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34)高位貴族との接触

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 ユカたちがそれぞれ金貨確保の計画を練っている時、俺はサスペンサー公爵家を訪れようとしていた。
エリクサーは王家が保管している物で下賜でもされない限り手に入る筈もない。それでもギルドの掲示板に【求む エリクサー】と掲げているのが気になった。

 困っている人から金貨を貰うのは気が重いが公爵家ならお金持ちだろう。 
軽い気持ちで俺は公爵家に接触しようとしていた。

 さすがにニトではマズいので、トモに眉毛のキリリッとした少年に<化粧固定>を頼んだ。
黒髪で黒いローブ着用、念のためマスクもつければ見た目の怪しい少年の誕生だ。

公爵家の門番には当然追い払われた。「これを見て来たのだが、いいのかい?」
そう言ってギルド掲示板の張り紙をコピーした物を見せた。

長く待たされたがなんとか門番に通されて、家令に連れられ客室で待機していると直ぐに年配執事が険しい顔でやって来た。

「エリクサーをお持ちですか?」単刀直入に尋ねてきた。
「いや、エリクサー同等の魔法が使える。信じないなら帰るけど。」
「魔法?ですか。聞いたことが有りませんが。」
「だろうね。シークレットだから。」
そう言えば深追いはしてこない。しつこいと鞭打ち100回だからな。

「お幾らでしょうか。」
「大白金貨1枚でどうかな。」
「主人に尋ねて参ります。もう少しお待ちを。」執事は退室した。

お茶を入れたメイドがずっと怪しい俺を見張っている。
暫くすると執事と公爵がやって来て挨拶されたので、俺は”ナナシ”と名乗った。


「魔法ですか?何度も使えるのですか?」と公爵。
「一日数回です。1回につき大白金貨1枚頂きます。それと僕の事は絶対秘密でお願いします。」
「わかりました。ではこれは治せますか。」
瞳の濁った猫を入れた篭を差し出した。

「老猫で目を患いほぼ見えないのです。」
(猫に1億だすのか。さすが公爵家。)
「魔法を見せるわけにはいきませんので離れてください。」

部屋の隅で俺は最初コピーエリクサーを飲ませようとした。
口の端を押さえると抵抗し噛みついてきたので仕方なく猫の頭にエリクサー爆弾をぶつけた。
体感45℃程度なのでちょっと熱かったのだろう「ミギャーー」と叫んで猫はカゴを飛び出し、公爵の元に走り寄った。
「おお、ミケが走った。目は? 澄んでいる。見えるのか・・・奇跡だ。
・・・・・ナナシ殿、申し訳ない。貴方の力を試させて頂きした。」

「侯爵様、お試しは無いですよ。大白金貨1枚頂きますね。」
「分かっています。次は此方に来ていただけますか。」



別室に連れてこられ広い部屋で若い男がソファーに座り本を読んでいた。
「ダミアン、こちらナナシ殿だ。お前の体を元に戻してくれる。」

良く見ると右腕が無い。顔も酷い傷があり右目は視力が失われているようだ。
「体にも毒の後遺症で酷い傷跡が残っています。治癒も効かないのです。」

彼は元騎士で数年前のブラックドラゴンの討伐に参加した生き残りだという。
兄二人も騎士で三兄弟は討伐に参加したが長男は戦死。

王家よりエリクサーを1本下賜されたが、片足を失った次男に使われた為、ダミアンは恩恵を受けられなかったと俺は公爵から説明を受けた。

「息子を元の体に戻してやって下さい。お願いします。」
俺なんかに頭を下げる公爵。
同じ父親でも息子を捨てたワイルナー伯爵とは大違いだ。

ダミアンはエリクサー爆弾で元の体に戻った。
父と息子は手を取り合って喜んでいる。
何度もお礼を言われ、執事が大白金貨を2枚渡してきた。

「あ、やっぱり1枚で良いです。僕の事は忘れてください。他言は無用で。」そう言って大白金貨を1枚だけ受け取り帰ろうとすると「待って!待ってください。もう一人 お願いします。」とダミアンに引き留められた。

「もう一人、私の元婚約者を助けてください。」

ダミアンにはコレットというローラング侯爵家の継承者で女騎士の婚約者がいた。
前回のブラックドラゴン討伐が終われば結婚して婿入りする予定だったのだが討伐は失敗に終わり、コレットも生き残ったが酷い怪我で結婚は無理だと婚約は解消された。

「討伐後から会って貰えないのです。どうか彼女の怪我を治してやって下さい。」
もちろん俺は引き受けた。



ローラング家に先触れを出し返事待ちの為、俺は一度ログインした。
(ブラックドラゴンの毒は治癒で治せないなんて呪い級だな。)

俺の知らない所でエリクサーを求める人が何人もいるのだと知って気持ちは複雑だ。
簡単にコピーして大儲けして良いのだろうかと柄にもなく悩んでしまった。

約束の時間に公爵家に戻ると早速ローラング侯爵家に向かう。こちらも大豪邸だ。
(大白金貨1枚だけならいいかな・・・)と思い始めてる自分がいる。

ダミアンから侯爵に紹介されると、彼はダミアンの健康な元の姿に心底驚愕した。

「エリクサーは下賜されませんでした。娘のコレットは胸から腹部にかけて酷い傷が残り、毒の後遺症で子どもを授かる事も出来ないと診断されました。それで娘から婚約も破棄したのです。」

「私達はEXポーションを数本持っていました。それで命拾いしたのです。それすら持てずに命を落とした騎士が大勢いる。あまりにも無計画だったと怒りを覚えましたが、王太子も亡くなっていたので正面から誰も王家を非難できませんでした。」とダミアンは言った。

コレットの部屋に入るとすでに説明を受けていたのか、彼女は立って俺とダミアンを待っていた。
ダミアンの姿を見てコレットは泣き崩れた。

コレットをエリクサー爆弾で健康体に戻すと二人は泣いて抱き合っていた。
これできっと再婚約だ。

かなり固辞したが両家共に大白金貨を引っ込めなかった。
「お代は結構なのでいつか困った時に相談に乗って頂けませんか。無理なお願いはしませんから。」

「約束しよう出来る限りの力になる。金貨は納めてほしい。私たちの気持ちだ。」と侯爵に言われて(ダミアンとコレットも幸せになりそうだし、いいか。)俺は大白金貨3枚ゲットした。

これで高位貴族のサポートの約束が取り付けられ、気になる情報も1つ消えた。

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