信じている。
この手紙はセアラの目に触れぬよう、読後すぐ燃やして下さい。
草々
エリアス
ウェルデス侯爵夫人へ
*
イラつく手紙だった。
(私のセアラだと? 散々セアラを泣かしておいて、勝手に俺を憎んで託してるんじゃないよ。お前から攫ったんじゃなくて、セアラが俺を選んだんだ)
死をもってセアラを守ったエリアスに感じるのは恐れと憐憫。最後まで彼はセアラに深い愛情を伝えられなかった。なぜならセアラはエリアスの死を『心中』だと思い込んでいる。
「あの日、ずいぶん酷い言葉でエリアスを詰ってセアラを追い詰め隣国に向かわせたわ。焦って嘘や辻褄の合わない事をあれこれ言った気がするけど、娘を守りたい一心だったのよ」
「この手紙をセアラに見せるのですか?」
「セアラはもうアヴェルを愛している。今のセアラに手紙を見せたところで幸福になるとも思えないわ」
読めばまたセアラは悲しむことになるだろう。エリアスの死に強いショックを受けたセアラ。やっと以前のような明るい彼女に戻ったのに。
「こんな熱烈な恋文は見たくなかった」
思わず手紙を破りそうになったが夫人に取り上げられた。
「でもね、心中なんて誤解をセアラに解いてもらわなければエリアスが報われない。彼の願いに背くことになるけど、いつか『エリアスの愛情は確かにセアラのものだった』と教えてやりたいわ」
この事実を俺にも背負えというのか⁈ 愛する人の母親といえど恨みたくなる。
「いつか──とはいつですか?」
「私がお墓に入る時かしら、その時は貴方に託すわ」
その時は破り捨ててやろうか。
「エリアスは貴方を信頼しているのよ。エリアスの分までセアラを幸せにしてやってね」
「必ず幸せにします。約束します。俺だってエリアス以上にセアラを愛していますから」
「約束を破ればエリアスと一緒に化けて出るわよ」
「お元気で長生きして下さい」と言うと夫人は少女のようにコロコロと笑いながらキャビネットの引き出しにエリアスの手紙を仕舞い込みカギを掛けた。
「ウォルフ卿も知っていたのですか?」
「ええ、三人だけの秘密よ」
将来セアラがあの手紙を読む日が来る。その時、俺の妻は何を思うだろうか。ただ、後悔はさせたくない。
今はエリアスの冥福を心から祈るとしよう。
*
俺とセアラの結婚式の当日は、生憎と朝から小雨が降った。
俺を憎むエリアスの嘆きの雨なのか──新たな門出はスッキリと晴れて欲しかったのに。
セアラの花嫁姿は美しくて誰もが感嘆の溜息をついた。
本来その隣にはエリアスが立っているはずだったんだ。セアラだってそう思っているかもしれない。
手紙を読んでから、時々エリアスの幻がチラ付いて見える。
(いや)と首を振った。
花婿は俺だ。
「アヴェル、私とっても幸せだわ」
頬を染めて微笑むセアラに俺も幸せが込み上げてくる。
「ああ、これから二人でもっと幸せになろう」
俺達は永遠の誓いを立てて夫婦になった。
式が終わって教会を出ると雨はあがっており、青空には大きな虹が掛かっている。
「昼虹なんて珍しいわね」
「ああ、エリアスが……」
セアラが目を丸くして俺を見た。言わなくても分かるよ。俺も同じ事を考えていたんだ。
「祝福してくれているようだな」
「私もそう思ったの! アヴェル愛してる!」
虹に向かってセアラはブーケを放り投げると歓声が上がり、俺はセアラを抱きしめて何度もキスをした。
──もう幻に惑わされない。
エリアス、お前の信頼に応えて素直に託されてやるよ。
俺は今、エリアスから確かにセアラを受け取った!
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