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第4章 獣王国編2

第114話 パウリナと龍人

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パウリナの部屋に転移して戻ると、みんなが驚いたので自分の変化を解いていなかった事に気が付く。

「ゴメンゴメン。ああ、義母さん。一応龍人にはパウリナを連れて行くことは許可をもらったから明日一緒に行ってきます」

するとネル殿が驚く。
「何ぃ!」

その表情は誰にでも解る。
”自分も行きたい”だ。

「あのですね。龍人は基本的に外部の者と会いません。パウリナは俺の嫁なので、物凄いお願いをして何とか許可をもらった訳ですからね。パウリナ以外は絶対に無理です」

ガックリする”ネル殿”だった。

「龍人の事は実際に会ってからパウリナに聞いてください」





義母のアンドレアに説明した後、結婚戴冠披露宴会場に全員で向った。
そこは王城で一番大きな広場だ。そう、”今回”は屋外なのだ。
一体何百人いるのか知らないが、いろんな獣人が居る。
猫系犬系が多いが彼らは似たような系統でも種族が違うらしい。
ちょっと体が大きかったり、毛色が違ったり、毛の長さとか選別したらキリが無いくらいだ。

(まぁ、俺とエルフも似たような者だからね、他種族の事は言えないな)

しかし、変わった種族が居ます。
耳が長いとか、羽が生えているとか、鼻が長いとか、小さいとか、見た事も無い知らない種族がわんさか居ます。そんな中で進行係のロディジャが司会進行し部族の代表達がお祝いの挨拶をする中、エルヴィーノの順番が回って来た。事前に先代獣王夫婦には許可を得て棘城、三ヵ国同盟、アルモニア教の事を話すつもりだ。





「それでは皆さん新しい獣王こと”黒竜王”に御挨拶して頂きます」

一斉に拍手喝采が巻き起こる。
「みなさん。お会いするのが初めての方もいらっしゃると思いますが、私はこの土地の者ではありません。黒龍は力の象徴ですが、力だけでは人は幸せになりません。私はこの土地を繁栄させる為に新しく城を築きます。その城は龍の加護を得て、この大陸一番の繁栄を約束する事が出来るでしょう。そしてその城は、この国と王家に忠誠を誓う者だけに出入りを許可します。力と繁栄をもって、この国と、この大陸に平和と安らぎをもたらす事を約束しましょう」大きな拍手が沸き起こる。

「みなさん。既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、エルフ国メディテッラネウスと聖魔法王国アルモニア。そして獣王国バリエンテが三ヵ国同盟を結びます」

(おおおおおおっザワザワ)

「そして龍を奉るアルモニア教が全ての龍の信仰を受け入れて、この大陸に布教が始まります。詳しい事は教会の方に尋ねて欲しいのですが、私から一言だけ伝えるならば・・・全ての龍は1つの意思の元に」

パチパチパチパチ拍手が巻き起こる。
「つづきましては・・・」

会場にはロザリー一行にロリ達も確認した。
獣王国のワイルドでスパイシーな料理を食べつつエルヴィーノが指示したグラキエース・マヒアで冷たくした、この国の飲み物が全てのテーブルに行き渡っていた。
会場のアチコチからゲップの音が飛び交っている。

「なんだ、この酒は!」
「冷たくすると物凄く旨いぞ!」
いろんな評価が飛び交うが、批判は聞こえてこなかった。

披露宴は、ほどなくお開きになったが酔っぱらい達はそのまま朝まで騒いでいたと翌朝聞いた。
昨日と同じく早朝から起きてパウリナを”襲い”、夫婦になって一度目を終えてから用意を始めた。
今日から数日間は国の重鎮や貴族、近隣諸国や部族との謁見だ。
この国は広くて部族の数が多過ぎるから選別せずに全て魅力で洗脳する予定だ。
昨日あんな事を言った手前、他者の賛同が必要になって来るからな。
面倒だが仕方ないので、"魅力の儀式"をこなして行った。

一応午後から休み時間をもらい、夕方の食事会には戻る事を告げてパウリナと監視室に向う。
もちろん転移前にエルヴィーノとロリの関係性と龍人の知識を教えてからだ。
1人では無いので一応事前にフィドキアに連絡してから向かった。



