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5 レオン&セリーナ
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レオンとセリーナ。
誰が見ても、完璧な兄妹だった。
レオンは、私の側近。親友のような関係だ。
聡明で、誇り高くて、誰よりも信頼していた男。
そして――セリーナ。
初めて会った瞬間――私の女神だと思った。
聡明で、美しくて。
どこか憂いを帯びた横顔は、触れたら消えてしまいそうなほど儚かった。
もし、もっと早く出会っていたなら。
私は迷わず求婚していた。
そう思うたび、胸の奥がひどく痛んだ。
アーシャのこと。
レオンは、あのとき確かに言った。
『無能なのです。我が家の厄介者だと、父にも嫌悪されています』
嘘だ。
侯爵は肺炎のアーシャを心配していた。
そして私とアーシャの婚約が決まったとき。
セリーナは優しい声で言った。
『殿下はお気の毒です。でも、妹は可哀そうな子なのです。どうか、大事にしてやって下さいね』
あの時の私は、それをセリーナの真心だと思った。
でも違った。
二人は、私とアーシャの婚約を、まるで悲劇みたいに語りながら――
ずっと、私を嘲笑っていたのだ。
今、目の前にいる二人の顔。
それが、きっと本当の顔なのだろう。
口元が歪んで。
醜く、ニヤついている。
ポーラが私の前に立ちはだかった。
「ここへの立ち入りは、旦那様から禁止されているはずです!」
だけど。
レオンは躊躇なく、ポーラを蹴り倒した。
「引っ込んでろ!」
鈍い音がして、ポーラが床に倒れる。
「よせ!」
体を起こした瞬間、セリーナの指が私の顎を持ち上げた。
冷たい指先。
「殿下は気の毒だわ~。お前との婚約を嫌って自害しようとしたのよ」
胸がざわつく。
レオンが鼻で笑った。
「ふん、これで殿下との婚約は解消されるな」
――私がその殿下だと知らないで、いきなりこれだ。
怒りが込み上げてくる。
「殿下は事故で落ちたのだ。知りもしないで、いい加減な事を言うな!」
言い返した途端、
パシン、と音がした。
セリーナに殴られた。
長い間、私の中で輝いていた理想の像が――
その一撃で、粉々に砕け散った。
「生意気ね! 無能のくせに」
「違う! 王子妃に向かって不敬だ!」
言い返すと、セリーナの目が吊り上がる。
「エリック殿下はね、私を愛しているの。お前なんか一生愛されないわ!」
もう一発、頬を打たれた。
視界が揺れて、
痛くて、涙がにじむ。
――ああ。
アーシャをずっと虐めていたという話。
本当だったのか。
なんて恐ろしい女だ。
レオンが私を見下ろした。
「今日はどうしたんだ? 生意気が過ぎるぞ」
次の瞬間、髪を掴まれた。
激痛が走る。
「っ……!」
こいつを、私は親友だと思っていたのか。
情けない。
ポーラが必死に叫ぶ。
「お止め下さい。お嬢様は病気なんです!」
「それがどうした!」
レオンは私の髪を掴んだまま、乱暴に揺さぶった。
「痛たっ、たたたっ……レオン、やめろ!」
――こいつ、後で殺す。
本気でそう思った。
いったい、これはどういうことだ。
誰も来ない。
ポーラ以外、使用人は誰も。
警護もいるはずなのに。
どうして来ない?
セリーナが笑う。
「王家には絶対嫁がせないわ! 私の上に行けると思ったら大間違いよ!」
ああ、そうか。
それが本音か。
「この卑しい女め。処刑してやる。覚えていろ!」
「何ですって!」
怒り狂ったセリーナは、花瓶から花束を引き抜いた。
そして――
それで、私を何度も殴りつけた。
無力な私は、されるがままだ。
ベッドに花びらが、ちぎれて散乱した。
セリーナは最後に、
花瓶の水を、頭からぶちまけた。
冷たい水。
全身、びしょ濡れだ。
その時になって、のんびりと護衛が現れた。
「そろそろお帰りいただかないと、旦那様に叱られます」
金を握らされて、二人を通したのか?
――絶対許さない!
「ゲホッ……ゲホッ……」
咳が止まらない。
胸が痛い。
セリーナは、吐き捨てるように言った。
「肺炎で死ねば良かったのよ」
レオンも続く。
「はっ! 生まれたのが間違いだ。亡くなった母が哀れだ。こいつなんか産んで、命を落とすなんて」
……なるほど。
母を失ったことを、レオンはアーシャのせいにしているのか。
馬鹿が!
アーシャに罪なんてないだろう。
ポーラが急いでタオルを持ってきて、私を拭いてくれる。
「旦那様に報告しますよ!」
ポーラの叫びに、二人は笑った。
「ふふ、お父様にまた叱責されるわね」
「謝れば終わりだ、ははは」
護衛に促されて、笑いながら二人は去った。
「大丈夫ですか? あの二人、今日は早く帰って良かったですね」
思わずポーラを見た。
――早く帰って良かった?
じゃあ、いつも、
アーシャは、どんな目に遭わされていたんだ。
「旦那様も、あのお二人には甘いから……暇つぶしに時々、虐めに来るのですよ」
ブツブツ言いながら、ポーラは着替えさせてくれる。
大した罰も受けないから、あいつ等、好き勝手しているのだな。
虐めなどと、いい年をした大人が!
「殿下のご友人なだけのこと、ございますわね。最低!」
その言葉、
今日一番、私の胸に刺さった。
ポーラお前、まさか……
私が王子だと分かってて、侮辱してないか?
