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 皇帝の婚約という明るいニュースに帝国は活気づいた。

 各国からも祝いのメッセージと祝い品が次々届き、これは婚姻したら一体どうなるんだろうと怖くなる。

 城で婚約式を行い夜会を開いて、終われば半年後の婚姻の準備を始める。

 クライン王国からも祝いのメッセージと品が送られ、あまりの茶番に笑えてくる。

 リカルド達や王国を恨んでも引き返せない。私はマリエッタとして皇帝と生きていく決心をした。


     ***


 婚約式の日が来た。
 私とベルクールは皇帝の間、大神官の前で誓いを述べて恙なく式は終了。

 それから大広間に向かうと皇帝は私との婚約を正式に発表した。すると集まった貴族や他国から招いた要人の方々の歓声に包まれた。

 クライン王国からも王族の血筋である公爵家の嫡男ウィルバートが婚約者を伴って参加している。多分彼が次の国王となるのだろう。
「おめでとうございます。皇帝陛下、マリエッタ殿下」
 宴もたけなわ、口角を上げてウィルバートが挨拶を述べたその時────

「おそれながら・・・・」
 おずおずと私達の前に進み出た女性がいた。

 ────失踪したマリエッタだった。

 その隣にはリカルドではなく、年の離れた青年にエスコートされている。
「ミーティア?」
 マリエッタをそう呼んで、隣の男性は不安そうな顔をした。


「これはゴールディ辺境伯、遠路はるばる其方も祝いに駆けつけてくれたか」

「は、はい、皇帝陛下に置かれましてはご婚約、誠におめでとうございます」

「うむ、そちらの可憐なご令嬢は其方の婚約者かな?」

「はい、彼女は「おそれながら皇帝陛下、そちらのご婚約者はマリエッタ王女ではございません!」
 マリエッタは辺境伯を遮ってそう叫んだ。

 突然のマリエッタの登場にウィルバートも驚きを隠せず「マリエッタ・・・」と口にした。

「ウィルお兄様もご無沙汰してますわね。皇帝陛下、私が本物の王女マリエッタで御座います」
 逃げ出したマリエッタが堂々と名乗りをあげたのだった。

「その娘はミーティアという私の侍女です。彼女にはリカルドという婚約者がおりますのよ」

「ほう、クライン王国は帝国を憚ったと申すか?侍女を帝国に差し出したと?」
 ベルクールから黒い笑みが零れた。

「父はこの国にクーデターが起こるのを予測しておりましたの。それで私の護衛であるミーティアが私を守るために私の身代わりを志願致しました。帝国には平和が訪れ、元のあるべき姿に戻る時が来たのです」

 マリエッタの言葉に私達を囲んだ者達は息を殺して聞き入っている。顔を紅潮させてマリエッタの演説は止まらない。
「王女マリエッタはこの私。私こそが正式な皇帝の婚約者ですわ!」


 愚かなマリエッタ、ベルクールは全て承知の上なのに。
 まさかミーティアと私の名を騙っていたとは!

「黙りなさい!衛兵、この頭のおかしなご令嬢を追い出しなさい」
「なんですって、この私に向かって侍女のお前などが、許さないわよ!」

「衛兵!我が婚約者を侍女扱いするイカレた女を地下牢に放り込んでおけ」

 私は公爵家のウィルバートに声を掛けた。
「ウィル兄様。どちらがマリエッタなのか証明して下さい」

「え、あ、君がマリエッタに決まっているだろう。帝国を欺くなど有り得ないよ」

「そんなウィル兄様、お父様に連絡を「黙れ!口を閉じろ、皇帝陛下の御前で不敬だぞ!」

 ウィルバートにも拒絶され、唖然とするマリエッタは衛兵に連れられて地下牢に収監された。


「ゴールディ辺境伯、あのご令嬢は貴殿の婚約者なのか?」

「陛下・・・申し訳御座いませんでした。まさかあのような迷い事を」

「考え直すんだな。貴殿にはもっと相応しい令嬢がいる」

「はっ、彼女の兄共々、領地から追放致します」

「兄がいるのか」

「リカルドと言う兄が我が騎士団に所属しています」

 リカルドが兄?二人は兄妹ととして行動していたのか。
 ベルクールはリカルドを連れて登城するよう命令して、辺境伯を下がらせた。


「騒がせてしまったな、どうか皆引き続き夜会を楽しんでくれ」

 ベルクールが声を掛けると楽団が軽快な音楽を演奏しだした。

「陛下これで良かったのでしょうか」
「ああ、これでいい。婚約者殿、踊って頂けますか?」
「はい、喜んで」

 私達はワルツに乗って軽やかに踊り始めた。

「元婚約者が現れても、ティアは渡さないからね」
「陛下、元の名前を捨てた時に、彼への愛情も捨てました」

「ベルだ。これからはベルと呼ぶように。二人っきりの時は君をティアと呼ぶよ」
「べ・・ベ・・・無理です・・・」

 毅然とした陛下の態度に不審に思った者はいなかったようだ。親密に踊る私達を人々は温かな目で見つめていた。


 リカルドと再会する。彼はどんな話を聞かせてくれるのか。


 それからリカルドと対面できたのは、王女を捕らえてからの三日後だった。



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