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幕間2
幕間 ~『寿命を告げられた男 ★アンドレア視点』~
しおりを挟む決闘に負けてからのアンドレアは不幸のドン底にいた。何をしても失敗続きで、人生が上手く回らない。それを強く象徴するように、彼の手元に一通の手紙が届く。
(ゴールデリア公爵家から……)
アンドレアは執務室の椅子に腰掛けながら、封の切られていない手紙を眺める。すぐに中身を確認しないのは悪い予感がしていたからだ。
窓から差し込む光を照らして、透かしてみようとするが内容を確認できるはずもない。仕方ないと、封蝋を外して、その文面に目を通していく。
最初の数行で、怒りの感情が彼の心を満たした。読み進めると、眉間に皺が寄り、表情は一層険しくなっていく。
「ふざけるな!」
読み終えた彼は、怒りに身を任せて手紙を破り捨てる。内容を端的に表すなら、婚約破棄の申し込みだった。
「言い寄っておきながらあっさりと俺を捨てやがって!」
自分のことは棚に上げ、アンドレアは婚約破棄に対して怒りを顕にする。だが頭の片隅でこの申し出を断ることはできないと気づいてもいた。
(ハンデ戦を魔術師に強いていたと露呈したのが不味かった……)
一方的な婚約破棄なら爵位が同じ公爵同士だ。異議を唱えることもできる。だが卑怯な手口で魔術師を罠に嵌めたことを理由にされては反論も難しかった。
(このままでは俺は破滅だ……)
横暴な態度のせいで、雇っていた使用人の数も大幅に減った。悪評が広まったせいで、新しい使用人も雇用できず、減少の一途を辿っている。
(使用人がいなければ、屋敷の維持も立ち行かない。領主としての執務も滞る。なんとかしなければ……)
お前の代わりなんていくらでもいると暴言を吐いた過去の自分を殴ってやりたい。そう思えるほどに追い詰められていた。
さらにアンドレアの心配は使用人問題だけではない。体調面でも課題があった。
「ゴホッ、ゴホッ」
咳の頻度が増え、吐血することもしばしば起きていた。王都ではウィルス性の心臓病が流行しており、もしやそうなのではと疑っていた。
不安は苛立ちを生み、使用人たちへの態度に反映される。まずは安心することが肝心だと、領内でも名医として有名な男を屋敷に呼びつけていた。
「失礼します、アンドレア様。お医者様がいらっしゃいました」
「通せ」
若い執事が執務室の扉を開いて、白衣の男を中にいれる。白髭を蓄えた老人で、報酬も金貨百枚と高額だが、その腕は確かだ。
「領主様が私を呼び出すとは珍しいですな」
「治療費が貴族の俺でも高額だからな」
「報酬に見合うだけの仕事はしていますから。正当な対価ですよ」
医者としての自信に満ちた発言は、その能力に裏打ちされたものだ。アンドレアは安心して、自分の症状を打ち明ける。
「咳が止まらなくてな。それと口から黒い血を吐くことがある。この症状を診察して欲しいのだ」
聞かされた症状に医者は眉を顰める。
「……血は保存していますか?」
「これだ」
ビンに保存していた黒い血を確認し、医者は短いため息を漏らす。アンドレアはその反応に恐怖を覚えたのか、ゴクリと生唾を飲んだ。
「領主様にお伝えしなければならないことがあります」
医者が静かに告げると、執務室の空気が一変する。胸が痛いと感じるほどに、アンドレアの心臓は早鐘を打ちはじめた。
「あなたの症状は王都で流行しているウィルス性の心臓病です」
医者は慎重に言葉を選び、病気の診断結果について率直に告げる。アンドレアの顔には驚きと悲しみが交じり合い、しばらくの間、無言となる。
静寂が場を支配し、ようやく口を開くアンドレア。しかしショックは隠しきれておらず、喉が震えていた。
「この病は治るのか?」
「現在の医学では治療法は存在しません」
「……他国の医術に頼っても無理か?」
「私は古今東西、あらゆる医術に精通しています。だからこそ結論は変わりません。治療は不可能です」
「そうか……」
泣き崩れなかったのは、アンドレアのプライドの高さ故だ。他人から良く見られたいという彼の性格がショックから心を支えたのだ。
「それで、俺はあとどれくらい生きられる?」
「血の黒さから考えると、残り一ヶ月ほどでしょうね」
「そうか……」
「では私はこれで失礼します。残りの人生を満喫してください」
「ああ」
使用人に連れられて、医者は部屋を去る。誰もいなくなった執務室でようやく彼は歯を食いしばり、目尻から涙を零すのだった。
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