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49)微笑むイザベラ

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○●○イザベラ視点

私は元々はただの<魔女>でしたのよ。
いつの間にか<強欲の魔女>に──職業が変化するというのは本当でしたのね。
少しだけ幸せになりたいだけなのに、強欲だなんて女神様も酷いですわ。

婚姻の日取りも一か月先に決まりバングール国に旅立つ日が来ましたの。
本当はエルザの<テレポート>で隣国には一瞬で着くのですけど時間をかけてゆっくり参りますわ。
だってねぇ、すぐにグランダ城には戻ることになるのですもの。

ハインツお兄様が逝去されたら、王位継承権を2番目に持つ私が王太子。
すぐに陛下にも消えて頂いて私が王位を継ぐのですわ。
そして王配にはダミアン様を指名しましょう。これで完璧ですわ。

エルザが素晴らしい【死】を用意してくれましたの。
出所は【疫病の魔女】えきびょうのまじょなので証拠は簡単には見つかりませんわ。
病死で片付けられるそうですの、とても理想的ですわ。

お兄様を死に 誘っていざなってくれる小瓶の名前は【マシュリア】

もたもたしている時間は御座いません。秋にはエリクサーが献上されるでしょうし、大賢者様の話も耳に入っておりますのよ。ダミアン様のお姿を戻してくださったのも大賢者様ですわね。

今夜、お兄様の寝室で小瓶の蓋を開けるようにエルザにお願いしましたの。

あら、お兄様見送りに来てくださったのね。では旅立つことにしましょう。


「さようなら、敬愛するお兄様。ふふ ふふふ 」







◇◇■◇◇エルザ視点



 イザベラ様が旅立った夜 <気配遮断><テレポート>でハインツ王太子殿下の寝室に侵入した。
いつもは暖かな部屋が寒い。侍女が暖めるのを忘れているのか?

 部屋は仄かな香の匂いが充満していた。
今夜はハインツはお気に入りのご令嬢を招くつもりかもしれない。
イザベラ様には望まぬ婚姻を強いておきながら、やはり結構なご身分だ。

 ハインツが訪れるのをベッドの後方で息を殺して待っていた。
そのうち、ガチャッ と音がして寝室の扉は開かれた。

ハインツの顔を確認し、小瓶の蓋を開けて中のモノを寝具の間に振りまいた。
それは砂粒のようにサラサラと小瓶からこぼれていった。

「エルザ、そこにいるのか。」
あとは<テレポート>で逃げるだけだったが、ハインツの声に止まった。

「それでは私を殺せないぞ。やるなら 一思いにひとおもいに殺せ。」

どういう事だろうか。【マシュリア】の事が知られている? 馬鹿な。
どんな追跡を躱すのにも自信があった。どうして?

ハインツが近づいてくる。

イザベラ様のご命令はハインツを確実に殺ること。
きっとこの部屋には罠は仕掛けられているのだろう。
それでも今しかない!

「<バインド><猛毒>」ハインツを動けなくして心臓を狙う。

走り出した私の足に何かが絡みついた。それは私の ──影?

影はスルスルと伸びてきて私を包み込んでいく。
喉をきつく締め付けられ、声も出せない。
意識が飛んで・・・・



・・・・気が付くと魔防の拘束具を付けられて捕縛されていた。
まだハインツの部屋だ。 くっ、とんだ失態だ。

白髪の少年がツカツカと目の前まで来ると パァーーン と私を<ビンタ>した。
「な、」拷問が始まるのか?
もう一度少年は パン パン と軽く私を往復<ビンタ>する。

「王女殿下の洗脳や魅了はないですね。」
この少年は最近現れた大賢者だろう。イザベラ様も警戒していた。

「イザベラ様は関係ない! ハインツ! 私はお前が憎かったのだ!」
亡き王妃殿下より託された大切なイザベラ王女殿下。殿下の幸せだけを考えてお仕えしていた。

「あー また王女の<悪運>が発動だ。」

「もう妹の自由にはさせません。きっちりと責任を取らせます。」

「やめろ!やめろ!やめ・・んんんん」なんという屈辱!

猿轡を嵌められて私は地下の牢獄に収監された。
任務は失敗(イザベラ様申し訳ありません)私は深く絶望した。




〇〇●〇〇ハインツ視点


 数日前、サスペンサー公爵に紹介された大賢者に取引を持ち掛けられた。
私の命を救う代わりに義弟テオドールと側妃ミランダの冤罪を晴らすこと。
イザベラの悪事を曝け出すこと。

「そんな取引は断る。」受け入れられない。

すると大賢者は私の顔を覗き込み パアーーン と<ビンタ>した。
側近たちがいきり立ったが、サスペンサー公爵が手を上げて押さえた。

「王太子は魅了がかかってイカレてるな。妹は狂ってるんだぞ。」

魅了が掛かっている自覚は無かった。洗脳だって無いはずだ。

「私のスキル<ビンタ>は魅了を解くんだ、スッキリしただろう?」

「──そうですね。目が覚めました。」ついに私を殺そうとしているのだ。もう妹を庇い切れないと覚悟した。



ベッドに撒かれた【マシュリア】とは砂粒ほどの虫だった。賢者は「殺虫効果バツグンだー」と虫の死骸を収納して
「あー あなたを救ったのはテオドール殿下ですからね。」そう言い残し消えた。


翌日イザベラの元に騎士団が到着すると「あら、何かありましたの?」と満面の笑みで出迎えたそうだ。
取り押さえられてもイザベラは<悪運>を信じて微笑んでいたという。


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