【完結】ハッピーエンドを目指す大聖女は家族を見返します

上下左右

文字の大きさ
27 / 60

第三章 ~『父親からの手紙』~

しおりを挟む

 昨晩、ジルに妻になって欲しいと告白された。その事実に悶々としながら、マリアはベッドで横になる。

(ジル様は私には勿体ないくらい素敵な人ですわ)

 だが愛しているかと問われれば答えはノーだ。もちろん容姿も家柄も実力も完璧な彼だ。人としては好感を持っている。

(どうすればいいんですの!)

 枕に顔を押し付けて、バタバタと足を振る。

「シロ様ならどうしますか?」
「にゃああ」

 霊獣と言語による意思疎通はできない。悩み事の相談も鳴き声しか返ってこなかった。

「でもシロ様を見ていると、心が落ち着いてきますわ」

 霊獣は聖女の絶対の味方だ。一度契約すれば裏切られることはなく、生涯に渡って尽くしてくれる。

 また霊獣と聖女は互いの居場所を把握できるし、ピンチになれば察知もできる。シロがいてくれるだけで、心が前向きになる。

 外の空気でも吸って落ち着こうと、ベッドから起き上がると、部屋の扉の隙間から手紙が差し込まれていることに気づく。

(誰からでしょうか)

 手紙の差出人を確認すると、そこには父親の名前が記されていた。

(お父様が私に手紙⁉ どうして⁉)

 封蠟の家紋は間違いなくイリアス家のものだ。偽造も困難なため、本人が差出人だと疑う余地もない。

 封蠟を外して、手紙の中身をチェックする。そこには想像の斜め上の内容が記されていた。

「私を……王子と結婚させるのを諦める⁉」

 ありえない。王宮との繋がりを諦めるはずはないからだ。

(まさかサーシャと王子を結婚させますの? でもお父様がそう簡単に認めるはずが……)

 グランドはサーシャを溺愛しているため、醜男の王子と結婚させるはずがない。また彼はマリアを教会から追い出すために刺客を送り込んでいるはずだ。その行動とも大きな矛盾が生じていた。

(この手紙、裏にも文章が……)

 捲ると、続く内容が目に飛び込んでくる。そこには王子との婚約を諦める代わりに、別の男との婚約を結んで欲しいと記されていた。

 しかもその婚約者の男は、マリアも良く知る人物――ジルだった。

(ジルと婚約だなんて、お父様は何を考えていますの⁉)

 理解が追い付かないままでいると、部屋の扉をノックされる。

「マリア、私だ。ジルだ」
「ジル様!」
「部屋に入ってもいいかな」
「は、はい。どうぞ」
「では失礼するよ」

 用意した椅子に腰掛けるジルと、ベッドに座るマリア。二人は気まずい空気になるが、ジルがその雰囲気を壊してくれる。

「部屋を綺麗にしているんだね。うん。素敵な部屋だ」
「た、たいしたことありませんわ」
「貴族の令嬢の中には使用人がいないと何もできない人もいるからね。身の回りの整理ができる令嬢は、それだけで立派なのさ」

 使用人のように暮らしてきた経験が活きたことに苦笑を浮かべるマリア。対照的に、ジルはニコニコと笑みを崩さない。

「私が部屋を訪れた理由、知りたいよね?」
「昨日の告白の答えを聞きにきたのですか?」
「ははは、さすがに昨日の今日で答えが欲しいとは言わないさ。そろそろ君の家から手紙が届いている頃だと思ってね」
「ジル様も知っていたのですか⁉」
「私の本気を知ってもらうために、君の婚約者に立候補したんだ。君が大聖女になるモチベーションは聞いている。好きでもない人と結婚するのが嫌だったんだよね?」
「それが一番の理由ですわね……」
「だからこそ私を選んで欲しい。大聖女になるだけが幸せの道じゃない。必ずイリアス家から守り抜くと誓うよ」
「ジル様……」

 魅力的な提案に心が揺れる。マリアの成績は首位だが、確実に大聖女になれる保証はない。

 もし成績不振で教会を追い出されれば、最悪の結末が待っている。それならジルと結婚するのも悪い選択ではないように思えた。

「私が教会を去ったら、ジル様はどうしますの?」
「もちろん。君と一緒に領地に帰るよ。幸いにも私は能力だけは高いからね。不自由しない生活を保障するよ」
「上級司教の夢はどうするのですか?」
「それは……君がいてくれるなら、叶わなくてもいいさ。私にとって上級司教だけが幸せじゃないからね」

(やっぱり釈然としませんわね)

 自己肯定感の低さのおかげか、彼の愛を簡単に信じることはできない。モヤモヤした感情が心の中に渦巻いていく。

「あの、どうして私なんですの?」
「優しいところや、真面目なところが魅力的でね……好きになったんだ」

 嬉しい言葉だが、どこか軽い。本当にジルは自分を愛してくれているのか。過去に家族から悪意を向けられてきた彼女だからこそ疑心暗鬼になっていた。

(それに……ケイン様の事もありますもの)

 ジルとの結婚に想いを馳せると、ケインの顔がチラつくのだ。このような状態で彼と結婚することはできない。それが暗に伝わったのか、ジルは悲しそうに眉を落とす。

「私は諦めないから……かならず君を私の妻にする」
「ジル様……」
「また来るよ」

 それだけ言い残して、ジルは部屋を後にする。その背中はどこか哀愁が漂っていた。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

処理中です...