私が王女だと婚約者は知らない ~平民の子供だと勘違いして妹を選んでももう遅い。私は公爵様に溺愛されます~

上下左右

文字の大きさ
20 / 22

第三章 ~『一年後の黄金畑』~

しおりを挟む

 和平を結んでから一年が経過した。平和を維持する約束の期間は終えたが、王国は平穏を保ち続けている。

「うわぁ~、小麦が黄金色に輝いてますね!」

 クレアの目の前には、一面の小麦畑が広がっている。稲穂は陽光で光り輝いており、大地を眩しく照らしていた。

「これもすべて女王陛下の協力おかげです」

 腰の曲がった老人が声をかけてくる。この辺りの農家を束ねる豪農であり、彼自身も畑仕事に従事する農夫でもある。

「この痩せた大地にこれほどの麦が実るとは思いませんでした。いやはや、近衛の魔法使い様たちは凄いものです」
「私の自慢の精鋭たちですから♪」

 水魔法で雨を降らし、土魔法で大地を耕す。火を起こして雨乞いをしたり、鍬で土を耕したりするのとは効率が大違いだ。改めて、魔法使いの重要性を実感する。

「小麦の質も素晴らしく、是非、女王陛下にも味わっていただきたいとパンを用意しました」
「美味しそうなパンですね♪」

 バスケットには小麦色に焼かれたカンパーニュのパンとブールパンが詰められていた。カンパーニュはクルミとレーズンで鮮やかな見た目をしている一方で、ブールパンはシンプルな丸まった形状をしていた。

「では頂きますね」

 まずはカンパーニュを口にする。噛み応えは抜群で、噛めば噛むほどクルミとレーズンの味わいが広がっていく。

「王国のパンがこんなに美味しくなるとは驚きです!」
「ははは、そうでしょうとも。では次は小麦本来の味を知るためにブールパンを試してください」

 カンパーニュはクルミやレーズンの味が小麦よりも強かった。現状の王国の麦の質を知るためにも、ブールパンを一口齧る。

 噛めば噛むほど旨味が舌の上で広がる一方で、麦の表皮の混ざりが多いためか、ゴワゴワとした食感が不快感を生んだ。

「カンパーニュでは分かりませんでしたが、この味は……」
「さすが、女王陛下。気づかれましたか。食べられないほど不味くはありませんが、帝国産のパンと比べると味は落ちてしまうのです」
「これは製粉技術の違いですね」
「ご明察です」

 小麦の製粉作業は石臼で引いて、振るいにかけていくが、網の目を表皮が通り抜けると、味の劣化に繋がってしまう。

 ようやく小麦を作れるようになった王国では、パンが完成するまでの知見が溜まっていない。帝国の後塵を拝しているのが現状だった。

「状況は把握できました。でも悲観する必要はありませんよ。技術はいずれ追いつけますし、果実を混ぜたり、ジャムを塗ったりの工夫をすれば美味しくできますから」
「女王陛下は前向きな方ですね」
「ふふ、良く言われます」
「なら私たちも前向きに生きるとしましょう。食料危機の時に森の中で木苺が実っている場所を発見していますから。ジャムとセットにして売りだします」
「その意気です」

 困難はあれど、立ち向かっていく意思さえあれば王国は安泰だ。

 安心したクレアは改めて視線を麦畑へ向ける。すると一部のエリアが踏み荒らされていることに気づいた。

「あの荒らされているところは……」
「おそらく魔物の仕業でしょう。山から下りてきて、麦を貪っていくのです」
「討伐隊を派遣した方が良いですか?」
「いえ、それは……目撃者によると、魔物は見上げるほど大きな狐だったそうで、もしかすると稲荷の神が下山してきたのかもしれませんから」
「稲荷の神がですか⁉」

 農耕や稲作を司る神であり、豊穣を願う農夫たちに信仰されてきた神である。狐の姿をしており、山の中の祠に住むとの伝承が残っている。

「もし稲荷の神なら討伐するわけにはいきません。しばらくは様子を見ようと思います」
「でも困っているのですよね」
「本音を言えばそうですね」
「なら私が頼んでみましょう」
「女王陛下がですか⁉」
「王家と稲荷の神は密接に結びついてきた歴史がありますから。きっと無下にはされないはずです」

 祀られている祠へ赴く約束をしたクレアは、安心させるように微笑む。頼り甲斐のある女王に、彼は恭しく頭を下げるのだった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】金で買われた婚約者と壊れた魔力の器

miniko
恋愛
子爵家の令嬢であるメリッサは、公爵家嫡男のサミュエルと婚約している。 2人はお互いに一目惚れし、その仲を公爵家が認めて婚約が成立。 本当にあったシンデレラストーリーと噂されていた。 ところが、結婚を目前に控えたある日、サミュエルが隣国の聖女と恋に落ち、メリッサは捨てられてしまう。 社交界で嘲笑の対象となるメリッサだが、実はこの婚約には裏があって・・・ ※全体的に設定に緩い部分が有りますが「仕方ないな」と広い心で許して頂けると有り難いです。 ※恋が動き始めるまで、少々時間がかかります。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」 婚約破棄をきっかけに、 貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。 彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく―― 働かないという選択。 爵位と領地、屋敷を手放し、 領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、 彼女はひっそりと姿を消す。 山の奥で始まるのは、 誰にも評価されず、誰にも感謝せず、 それでも不自由のない、静かな日々。 陰謀も、追手も、劇的な再会もない。 あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、 「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。 働かない。 争わない。 名を残さない。 それでも―― 自分の人生を、自分のために選び切る。 これは、 頑張らないことを肯定する物語。 静かに失踪した元貴族令嬢が、 誰にも縛られず生きるまでを描いた、 “何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路

藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。 この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。 「聖女がいなくても平気だ」 そう言い切った王子と人々は、 彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、 やがて思い知ることになる。 ――これは、聖女を追い出した国の末路を、 静かに見届けた者の記録。

処理中です...