19 / 60
第二章 ~『選択したパートナー』~
しおりを挟む投票数一位のマリアは、優先的にパートナーを選択できる。彼女に投票した者、またそれ以外の者にとっても、誰を選ぶかは注目の的だった。
「一位の君はこの場にいる神父なら誰でもパートナーに選択できる。さぁ、マリアくん。誰を選ぶんだい」
「それは……」
マリアの中で候補は絞られていたが、まだ結論が出ていなかった。決定打を求め、崩れ落ちたリーシェラを見据える。
「パートナーを決める前に確認したいことがありますの」
「何を聞きたいのよ」
「どうして私をこれほどまでに敵視しましたの?」
「それは……」
遅刻の罰則があり、マリアは評価ポイント首位から転落していた。さらにマリアを追い詰める必要はなかったはずだ。
マリアの友人であるティアラへの私怨からか。それとも公爵令嬢としてのプレッシャーが彼女を駆り立てのか。
そんな疑問に対し、リーシェラは恐る恐る口を開いた。
「あんたの父親から頼まれからよ……」
「お父様に!」
「あんたが教会を辞めれば、王子からの結納金を半額貰える約束になっていたの。その金額は公爵令嬢の私でも十分すぎるほどの金額よ。乗らない手はないわ」
「だから私を追い詰めたのですわね……」
「投票で圧倒的に敗れれば、きっと自主的に教会を去ると思ったのよ。でもそうはならなかった。残念ながらね」
項垂れるリーシェラに同情してしまう。彼女は実家の公爵家から追い出されるリスクを背負っている。だからこそ保険として、一人で暮らしていけるだけの金を欲したのだ。
「私はどんなことがあろうとも挫けませんわ。嫌がらせにも屈しませんから」
「あんたは強いわね……」
「大聖女を目指していますもの。当然ですわ」
だからこそ誰にも負けないような優秀なパートナーを味方に付ける必要がある。絞っている候補は二人だ。
(最有力候補はやっぱりジル様ですわね。適正だけでなく学業や人格まで完璧な超人ですもの)
何度も助けられたし、ジル自身もマリアに選ばれることを期待している。彼を選ぶことは最良の選択肢の一つである。
(もう一人はカイト様ですわね)
適性や勉学などではジルより劣るが、彼にしかない才能もある。それはハングリー精神だ。どんな苦境でもスラムを経験してきた彼となら乗り越えられるはずだ。パートナーとして、二人三脚で立ち向かうなら、彼を選ぶ道もある。
(お父様の嫌がらせはこれからも続くかもしれませんし、立ち向かうためにも、この選択は間違えられませんわ)
視線を巡らせると、目が合った二人はどちらも真摯な視線を返してくれる。ただもう一人、意味ありげな瞳を向けてくる人がいた。
(ケイン様……でも、あの表情はいったい……)
ケインはパートナー選びが大切だと何度も念押しをしてくれた。それこそカフェでわざわざマリアのために時間を作ってくれてまでだ。
そこにはきっと特別な意味があるはずだ。思考を巡らせることで彼女は正解へと辿り着いた。
「ケイン様に確認ですわ。パートナーはこの場にいる神父様たちの中から選ぶのですわね?」
「そうだとも」
「それは誰でもいいと?」
「もちろんだ」
「分かりましたわ。私のパートナーは……」
皆が答えを待ち望んで、息を飲む。静寂を打ち崩すように、ある一人の男の名を呼ぶ。
「ケイン様でお願いしますわ」
ざわめきが教室に広がっていく。まさか担任であるケインを選択するとは思わなかったからだ。
「ケイン様は仰いましたわ。この場にいる神父様なら誰を選んでもいいと。ケイン様も間違いなく神父様の一人ですわ」
「だがマリア、さすがに無理がないか?」
ティアラが問うと、その疑問をケインが否定した。
「実はね、このパートナー選びは担任の神父も選択することができるんだ。歴代の大聖女候補の中で、この事実に気づけたのは君を含めて五人もいない。見事だよ」
「……それではパートナーを引き受けてくださいますの?」
「もちろん。というより、僕も君の助けになりたいと願っていたからね。いや~、君を助けて欲しいと毎日手紙が届くからね。あの人の期待に応えられて良かったよ」
「あの人?」
「とにかく、マリアくんにも味方がいるってことさ」
屋敷の使用人仲間だろうか。だとしたら彼らに感謝しなくてはならない。心の中で礼を伝える。
「でもね、僕は君のパートナーでありながら、担任教師でもある。平等に接するべき場面では君を優遇することはできないから。その覚悟でね」
「もちろんですわ」
「なら決まりだね。これからもよろしく頼むよ」
「こちらこそですわ」
マリアとケインは手をギュッと握り合う。尊敬する彼を味方に付け、彼女は大聖女への道を突き進むのだった。
12
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる