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20 テイラー侯爵夫妻の離婚
しおりを挟むレティーナ・テイラー侯爵令嬢はグナード公爵の娘だった。
衝撃的な真実に誰もが唖然としていたが、本日は聖女の婚姻の件を話し合うための会議だと思考を切り替えた。
「ルナフィス、其方は聖女との婚姻をどう考える?」
「はい、王族の一人としては謹んでお受けします。が、聖女においては王子妃としての教養を身に付けて頂きたい。ましてや第二王子との婚姻を願うなら猶更教育に励んで頂きたいものです」
「うむ……」
「私、頑張ります! 愛し合うネル様の為に教育を頑張ります。お姉さまには負けません!」
陛下の言葉を遮ってミシュベルは叫んだ。
「それは違う!」
堪らずラミネルは立ち上がった。
「僕、いえ、私はミシュベルを愛してなどいません。婚姻など考えたこともありません!」
「ネル様は私をお姉さまよりも好きだと、婚約者なら良かったと言ってくれました!」
「それは子供時代の話だ。レティーナは成長して淑女となった。君は幼子のままだ、愛せるはずが無いだろう?」
「そん、そんな……うわ──────ん!」
泣きじゃくるミシュベルにラミネルは「チッ」と舌打ちした。
「ミシュには兄上で良いじゃないか。私とは今まで通り兄妹のような関係でいよう。レティーナだってそう望んでいる。そうだろう? レティーナ」
まるで挑むように彼はレティーナに話を向ける。
「レティーナに発言を許可する」
「はい陛下、私も聖女様は今のままでは王家には相応しくないと存じます。ラミネル殿下に想いを寄せたままで妃に迎えるなどとルナフィス殿下にも失礼かと……」
「レティーナ、これは政略結婚だ。王家と神殿の未来の為には兄上との婚姻が最善なんだ」
「いやよ! 絶対にいや。ネル様と結婚できないなら死んだ方がいいわ」
「聖女様!」
聖女の側近達がミシュベルに小声で何か囁くと「ホント? ホントに?」と言ってミシュベルは落ち着いた。
「聖女が拒否するなら王家との婚姻の話は白紙に戻そう。次の貴族議会で審議する。これにて閉会とする」
陛下が終わりを宣言すると控えていた宰相が一歩前に出た。
「王家の皆様はここに残って頂き、他の方々はお帰り下さい」
聖女の一行が急いで出て行き、続いてシオンはイザベルの腕を引いて、オーサーはレティーナの肩を抱いて、それぞれが胸に想いを抱いて退出したのだった。
幼い時からレティーナを悩ませた疑問がするすると解けていく。
イザベルは赤の他人。シオンは伯父でミシュベルは従妹。叔母と思っていたレミアが実母でグナード公爵は実父だった。詳しい話は帰宅すれば公爵が話してくれるだろう。
そして5年ぶりに会ったルナフィスへの切ない想いにレティーナは苦悩した。
(『ルナフィス殿下に想いを寄せたままで妃に迎えるなどとラミネル殿下にも失礼かと』)
皮肉にも形を変えてレティーナの発言は自身に戻って来た。
*****
数日後、レティーナはテイラー侯爵家の長女を継続するよう命令が出た。婚約式の準備も進んでおり、招待状も多くの貴族達に送られてある。第一レティーナは<神託>で選ばれたのだ。真実が明るみに出ると貴族達の混乱を招く恐れがあるので今の状態を維持するよう申し伝えられた。
決定に不満な公爵が何度も掛け合ったが却下され、これでテイラー侯爵家も罰を免れた。
だが侯爵家ではシオンがイザベルに離婚届を突き付けていた。彼は妻がレティーナを兄妹の間に生まれた娘だと長年信じていたことが信じられなかった。
父親を隠していたのはレティーナを王太子妃と彼女の従妹から守る為。イザベルが知れば必ず王太子妃の耳に入ると思って言えなかったのだ。
レティーナは王命でこれまで通りテイラー家の長女だ。イザベルを母親として存在させておけないとシオンは切り捨てる決心をした。
「君のレティーナに対する態度は異常だった。だが君には無理を押し付けて済まないと思って見逃してきた。夫として深い愛情だって注いできたつもりだった。まさか陛下の前であのような失態を犯すなど、あってはならなかった」
イザベルにすれば悪いのは隠していた夫だと思っている。
「貴方が悪いのよ! 初めから打ち明けてくれていれば」
「そうすればレティーナを愛したか?」
「いいえ、私の娘はミシュだけよ」
「愚かだったな、君も私も……もしも私達が姉妹の良き親であったなら聖女と王太子妃の両親として<神託>の結果通り侯爵家の未来は輝かしいものとなっただろうに」
「あ、貴方が悪いのよ……レミアと貴方のせいよ!」
「ああ、全て私のせいだ。私は当分は領地で暮らすよ。ミシュベルは神殿預かりとなり、レティーナは真実を知った。もう私達が夫婦でいる必要もない。離婚届にサインして出て行ってくれ」
「嫌よ、捨てないでシオン!」
イザベルが泣き喚いて縋ってもシオンは離婚の意志を変えなかった。
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