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第一章 龍国と地上世界

第24話 それぞれの思い

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フィドキアを廻り、ラソンとインスティントが恋の三角関係となる頃、上位龍種が地上世界に降りた眷族の子孫と龍人との繁殖を命令した。

実際は漆黒の髪を持つ女性が”とある可能性”を思い付いての事だ。
そう単に思い付きだったのだ。

顔を見ればお互いに険悪な雰囲気になる2体だが、元凶であるフィドキアは素っ気なく気にする素振りも見せない。
そうなるとモヤモヤした苛立ちの捌け口が必要なのだ。
だからと言って第1ビダである母親に言えるはずも無い。
必然的に弟達に矛先が向くのだった。

始めの頃は親身になって聞いていたカマラダとバレンティアだが、事有る毎に愚痴を聞く機会が多くなり。良かれと思って意見しようものなら逆ギレされる始末だ。

以前お節介が仇となり、些細な事でインスの嫉妬心が燃え盛り火災が起こる手前の事態までの騒ぎになった事があった。
事態を深刻に思ったバレンティアは、インスの担当をカマラダに選任するようにお願いしたのだ。
何故なら、もしもの場合消火するのはカマラダが適任だと思ったからだ。

バレンティアの勝手な要望だが、カマラダは快く引き受けてくれた。
何故ならカマラダもラソンの担当をバレンティアに変わって欲しいと思っていたのだ。
(あのネチネチとした愚痴を聞かなくて済むならお安い御用だ)
終わりの無い小言を聞く身が辛くてたまらなかったカマラダだ。

当分の間、兄弟2人は姉達の鬱憤を聞くと言う不毛な世界を出入りする事になるのだった。
ただし、兄弟2体には副作用として恋愛相談の経験値が高くなると言う望まない結果となる。

そしてラソンが事前に聞いていた事がそれぞれの眷族から正式に言い渡されるのだった。
「我らが神々から使命が言い渡された。それぞれの龍人が地上世界に降りた眷族の子孫と繁殖を行なう事」
眷族の使徒と第1ビダから直接聞かされる龍人達は答えた。

黒髪の龍人は「はっ畏まりました」と一言だけ。
金髪の龍人は「・・・はい」とかぼそい声で。
赤髪の龍人は「えぇぇ龍人どうしはダメですかぁ?」と提案したがあっさりと却下された。
碧髪の龍人は「人選は我が決めて良いのでしょうか?」返事は好きにしろとの事だった。
緑髪の龍人は「それはいつ頃から始めますか? また何人程作れば良いですか?」繁殖の時機はもう暫らくしてから。交配する人数は任せるとの事だった。

この”繁殖の時機はもう暫らくしてから”はある眷族が裏で動いていた。
愛おしい娘が、毎夜泣いて嘆願する姿に自分を重ね、眷族の長たる神にお願いしたのだ。

ある時、眷族の神である聖白龍アルブマ・クリスタに会う為に、使徒のベルス・プリムが娘のオルキスと龍人のラソンを引き連れて嘆願したのだ。

「我らが眷族の神よ。どうか我が子ラソンの願いをお聞きください」
聖白龍アルブマ・クリスタの前にひれ伏す第1ビダのオルキスと龍人のラソンだ。

「聖白龍様・・・」
嘆願しようとした時横槍を入れる者がいた。
「ラソン。何も語らなくとも貴女の気持ちは知っています」
その優しさに包まれた美声はラソンの心を洗うかのように聞こえていた。
「「聖白龍様・・・」」
何も言わずとも知っていると答えたので驚いた親子だ。

(これは我らが眷族に限っての事かしら。どうしてもお姉様の眷族を愛してしまうのよねぇ。だからと言って拒絶してはラソンだけ可哀想だし。どうしましょう。とりあえずお姉様に念話して見ようかな)

オルキスとラソンを眺めながら考え込んでいたアルブマだ。

(・・・と言う事なのお姉様)
(ふふふ。貴女の眷族ならば当然と言えば当然の行動ね)
(もう、お姉様ったらぁ)
(良いわ、私からフィドキアに伝えましょう)
(ありがとうございますお姉様)
(ただし、これより200年の間だけですよ。その後、地上の末裔と繁殖をする事が絶対条件よ)
(解かったわ、お姉さま約束させます)

長い沈黙に隣で控えていた使徒のベルス・プリムが思案中の神に問いかけだ。
「お母様。ラソンの件は如何様に・・・」
「・・・大丈夫よ」
そう言って微笑み返したアルブマだ。

「ラソン、貴女の胸の内は良く解っています。よってこれより200年の間、フィドキアとの繁殖を許可します」

「・・・」
一瞬我が耳を疑うラソン。
同時に心臓が激しくなるのが解かった。
「聖白龍様・・・」
つぶやくラソンの眼からは大粒の涙が溢れていた。オルキスが嬉しそうにラソンの肩を抱き寄せた。

「ただしラソン。その期間が終われば末裔との繁殖が貴女の勤めだと理解しなさい。今後は貴女の気持ちよりも命令が絶対です。いつ如何なる場合でもですよ」
「はい、聖白龍様」

個龍の無理な要望を叶える為の代償は、いつの日か受け入れられない命令でも承諾する事になるのだが、今のラソンには夢にも思わなかった。

目先の欲望を成し遂げる為、未来の自分に代償を償わせる事にしたラソン。
許されたのは200年の間に交配せよとの厳命だ。

だが地上世界の生命にとっては長い年月だが、ラソンに取っては”たった200年”なのだ。
しかし、神から許しを得たラソンの心境は浮かれていた。


※Dieznueveochosietecincocuatrotresdosunocero


同じ頃。
暗黒龍テネブリス・アダマスの元に呼ばれた龍人のフィドキアだ。

「・・・そう言う訳で、ラソンと繁殖しなさい」
「はっ畏まりました」

テネブリスから揺れ動く女心の説明はしない。
単に龍人の繁殖結果を調べたいと短い命令だ。
しかしフィドキアは一切質問も無く、疑問も無く、間髪入れずに返答をした。

龍人の中で誰よりも長く生きているフィドキアは神であるテネブリスの厳命は絶対なのだ。
だがしかし、どうしても理解出来ない場合は自らの創造主であるロサに相談する事がある。

「父上、先程我らが神からラソンとの交配を命ぜられました」
「そうか。それはラソンが喜んでいるだろうなぁ」

ラソンが喜ぶ理由が解らなかったフィドキアだが、そんな事よりも龍人どうしが交配するにあたり、どうして自分とラソンなのかが理解出来なかったのだ。
何故なら男型の龍人は3体も居るのからだ。

「それは可能性だろう。我が創生したお前と、我が繁殖した子同士の繁殖なのだから我らの神が興味を持たれるのも当然だろうからな」
「はっ、畏まりました」
自らの疑問よりも神の考えを優先するフィドキアだった。






Epílogo
倫理観は種族や時代性によって変化するモノです。
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