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19 青ざめるイザベル
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ラミネルの威圧を感じてレティーナは目を伏せた。
グナード公爵家で暮らし始めてからラミネルに『兄上とジェルドとは親しくなり過ぎないように』と言われている。彼は将来国王になる人物だ、二人に不都合があってはいけないとレティーナは承諾した。
魔法に特化した兄と違って弟のラミネルはオールラウンドの魔法騎士。初代国王である勇者の血を色濃く受け継ぎ将来は立派な国王になると期待されている。そこに生まれた順位の考慮はない。
ミシュベルとルナフィスの婚姻話を聞いた時レティーナは動揺したが直ぐに思い直した。ミシュベルがラミネルを諦めるはずがない。【鍾愛神の加護】を持つ妹の愛は一途で重い。
『ラミネルを愛しているのか』と自問してもレティーナは頷けない、触れられる事さえ拒んでしまう。将来嫁ぐのは<神託>を受けた者としての貴族義務だと思っている。
かつては幼いながらもラミネルを愛していた。<神託>は自分を救ってくれる神の采配だと思っていた。もしもルナフィスと出会わなければ今もラミネルに縋ってミシュベルを憎んでいただろう。
レティーナが会議に意識を戻すと陛下の許可を受けてミシュベルが発言していた。
「私は白髪の嘘つき王子様は嫌いです! ネル様の妃になりたいです!」
不敬極まりないがミシュベルはそういう令嬢だと暗黙の了解があった。神殿側も王太子となるラミネルと聖女の婚姻を支持すると申し立てた。
王家としては神殿とは懇意な関係を維持しておきたいがミシュベルに未来の王太子妃が務まるとも思えない。それを理解しながら聖女を支持する神殿に不信感を抱き始めた。
ここで「陛下、発言を宜しいでしょうか」とテイラー侯爵夫人が発言を求めた。隣でシオンが「何を?」と不安気な顔で夫人を見ている。
「許す」
「有難うございます。私はラミネル第二王子殿下とレティーナとの婚約解消をお願いしたいのです」
夫人の妹娘への溺愛は有名だ。ミシュベルを慮っての発言だと誰もが思った。
「あの娘は禁忌の子、兄妹の間に生まれた子でございます。王太子妃には相応しくありません。私は夫の命令で我が子として育ててまいりましたが、これ以上の罪を重ねるのは耐えられず真実を打ち明ける次第です」
「何だと! それは誠か侯爵?」
吃驚する陛下に全員がシオンとレティーナを交互に見比べる中、扇で顔を隠して王太子妃が口を開く。
「そういえばレティーナは亡くなったレミアに瓜二つ。嘘ではないようですわね」
レミアは王太子妃にとって、可愛がっていた従妹メリアンを追い落とした憎き敵だった。
大金を積んで神殿に<神託>を出させグナード公爵とメリアンを婚姻させたのだが二人は直ぐに離婚した。その件で王太子には酷く叱責された王太子妃は、レミアにそっくりだというだけでレティーナを毛嫌いした。
「なんてことを! そんなことを考えていたのか君は」
シオンは隣のイザベルに声を荒げた。テイラー侯爵家は王家を欺いていたのだ。それをここで暴露する妻の愚かさに腹の底から怒りと恐怖がこみ上げる。
「なら父親の名を明かして見せればいかがですか? 」
「それは……」
レティーナは信じられない思いで両親を見つめていた。
(本当に母は狂ったのか、それとも)
レティーナの手の上にグナード公爵の手が重ねられた。その手の温かさにレティーナは祈る気持ちで公爵に尋ねた。
「お父様ですか?」
「ああそうだ、私が父親だ」
ずっとそうであればいいのにと思っていた。公爵が父親ならどれほど幸福だろうか。何度もそう思った。
「陛下、宜しいでしょうか?」
「はぁ……なんだ公爵」
「レティーナの父親は私です。私と亡きレミアの娘です」
「嘘よ! 庇っているんだわ。公爵はあれを女として愛しているのよ。だから使用人をお飾りの妻にしたんだわ」
「やめないかイザベル! 彼は間違いなくレティーナの父親だ」
「は? 嘘……嘘よねシオン? ならどうして言ってくれなかったの?」
「レティーナの為に絶対に言えなかった。だから黙っていたんだ」
シ────ンと静まり返った会議室に陛下の言葉が響く。
「公爵よ、偽りはないか?」
「グナードの名に懸けて」
