ラスボス手前でレベルアップ ~《旅行》のスキルが役立たずだと追放されましたが、終末の街で最強装備を揃えました~

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第一章 ~『エミリスとの夢の共有』~

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 窓から差し込む光で目を覚ます。夕食後、すぐに寝床に就いたジンは、そのまま眠ってしまったのだ。気持ちの良い朝に感謝するように、背筋を伸ばす。

「昨日のエミリスさんの話は衝撃的だったな」

 エリア9の冒険者を武器の供給により強化することで、間接的に魔王を討伐する。想像さえしなかった戦略に、胸が熱くなったことを思い出す。

「僕も何かできないだろうか……」

 寝起きだからか、頭が上手く回らない。一旦、思考を放棄して、身支度を整える。宿と食事を世話になった礼を伝えるために、エミリスを探す。

「おはよう。よく眠れた?」
「快眠だったよ」

 エミリスもまた身支度を整えていた。そろそろ開店時刻なのだろう。商売人の顔に変わっている。

「僕も帰るよ。世話になったね」
「私の方こそ、《銅の剣》を売ってくれて、ありがとうね。きっと高値で売ってみせるわ」

 白い歯をチラリと輝かせながら、笑みを浮かべる。眩しい笑顔に心が揺れた。

「あの……僕もエミリスさんの夢を応援するから……」
「うふふ、励ましてくれるのね」
「励ましとは少し違うかも……」

 口にしながら頭の中を整理する。ぼんやりと浮かんでいたビジョンが、輪郭を描き始めた。

「僕も、僕のやり方で魔王を倒すよ。そして勇者を見返すことにする」
「まさか私と同じように武器商店を始めるの?」
「言っただろ。僕は僕のやり方を選ぶ。君の非効率な方法とは違うやり方でね」

 非効率と指摘され、エミリスはキョトンとした表情を浮かべる。

 怒るかもしれない、と反応を待つ。だがジンと視線を交わした彼女が心中に抱いた感情は『感心』だった。

「へぇ~、さすがはジンくん。気づいたのね」
「エミリスさんの案はエリア9の戦力を強化する方法だ。でもそれだと非効率なんだ。理想はエリア1の時点で強力な武器を生産し、冒険者たちに配給することだ。それができれば、エリア9に辿り着く前に命を落とすこともないからね」

 エリア9に到達した時点で、冒険者は最強クラスの武器を装備している。エミリスの尽力があれば、そこに少しのプラスはあるだろうが、驚異的な戦力アップにはならない。

 しかしエリア1のヒヨッコ冒険者なら話は別だ。《銅の剣》や《棍棒》が主体の彼らにエリア9の武器を与えれば、スライムやゴブリンはもちろん、オークが相手でも後れを取ることがなくなる。

 それは即ち、冒険の安全を意味した。振るい落とされるはずの冒険者が生き残れば、魔王との闘いでの戦力が増えることになる。

「ジンくんの言い分は分かるわ。でもそれは妄想でしかないの。なにせエリア越えの結界は誰にも超えることができないもの」
「エミリスさんの言う通り。不可能だね」

 ただし僕以外の人間には、とジンは心の中で呟く。

 彼だけが世界で唯一、危険エリアを跨ぐことができるのだ。これは勇者であるクリフにもできなかったことだ。

 ジンは拳をギュッと握りしめる。自分のやるべき天命が見つかった気がした。

「ジンくんのことだから、きっと考えがあるのよね。なら私は応援するわ。だから一緒に魔王を倒しましょう」
「約束だ」

 ジンはエミリスと別れ、店を飛び出す。足取りに迷いはない。使命感で燃えていたからだ。

 周囲に誰もいないことを確認してから、《一人旅》のスキルを発動させる。行先はスターティア。勇者でも帰ることのできない場所へと旅立つのだった。
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