「フィドキア~来たぞ~」

居間に行くと、又1人増えていた。

「ええっと」
「紹介しよう、棘城を作ってくれるバレンティアだ」

カマラダが紹介してくれたのは緑髪緑目の普通体型の男だった。

「初めまして、エルヴィーノ・デ・モンドリアンです。こちらは嫁のパウリナです」

「皆様初めまして、パウリナ・モンドラゴンと申します。宜しくお願いします」

「フ~ム。君が噂の黒竜王か! いや、失礼。私は龍人のバレンティアだ。ロサ様を救っていただいて感謝する。新しい棘城は私達に任せなさい」

「ありがとうございます」


バレンティアと挨拶してパウリナをカマラダ、ラソン、フィドキアの順に紹介した。


「パウリナ。召喚した黒龍はこのフィドキアの成龍形態なんだ」

「えええっ、本当ですか! 凄ぉぉい!」

エルヴィーノが褒めるよりも明らかに照れているフィドキアだ。


「ところでパウリナさん。チョット良いですか?」

カマラダがパウリナに近づき瞳を凝視して手を握った。
エルヴィーノはチョット嫉妬でイラッとしながら見ていると

「フ~ム。やはり貴女は私の子孫に間違いないですね」

「ええええっ!」

「やっぱりそうか。カマラダ、説明してやって欲しい」

エルヴィーノからのお願いだった。



「思っていた通り、彼女の瞳と私の瞳は同じ色をしています。そして彼女の魔素は非常に少ないですが、私の系統のモノですね」

「それはどんな系統なのですか?」

「命の水です。この世界で限られた存在以外は全て水分を必要とする生命がほとんどです。それが我らの魔素の根源なのです」

「知らなかった、凄ぉぉい!」

はしゃぐパウリナに更なる物が渡される。

「貴女にコレを授けます」

「これは?」

「龍人の腕輪ですよ」



「ええっ主人とロリ姉様と同じ物ですか?」

「同じだが少し違います。それは私と念話が出来て、貴女を更に進化させる変身を可能にする腕輪です」

「そっ、それはどのような変身ですか?」

「はい、神獣降臨と言って貴女自身が神獣となって戦う事が出来るのです」

ワクワクしていた顔がガッカリした物に替わる。

「龍の召喚だと思いましたか?」
首を横に振るパウリナ。

「もっと魅力的な身体になるのかと思ったの」
自分の胸に手を当ててションボリするパウリナに「それは貴女の旦那様が得意よ」ラソンが告げ口をしたのだ。


「ええっ! どういう事ですか?」

「貴女の胸を大きくしたいなら黒竜王が”簡単”にやってくれるでしょう」

パウリナがエルヴィーノに近づきまくし立てる。
「直ぐにして! 今すぐ!」

「待て、帰ってからな。今は龍人達の話しが大切だ」

機嫌を損ねたパウリナが仕方なくカマラダに聞き直した。

「カマラダさんを召喚出来ないのですか?」

「貴女達獣人族の魔素は少なすぎて、腕輪に魔素を貯めても神獣降臨が精いっぱいなのです。鍛え抜かれた獣人族の必殺技である”獣神変化”の最上級が神獣降臨なのです。過去に”それ”を出来た獣人は居ません。神獣降臨をすると様々な身体能力が飛躍的に向上し、大陸で貴女に勝てる者は居なくなるでしょう。必殺技もいくつかありますしね。試しにやってみますか?」
うなずくパウリナ。



何故か全員で、以前来たことの有る砂漠にやって来た。

「では腕輪に魔素を通して神獣降臨と叫んでください」

パウリナは目を瞑り「神獣降臨」と叫んだが変化無し。
カマラダが魔素の扱い方を教えていた。
そして「神獣降臨!」と叫ぶとパウリナの身体が眩く光り、見る見るうちに大きくなって行った。
その姿は優に10mは越えるだろう。
頭から背中、尻尾までフワフワのシルバーグレイの体毛で中に金色の毛も混ざっている。
そして最大の特徴は額から延びる紺色の巨大な一本角に金色の螺旋模様が付いているのだ。

「さあ、パウリナよ、チョット走って見なさい」
カマラダの問いかけにうなずくと、一瞬で消えてしまった。

「あれ! 消えた!」
エルヴィーノは辺りを見渡したがあの巨大な猫が居ない。

「大丈夫です。私が念話で戻るように話します」
カマラダがそう言うと、いきなり目の前に巨体が現れた。

「ニャーゴ!」
巨体になっても可愛い泣き声だ。

念話で話す様に指導されるパウリナ。
(凄いよこの身体!)
(まだまだですよ。次は空を飛ぶ感覚で歩いてください)

カマラダの指導の元、最初はぎこちなかったが普通に走るように空を駆けているパウリナだった。

「凄いな! 神獣降臨は」
エルヴィーノが呟くとカマラダが更に自慢げに説明する。
「まだまだありますよ」

戻ってきたパウリナにヒソヒソ話すカマラダが
「バレンティア。向こうに砂のゴーレムを100体ほど作ってもらえますか?」

うなずいたバレンティアが遠くを見て
「アレーナ・クレアシオン・ゴーレム(砂人形創生魔法陣)」
と唱えると、かなり遠くにゴーレムが100体ほどこちらに向かって来るが、ここからも確認できる大きさだが、何十メートル有るのか解らない巨大さだ。