「あい分かった。その件は後程話し合おう。他言は一切無用」
陛下が箝口令を敷くと青ざめるイザベルは沈黙した。
グナード公爵家で暮らし始めてからラミネルに『兄上とジェルドとは親しくなり過ぎないように』と言われている。彼は将来国王になる人物だ、二人に不都合があってはいけないとレティーナは承諾した。
魔法に特化した兄と違って弟のラミネルはオールラウンドの魔法騎士。初代国王である勇者の血を色濃く受け継ぎ将来は立派な国王になると期待されている。そこに生まれた順位の考慮はない。
ミシュベルとルナフィスの婚姻話を聞いた時レティーナは動揺したが直ぐに思い直した。ミシュベルがラミネルを諦めるはずがない。【鍾愛神の加護】を持つ妹の愛は一途で重い。
『ラミネルを愛しているのか』と自問してもレティーナは頷けない、触れられる事さえ拒んでしまう。将来嫁ぐのは<神託>を受けた者としての貴族義務だと思っている。
かつては幼いながらもラミネルを愛していた。<神託>は自分を救ってくれる神の采配だと思っていた。もしもルナフィスと出会わなければ今もラミネルに縋ってミシュベルを憎んでいただろう。
レティーナが会議に意識を戻すと陛下の許可を受けてミシュベルが発言していた。
「私は白髪の嘘つき王子様は嫌いです! ネル様の妃になりたいです!」
不敬極まりないがミシュベルはそういう令嬢だと暗黙の了解があった。神殿側も王太子となるラミネルと聖女の婚姻を支持すると申し立てた。
王家としては神殿とは懇意な関係を維持しておきたいがミシュベルに未来の王太子妃が務まるとも思えない。それを理解しながら聖女を支持する神殿に不信感を抱き始めた。
ここで「陛下、発言を宜しいでしょうか」とテイラー侯爵夫人が発言を求めた。隣でシオンが「何を?」と不安気な顔で夫人を見ている。
「許す」
「有難うございます。私はラミネル第二王子殿下とレティーナとの婚約解消をお願いしたいのです」
夫人の妹娘への溺愛は有名だ。ミシュベルを慮っての発言だと誰もが思った。
「あの娘は禁忌の子、兄妹の間に生まれた子でございます。王太子妃には相応しくありません。私は夫の命令で我が子として育ててまいりましたが、これ以上の罪を重ねるのは耐えられず真実を打ち明ける次第です」
「何だと! それは誠か侯爵?」
吃驚する陛下に全員がシオンとレティーナを交互に見比べる中、扇で顔を隠して王太子妃が口を開く。
「そういえばレティーナは亡くなったレミアに瓜二つ。嘘ではないようですわね」
レミアは王太子妃にとって、可愛がっていた従妹メリアンを追い落とした憎き敵だった。
大金を積んで神殿に<神託>を出させグナード公爵とメリアンを婚姻させたのだが二人は直ぐに離婚した。その件で王太子には酷く叱責された王太子妃は、レミアにそっくりだというだけでレティーナを毛嫌いした。
「なんてことを! そんなことを考えていたのか君は」
シオンは隣のイザベルに声を荒げた。テイラー侯爵家は王家を欺いていたのだ。それをここで暴露する妻の愚かさに腹の底から怒りと恐怖がこみ上げる。
「なら父親の名を明かして見せればいかがですか? 」
「それは……」
レティーナは信じられない思いで両親を見つめていた。
(本当に母は狂ったのか、それとも)
レティーナの手の上にグナード公爵の手が重ねられた。その手の温かさにレティーナは祈る気持ちで公爵に尋ねた。
「お父様ですか?」
「ああそうだ、私が父親だ」
ずっとそうであればいいのにと思っていた。公爵が父親ならどれほど幸福だろうか。何度もそう思った。
「陛下、宜しいでしょうか?」
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「レティーナの父親は私です。私と亡きレミアの娘です」
「嘘よ! 庇っているんだわ。公爵はあれを女として愛しているのよ。だから使用人をお飾りの妻にしたんだわ」
「やめないかイザベル! 彼は間違いなくレティーナの父親だ」
「は? 嘘……嘘よねシオン? ならどうして言ってくれなかったの?」
「レティーナの為に絶対に言えなかった。だから黙っていたんだ」
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「公爵よ、偽りはないか?」
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