短編物語パンドラ 【百合】

わまり

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あの子の為なら私は人ではありません 最終話(ユキ視点)

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耳鳴りのような音がする
はっちゃんが来たのだろうか

左腕に痛みを感じた。
それが徐々に強くなるにつれ、意識がはっきりしてきた。白い天井、暖かい空気が充満しているこの部屋は病院だろうか

手首を切った後意識を失った。
それなら私は生きていたのか

手元にあるボタンを押す

すると、看護師が目を見開いて振り向き、すぐに大きな声を出して誰かを呼びに行った。

「ユキ!よかった…ほんとに…」
涙を流しながらベッドの上に伏せる人

「お母さん…?」
まずはっちゃんに謝りたい
何も言わずに死のうとした事、ありがとうも何も言えてない
「今日は何月何日…?」

「10月20日の午前7時です」
白衣を着た医者らしき人が答える

「1日以上も寝てたんだ…」
「はっちゃんに謝らなきゃ、今どこにいるのかな」

「そうね、今すぐ報告するから」
母が携帯を片手に病室を出、数秒後「出ないわ、留守かもしれない」
と言って戻ってきた

「そっか…」

「では、私達はこれで。娘さんも今は休ませておいて下さい」
と看護師を連れて医者が病室を出ていく

「じゃあ私達も…。何かあったら呼んでね」母も病室を出ていく。
理由について問われなかったのは幸運だった。母も気遣ってくれたのだろう。

ふっと息を吐き、目を閉じる
はっちゃんはどうしているだろうか
数日前見た時の光景を思い出す
夜、学校へ向かうはっちゃんを見かけた
声をかけづらかったので、付いていってしまった。そこで見た光景に、戸惑いを隠せなかった。無表情で釘を机に打ち込むはっちゃん。
いじめっ子の机だ。もしかしたら。
はっちゃんは復讐をしているのだろうか
私はいいのに。
翌日、はっちゃんに「無理しないで」と言った。伝わっただろうか…

はっちゃんはいつも私のことを気にかけ、守ってくれた。私の害になるものに敵意を抱いていた。いじめっ子にもそうだ。だからあんな事をしたんだろう。

ふと不吉な考えが浮かんだ
もし、私が自殺でもしたらはっちゃんはどう思うのだろうか、と考えた事がある。復讐は必ずするだろうな、とあの時は結論を出した。

そして今、私は自殺未遂をした
まだはっちゃんは私が生きていると知らない。はっちゃんはいじめていた奴らに何をするつもりだろうか…

心臓が早鐘を打つ
はっちゃんは犯罪者になってしまうかも知れない。嫌だそんなの。
私のせいではっちゃんの人生が台無しになる。私のせいで…

行かなきゃ、はっちゃんがどこにいるかはわからないけど、行って止めなきゃ。
寝巻に毛布をはおり、スリッパを履いて病室を抜ける。

学校にもいなかった
はっちゃんの家、いじめっ子の家にも行ったがいなかった。思い出のある場所をいくつも周り、いつしか日は落ちかけ、薄暗くなってきた。

冷たい空気が肌を撫でる
いつの間にか目には涙が溢れていた
力の入らずフラフラした足取りで海沿いを歩く。夕陽に照らされ、海を見る。

数100m先、崖の上に四人の人影があった
3人は尻餅をつき、這いつくばっている。もう1人は、そんな3人を見下ろしていた。

「はっちゃん…?」
あれははっちゃんだ。走って近づくにつれてはっきりしてくる。3人はいじめっ子達だろうか。
手遅れだろうか、いやまだ間に合う
出せる限りの力を振り絞り、走る
と言ってもほぼ歩いているように遅い
身体が悲鳴をあげ始めたその時、
崖の上に立つはっちゃんがノートに何かを書いているのが見えた。

もう足が動かない。手で這いつくばる様にアスファルトを進み、やっと崖へ続く砂利道へ出た。
「はっちゃ…」
声も掠れている、腕に激痛が走る


1人、崖から落ちた
だめだはっちゃん、それ以上はしちゃだめだ
唾を飲み込み、声にならない声を出す
「はっちゃん…だめ…私は」
生きてるよ。それだけでも伝えたい
はっちゃんはきっと3人を落としたら自分も死ぬ。はっちゃんの目はとても冷たかった。


2人目が落ちた
人形の様に固まったまま落ち、遠くからでも鈍い音が聞こえた
動機が激しくなり、息が苦しい
はっちゃん、はっちゃん、はっちゃん
はっちゃんがペンを海に投げ捨てた
夕陽が反射し、キラリと光る

3人目にはっちゃんが手をかけた時、
私の足が回復しているのに気が付いた。
走れる。まだ間に合う
はっちゃんは生きていて
私は生きてるよ
ここにいるんだよ。
3人目が落ちた。また鈍い音が響く

はっちゃんはそれから数秒間、空を見上げていた。そしてノートを置き、ナイフを拭って傍に置いた。

私は足を引きずりながら進んでいった
あと50m、声は届くだろうか
「はっちゃん…!はっちゃ…!」
涙で上手く言えない、まだ聞こえない
倒れそうな疲労感、目ははっちゃんを見ていた。


はっちゃんが1本踏み出した。あと3歩程で崖下だ。もう1歩踏み出す。そしてもう1歩。もう崖下はすぐそこにあった。

私は死んでもいい。疲れ果てて死んでもいいからはっちゃんは死なないで!
目眩がしながら、薄い視界の中はっちゃんを見つめる。急に喉のつっかえが取れたような感覚がした。


「はっちゃんっ!!!!」
声を出すのとはっちゃんが空中へ足を踏み出すのが同時だった。
視界がスローモーションの様になる。
落ちながら振り返ったはっちゃんの目は10m先の私を捉え、目を見開いた。
そして宙に目を向け、
微笑んでいた。


いつの間にか転んでいた
地面に横たわり、泣き叫ぶ
私のせいではっちゃんは死に、
私は救えなかった

何分経っただろうか、ヨロヨロと起き上がり、崖の上にあったノートを開く。
「4月20日、クラスのユキちゃんと初めて話す事が出来た」から始まる手記には、
はっちゃんの私に対する思い、悩みが綴られ、10月1日からはこれに至るまでの復讐が綴られていた。

私は最後に
「ごめんね、私もすぐ追い付くから」
と書きノートを閉じた

素足から冷たい岩の感触が伝わる
崖下には真っ赤な海が、そして四人の遺体が。いつの間にか太陽は月になり、海がそれを反射していた。

明日、ユキとハズキの名前、そしていじめっ子の三人の名前が新聞に載るだろう
どう言われるかな、
今はどうでもいいや
胸いっぱい冷たい空気を吸い込む

揺れる月の下へ、一歩踏み出す
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