誰が見ても、完璧な兄妹だった。
レオンは、私の側近。親友のような関係だ。
聡明で、誇り高くて、誰よりも信頼していた男。
そして――セリーナ。
初めて会った瞬間――私の女神だと思った。
聡明で、美しくて。
どこか憂いを帯びた横顔は、触れたら消えてしまいそうなほど儚かった。
もし、もっと早く出会っていたなら。
私は迷わず求婚していた。
そう思うたび、胸の奥がひどく痛んだ。
アーシャのこと。
レオンは、あのとき確かに言った。
『無能なのです。我が家の厄介者だと、父にも嫌悪されています』
嘘だ。
侯爵は肺炎のアーシャを心配していた。
そして私とアーシャの婚約が決まったとき。
セリーナは優しい声で言った。
『殿下はお気の毒です。でも、妹は可哀そうな子なのです。どうか、大事にしてやって下さいね』
あの時の私は、それをセリーナの真心だと思った。
でも違った。
二人は、私とアーシャの婚約を、まるで悲劇みたいに語りながら――
ずっと、私を嘲笑っていたのだ。
今、目の前にいる二人の顔。
それが、きっと本当の顔なのだろう。
口元が歪んで。
醜く、ニヤついている。
ポーラが私の前に立ちはだかった。
「ここへの立ち入りは、旦那様から禁止されているはずです!」
だけど。
レオンは躊躇なく、ポーラを蹴り倒した。
「引っ込んでろ!」
鈍い音がして、ポーラが床に倒れる。
「よせ!」
体を起こした瞬間、セリーナの指が私の顎を持ち上げた。
冷たい指先。
「殿下は気の毒だわ~。お前との婚約を嫌って自害しようとしたのよ」
胸がざわつく。
レオンが鼻で笑った。
「ふん、これで殿下との婚約は解消されるな」
――私がその殿下だと知らないで、いきなりこれだ。
怒りが込み上げてくる。
「殿下は事故で落ちたのだ。知りもしないで、いい加減な事を言うな!」
言い返した途端、
パシン、と音がした。
セリーナに殴られた。
長い間、私の中で輝いていた理想の像が――
その一撃で、粉々に砕け散った。
「生意気ね! 無能のくせに」
「違う! 王子妃に向かって不敬だ!」
言い返すと、セリーナの目が吊り上がる。
「エリック殿下はね、私を愛しているの。お前なんか一生愛されないわ!」
もう一発、頬を打たれた。
視界が揺れて、
痛くて、涙がにじむ。
――ああ。
アーシャをずっと虐めていたという話。
本当だったのか。
なんて恐ろしい女だ。
レオンが私を見下ろした。
「今日はどうしたんだ? 生意気が過ぎるぞ」
次の瞬間、髪を掴まれた。
激痛が走る。
「っ……!」
こいつを、私は親友だと思っていたのか。
情けない。
ポーラが必死に叫ぶ。
「お止め下さい。お嬢様は病気なんです!」
「それがどうした!」
レオンは私の髪を掴んだまま、乱暴に揺さぶった。
「痛たっ、たたたっ……レオン、やめろ!」
――こいつ、後で殺す。
本気でそう思った。
いったい、これはどういうことだ。
誰も来ない。
ポーラ以外、使用人は誰も。
警護もいるはずなのに。
どうして来ない?
セリーナが笑う。
「王家には絶対嫁がせないわ! 私の上に行けると思ったら大間違いよ!」
ああ、そうか。
それが本音か。
「この卑しい女め。処刑してやる。覚えていろ!」
「何ですって!」
怒り狂ったセリーナは、花瓶から花束を引き抜いた。
そして――
それで、私を何度も殴りつけた。
無力な私は、されるがままだ。
ベッドに花びらが、ちぎれて散乱した。
セリーナは最後に、
花瓶の水を、頭からぶちまけた。
冷たい水。
全身、びしょ濡れだ。
その時になって、のんびりと護衛が現れた。
「そろそろお帰りいただかないと、旦那様に叱られます」
金を握らされて、二人を通したのか?
――絶対許さない!
「ゲホッ……ゲホッ……」
咳が止まらない。
胸が痛い。
セリーナは、吐き捨てるように言った。
「肺炎で死ねば良かったのよ」
レオンも続く。
「はっ! 生まれたのが間違いだ。亡くなった母が哀れだ。こいつなんか産んで、命を落とすなんて」
……なるほど。
母を失ったことを、レオンはアーシャのせいにしているのか。
馬鹿が!
アーシャに罪なんてないだろう。
ポーラが急いでタオルを持ってきて、私を拭いてくれる。
「旦那様に報告しますよ!」
ポーラの叫びに、二人は笑った。
「ふふ、お父様にまた叱責されるわね」
「謝れば終わりだ、ははは」
護衛に促されて、笑いながら二人は去った。
「大丈夫ですか? あの二人、今日は早く帰って良かったですね」
思わずポーラを見た。
――早く帰って良かった?
じゃあ、いつも、
アーシャは、どんな目に遭わされていたんだ。
「旦那様も、あのお二人には甘いから……暇つぶしに時々、虐めに来るのですよ」
ブツブツ言いながら、ポーラは着替えさせてくれる。
大した罰も受けないから、あいつ等、好き勝手しているのだな。
虐めなどと、いい年をした大人が!
「殿下のご友人なだけのこと、ございますわね。最低!」
その言葉、
今日一番、私の胸に刺さった。
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