「では、パウリナ」
神獣になったパウリナがうなづく。

「グルグルグルグルニャー!」
(イラ・デ・ディオス(神の怒り))

 と叫ぶと広域電撃魔法を自らの角から発生させて砂のゴーレム達に放った。
バチバチバチッドンッ!と電撃音をさせると沢山居たゴーレムがサラサラと崩れて行った。

パチパチパチと龍人達とエルヴィーノが拍手していたら
「では最後に我が眷族の魔法を伝授します。この召喚魔法は水を大量に生み出したり、近場の水源を使い様々な水攻撃が可能になります。ではパウリナ」
そう言うとパウリナの大きな腕に触れると、直接流れてきた情報が脳裏に有った呪文を唱えた。

「ニャーニャーニャーゴ!」
実際にはインボカル・ドラゴン・デ・アグア(水龍召喚魔法陣)と唱えているのだが、大気中の水分が集まり蜷局とぐろを巻く細長い水色の龍が現れた。

「おおおおおっ」
初めて見る龍の形に感心して思わず声が出てしまったエルヴィーノ。
召喚した水龍を使った水の攻撃や、砂漠に雨を降らせたり、まさに命の水に相応しい魔法だった。
因みにカマラダの説明では今のパウリナが最大の大きさで、半分位の身体にも慣れるそうだ。
ただし、魔法の威力も半減してしまうが、その分回数を唱えられるらしい。
明らかに過剰攻撃力なので3分の1に出来ないかと聞いたら出来るそうだ。

パウリナは元の姿に戻り、カマラダから3分の1の力、3分の2の力、全力と3段階に調整してもらい3分の1の力でもう一度神獣降臨を唱えると、大きさと角も先ほどの3分の1で変身した。
魔法の威力も同様で使用回数が増えたのでパウリナにとっては、この方が使いやすく良かったと言える。
3分の1を通常神獣降臨として、3分の2の力を第二形態の神獣降臨。
全力を真・神獣降臨と改めた。
自らの力が増えて喜ぶパウリナはやはり獣人族だと感心した。



「それから今後は、群青ぐんじょうの聖戦士と名乗りなさい。群青は我らの血脈を意味し、神獣降臨した時の貴女の角の色を指しています」

カマラダから言い渡された肩書きに喜ぶエルヴィーノ。
「凄いよ、パウリナ! 聖戦士だって!」
「うん!」
パウリナの事だが自分も凄く嬉しかった。


一旦、監視室に戻りバレンティアと棘城の話をしようとしたら
「モンドリアン、そろそろ行くぞ」
串を食べに行く気満々のフィドキアが催促してきた。

「その件だけど、バレンティアと話したいから明日にしないか?」
「何! 約束が違うぞ!」
「まぁ待てフィドキア、こんな事も有ろうかと用意した物があるからそれを食べてくれ」
むくれたフィドキアだったがラソンに大皿を用意してもらい、そこに出したのは昨日の披露宴に出された王国の料理だ。

「一杯持って来たから食べてくれ」
串を食べに行くと費用が掛かるから、厨房に余計に作らせてエスパシオ・ボルサ(空間バック)に大量に入れて来たのだ。大皿に山盛りに積み上げた。

「さぁ食べてくれ」
絶対に残すだろうと思った量だ。
結果は綺麗に皿だけが残った。
まぁ3人だと思っていたのにバレンティアが増えたから仕方ないが、まだ入ると言っている。


パウリナとラソンが片付けている時カマラダに聞いてみた。
「なぜ今回パウリナに龍人の腕輪を授けたんだ?」

「彼女の意思とは関係無く棘城に10年も睡眠状態で保管されていたのですが、彼女の10年は我ら龍人の数万年に匹敵するのです。コラソンからのお願いも有りましたから、我が眷族で有れば力を分け与えようと思っていたのです」

「なるほど。パウリナの10年も無駄では無かったか」

「無駄ではありませんよ。今こうして居るのはその10年が有ったからですしね」
ラソンの思いやりだった。


改めてバレンティアと話そうと思ったが、そろそろ帰る時間になったので続きは明日になった。
転移して帰るとパウリナが終始楽しそうにしている。

「龍人の腕輪をもらえて良かったな」

「うん! だけどね、もっと嬉しい事があるの!」

「ん? 何だ?」

「あなた! 私の胸を大きくしてくれるのでしょ!」

「あっ、ああ、そうだったな」

真剣な顔で近づいて来るパウリナ。

「アレは準備に時間が掛るから直ぐには出来ないよ」

「いつ! どの位待てばいいの!」

「けっ、計算してみる」

その場を繕う嘘を並べて何とか誤魔化して夕食会場に向かう2人だった。










あとがき
群青の聖戦士パウリナが大陸最強になってしまった。
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