他人の寿命が見える私は、婚約者の命が残り3ヶ月だと知っている~婚約破棄されて辺境の実家に帰ることになった令嬢は隣国の王子から溺愛されます~

上下左右

文字の大きさ
2 / 39
第一章

第一章 ~『実家への帰省と魔女』~

しおりを挟む

 婚約破棄されたメアリーは実家へ帰るため馬車に揺られていた。畦道を進む車窓の外には見覚えのある小麦畑が広がっている。彼女の生まれであるシルバニア辺境伯領は昔から変わらないままだった。

(屋敷の皆さんと会うのも久しぶりですね)

 アイスビレッジ公爵家に嫁いでからは魔物討伐で忙しく、実家に帰省する暇さえなかった。

 久方ぶりの再会を心待ちにしていると、車窓に映る景色が変化し始める。高い城壁と設置された砲台、隊列を組んだ騎士たちの掛け声が響くようになった。

(騎士たちの精強さも変わらないですね)

 国防の要として国内最高の軍事力を誇る組織、それこそが辺境伯領騎士団である。

 多様な人材が国中から集結し、他国との戦争に備えている。これだけの人材を登用できるのは、領主であるメアリーの父――レオル辺境伯の存在も大きかった。

 彼は世界最強の称号を持つ英雄だった。その彼に憧れて人材が集まってくるのだ。

 英雄の血を引き、幼い頃より鍛えられたからこそ、メアリーもまた魔女と称されるほどの力を手に入れた。

 その力が婚約破棄に繋がったのだと思うと、苦笑が漏れる。彼女の心情に合わせるように、馬車のスピードも徐々に落ちていった。

「お嬢様、屋敷に到着しました」
「ありがとうございます」

 馬車が停車し、御者が扉を開く。すると玄関先では見知った顔が待ち構えていた。

「メアリー、無事だったか!」

 髭を蓄えた男が駆け寄ってくる。メアリーと同じ銀髪に、見上げるほどの高身長、鍛えられた肉体や整った容姿は昔から変わらない。彼女の父――レオル辺境伯である。

「婚約破棄されたと聞いたぞ」
「私と別れて、公爵家の令嬢と結婚するそうです」
「ふざけた真似を……我が騎士団の力で、アイスビレッジ公爵領を更地にしてやろうか?」
「必要ありませんよ」
「だが……」
「どうせ、あの人の余命は三ヶ月しか残されていませんから」
「――ッ……そうか……」

 レオルはメアリーの師であるため、彼女が余命を視認できると知っていた。三ヶ月後には命を落とすと知れたことで溜飲が下がったのか、冷静さを取り戻す。

「まぁ、男なんて星の数ほどいるんだ。俺が新しい縁談を――」
「気持ちだけ受け取っておきます」
「しかしだな……」
「当分、一人でいたいので」
「そうか……」

 レオルの厚意には感謝するが、すぐに気持ちを切り替えられるほど器用でもない。頭を下げて、屋敷の最上階にある自室へと逃げ去るように移動する。

(久しぶりの我が家ですね……)

 ベッドに飛び込むと、枕に顔を埋める。不在の間もきちんと洗濯されていたのか、お日様の匂いが心地よかった。

(精一杯、尽くしてきたんですけどね……)

 魔物討伐のために我が身を危険に晒したのは、すべてアンドレアのためだ。別れ際も気丈に振る舞ったが、ショックを感じてないといえば嘘になる。

「男性を見る目がないのかもしれませんね……」

 独り言をボソリと漏らすと、箪笥から影が飛び出してくる。白い子猫に見覚えがあった。

「シロ様!」
「にゃ~」
「昔と変わらず、小さいままですね」

 成長が遅いのか、そういう猫種なのかは分からないが、手の平サイズの白猫は、メアリーが子供の頃から飼っていた姿のままだ。

 傍まで駆け寄ってくると、ベッドの上で丸まった。

「私を慰めに来てくれたのですか?」
「にゃ~」
「ふふ、可愛いですね」

 頭を撫でてあげると、嬉しそうに甘えた声で鳴いてくれる。婚約破棄の悲しみが一気に吹き飛んだ。

「でも私が不在の間、いったい誰が世話を……」
「にゃ~」

 シロが廊下に視線を送ると、扉がノックされる。入室してきたのは黄金を溶かしたような金髪の美丈夫だ。白磁の肌はシミ一つなく、澄んだ青の瞳は見惚れるほどに美しい。見惚れていると、彼は目を見開く。

「メアリー……」
「どこかでお会いしましたか?」
「……僕のことを忘れたのかい?」
「ん……まさか、カイン様なのですか?」
「正解。幼馴染の顔を忘れられたら困るね」

 カインは隣国の王子で、剣の腕を鍛えるために幼少の頃からシルバニア辺境領に預けられてきた。メアリーとは幼馴染でもある。

「もしかしてシロ様の世話はカイン様が?」
「僕の趣味みたいなものさ。気にしないでくれ」

 カインは子供の頃から動物が好きだった。趣味というのも本心だろう。

「それよりも聞いたよ。婚約破棄されたんだよね?」
「私を笑いますか?」
「まさか。君は僕の親友だ。その君を傷つけたやつを許せないだけさ」

 目の前にいたら、剣の錆にしてやるのにと、彼は続ける。メアリーのために心の底から怒ってくれる優しさが心に染みた。

「僕なら君を不幸にしないのにな……」
「カイン様、その台詞は私でなければ勘違いしますよ」
「されてもいいんだが……」
「ふふ、あなたの心遣いに感謝します」

 慰めてくれたカインに、メアリーは礼を伝える。婚約者を失っても、親友が傍にいてくれる。それだけで前向きな心持ちになれるのだった。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます

香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。 どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。 「私は聖女になりたくてたまらないのに!」 ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。 けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。 ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに…… なんて心配していたのに。 「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」 第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。 本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。

護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜

ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。 護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。 がんばれ。 …テンプレ聖女モノです。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井ゆの花
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...