13 / 39
第一章
第一章 ~『魔物肉と魔女』~
しおりを挟む数日後、手紙の内容が貴族コミュニティに広がり、アンドレアの評判は悪化したとの知らせが届く。冷ややかな目で見られ、影で馬鹿にされているそうだ。
(私に同情してくれる人も多いようですね)
メアリーはアンドレアの友人たちとも交友関係を築いていた。つまり彼の友人は、メアリーの友人でもあるのだ。
その彼女を理不尽に婚約破棄した上に、恥知らずな贈り物の返還まで要求したのだ。アンドレアを貴族にふさわしくないと責める者まで現れる始末だ。
(この調子だと孤立しそうですが……アンドレア様の自業自得ですね)
溜飲を下げたメアリーは、かつての婚約者のことを頭から振り払う。楽しいことを考えながら生きる方が建設的だと、気分を入れ替えるために屋敷を散歩していると、食欲をそそる香りが漂ってきた。
(誰かがお肉を焼いているようですね……)
匂いを追うと、調理室へ辿り着く。調理台には様々な肉の部位が丁寧に並べられており、それを前にしたカインが唸り声をあげていた。
「なにか、考え事ですか?」
「メアリー……実はね、低ランクの魔物肉をどうにかして美味しくできないかと悩んでいてね。試行錯誤していたんだ」
調理台には塩に胡椒、さらにはスパイスやハーブまで用意されている。魔物肉の臭みを取るために用意したが、効果は薄かったとカインは続ける。
「僕らは治安維持や訓練のために魔物を狩っている。でも命は無駄にできないからね。折角なら食べられるようにしたいんだ」
「でもそう上手くはいかないと?」
「ああ。なにせ魔物肉の調理を試した人は過去にもいたはずだからね」
食文化は食材をどのように美味しくするかの積み重ねだ。長い歴史の中で、低ランクの魔物肉を食べられるようにしようと挑戦した者は数多くいたはずであるが、その手法は確立されていない。困難な道であることは疑いようもなかった。
「でも工夫すれば味に変化はあるんだ。特にオーク肉は豚と味が似ているからね。強い臭みさえなくせれば、きっと美味しくなるはずさ」
カインが努力する理由は、騎士団の仲間たちに食べさせてあげたいからだろう。そんな彼の優しさに報いるため、メアリーも頭を捻る。
「お酒に浸けたりするのはどうでしょうか?」
「試したけど駄目だったね。他には果物を利用したり、茹でてみたりもしたけど臭みが消えることはなかった。きっと魔力を失って、肉の鮮度が極端に落ちてしまうからなんだろうね」
「肉の鮮度ですか……」
高ランク帯の魔物肉が美味なのは、魔力が残留し、肉の鮮度が保たれるからだ。だとすると、解決策も簡単だ。鮮度を取り戻せばいいのだ。
「私の光魔術を試してみましょう。肉の鮮度を生きていた頃のように蘇らせるんです」
調理台の上に置かれたオーク肉に癒やしの光を浴びせてみる。すると、赤身が鮮やかな紅色へと変化し、光沢を放ち始める。
「見た目は大きく変化したね」
「味も変わったはずですよ」
「確かめてみようか」
魔道具のコンロから火を出して、フライパンでオーク肉を焼いてみる。手際の良い調理でステーキを完成させると、上から塩胡椒を振りかけた。
「シンプルな味付けですね」
「塩胡椒だけなら味の違いが判断しやすいからね。さっそく食べてみようか」
カインはナイフとフォークで切り分けたステーキを口の中に放り込む。味を確かめるように数度咀嚼した後、彼の口元に笑みが浮かんだ。
「美味しいよ。豚肉に負けない味だ」
「私も頂きますね」
メアリーも一口サイズに切り分けて、その味を堪能する。臭みはなく、舌の上で広がる脂の旨味は高級肉にも負けていない。絶品の味わいだった。
「この味なら騎士の皆さんも喜んでくれそうですね」
「光魔術の使い手がほとんどいないからこそ、今まで発見されてこなかったんだろうね……でも、だからこそ、残念なこともある」
カインは調理室の奥に設置された冷蔵室へと移動する。そこには凍った魔物肉が大量に吊るされていた。
「この肉すべてに光魔術をかけるには、少なくとも数百人単位で魔術師が必要になる。それだけの人員を集めるのは非現実的だし、諦めるしかないね……」
「いえ、私なら一人でできますよ」
「魔力切れにならないのかい?」
「私は並の魔術師ではありませんから。魔力量だけなら誰にも負けません」
魔力は幼い頃からの訓練や戦闘で増加し、十代の中頃で成長が止まる。魔物との闘いを生き抜いてきたメアリーだからこそ、他に類を見ないほどの魔力量を保有していたのだ。
メアリーは冷凍室に癒やしの光を放つ。輝きに包まれた魔物肉は、色合いが鮮やかとなり、艶を取り戻していく。
「すごいね。冷凍肉の状態でも質が良くなったのが分かるよ」
「ふふ、貢献できたようで何よりです」
魔女のメアリーと畏怖されてきたからこそ、魔術で人に感謝されて悪い気はしない。自然と頬も緩むのだった。
33
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます
香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。
どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。
「私は聖女になりたくてたまらないのに!」
ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。
けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。
ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに……
なんて心配していたのに。
「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」
第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。
本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井ゆの花
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2025年10月25日、外編全17話投稿済み。第二部準備中です。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる