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第5章 棘城編

第127話 プテオサウラ(翼竜)

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アンドレアからエマスコが届き、極秘に進めていたプテオサウラ翼竜の為に集めた飼育、繁殖、訓練を管理する獣人達と面談する事になった。
事前にフィドキアと打ち合わせしてあり、世話係が決まったら連絡する事になっていた。が、最後まで相性の事を言って来るフィドキアに問い詰めた。

「お前はどうやって管理してんだ?」
「念話だ」
「ずりぃーってか、プテオサウラって言葉が通じるのか?」
「当たり前だ。眷族では末席のプテオサウラであろうと言葉位は理解できる」
(へぇ、迂闊に変な事は言えないなぁ)

しかし、エルヴィーノは念話が出来ない。
いつも腕輪の力を借りてるわけだから。

「あっ!」
思わず声が出てしまったが、忘れていた事が有った。
万能翻訳魔導具だ。
以前使った事が有るがスライムの声が聞こえてしまい、余りにも柄が悪かったのでずっと外していた物だ。
プテオサウラの素行は知らないが一応話をしてみようと考えた。

当面は日々の飼育と、訓練をさせる為の管理だが15人集めてくれた。
中には防具職人や鞍職人もいた。
全員と会ってフィドキアから聞いた餌に寝床や水飲み場に禁止事項を説明した後で、フィドキアから貰った腕輪から念話で「そろそろ送って欲しい」と連絡した。

城の裏側4階と5階部分を吹き抜けにして当面の飼育場に使う予定だが、その4階に行くと外に床が突きだしている場所がある。
どこで待機していたのか解らないが、遠くに鳥の様に見えるたが近づいて来るとプテオサウラだと確認できた。

旋回していたプテオサウラが一匹づつ、突き出た場所の上に空中停止してゆっくりと降りて来る。
最後の1m位でドスンと落ちる様に着地して奥に入る。
最初に用意してもらったのは雄雌で5匹ずつ計10匹が今、目の前にいる。
プテオサウラも種類があるらしくフィドキアに騎乗しやすいタイプを選んでもらったわけだが、小さ目の馬の様な体躯に、蜥蜴の様な皮膚で背中に大きな翼が生えている種類だ。
昔エルフの街を襲った黒いプテオサウラは体中トゲトゲだったが、目の前に居るのは背中もツルッとしていた鞍を付けやすそうな身体だ。
一応考えてくれたのだと、少しだけ"黒い人"を見直した。

体長は・・・尻尾の先まで入れるとかなり長いが、尻尾まで入れると大体5m位で、二回り大きいのが一匹いた。
他のプテオサウラは濃い緑の身体に対して大きいヤツは黒かった。
ギャーギャーと騒ぐプテオサウラだが黒い奴はジッとこちらを見ていたので、耳に付けてある万能翻訳魔導具の耳飾りに魔素を送った。

プテオサウラ目線では

「でっかい城の割に俺達の住家は小さいな」
「この上の石像見たか?」
「おお、あれフィドキア様の成龍形態だろ?」
「超カッコ良かったよなぁ」
「どんな獣人が出て来るかな?」
「本当に俺達に乗れんのか?」
「気に入らなきゃ食い殺せ!」

エルヴィーノにはそんな意見が丸聞こえだ。

「お前達、静かにしろ!」
ガルルルッと黒いのが唸ったのはエルヴィーノが近づいていたからだ。

あらかじめ、獣人達には自分一人で対処するから何もするなと伝え後ろで控えさせていた。
「よく来てくれた、プテオサウラ達よ。俺の名はエルヴィーノ・デ・モンドリアン。この国では黒竜王と呼ばれている」

静まり返る場にプテオサウラ唸り声が響く。
グルルルルルガルルルグッルルルルルグルッ我はフィドキア様より派遣されたプテオサウラの隊長でフィドだ

「宜しくな、フィド」
グワッ! グルグルグル!何! 我らの言葉が解るのか!

「当たり前だろ、お前達こそ俺達の言葉が解って助かるよ」
グルッグルグルグルッムムッ迂闊な事は話せんな

「安心しろ、今は俺だけしか理解していない。ただし、お互いが良い関係になりたいなら特定の獣人達には聞き取れるようにするが、どうする」
グルグルグルッ仲間に聞いてみる

「頼むぜ、フィド」
プテオサウラ達の話し声はギャーとかグルっとかしか聞こえないが、翻訳魔導具からは念話の様に聞こえて来る。

(お互いに話せた方がこちらの要望も伝わるが皆はどう思うか?)
(良いですよ)
(話せるほうが楽だね)
(痛い所とか、調子の悪い時は助かるな)
(では、そのようにする)
と聞こえた。

そして改めてフィドが応えてくれた。
(特定の獣人達には我らの声を理解できるようにして欲しい)
「分かった」

エルヴィーノはレプリカ・マヒア複製、複写の魔法を使い用意してあった万能翻訳魔導具を15人に渡し説明した。

「お前達に特別に貸し与える魔導具が有る」
ざわめく獣人達。
魔導具など使えない自分達に何を言っているのかと疑問に思ったらしいが、密かに期待もしていた。

「これは耳に付ける万能翻訳魔導具だ」
全員の尻尾が猛烈に振っている。
多分嬉しいのだろう。

「使い方は戦闘補助魔法程度の魔素しか必要な無いし、使わない時は魔素を切れば良いだけだ」
みんなの顔が引きつっている。嬉しくて叫びたいのだろう。

「だだし、プテオサウラ達と友好に出来ない者や、この魔導具を無くした者は城への出入りを禁止するから、”どちらも”大切に扱うように。では付いて来い、彼らに紹介するから獣人の誇りを持って礼儀正しく挨拶するようにな」
「「「ハイ!」」」

「あっこの魔導具は、この部隊の極秘事項だからな。外部に漏らすと・・・解っているな?」
「「「ハイ」」」

「じゃ皆挨拶を始めてくれ」
両種族を近づけてうながす。

「わっ、私は皆さんの食糧担当です」
「私は防具職人です」
「私は鞍職人です」
「私は訓練担当です」

個々に挨拶をする獣人達にプテオサウラの隊長が話しかける。
(我は隊長のフィドだ) 

フィドに続いて他のプテオサウラも挨拶しだす。
「凄い彼らの言葉が頭に入って来るぞ」

驚いた獣人達は一斉にいろんな事を話し出した。
具体的には、ここでの生活での事だ。
性別の違いも見た目では解らないので聞いている。

フィドが訓練担当の獣人に尋ねた事が答えられないので獣人がエルヴィーノに聞いて来た。
「黒竜王様、騎乗する獣人達はもう決まっているのですか?」

フィドが気になったのだろう。
直接答える事にした。
「一応隊長候補はいるが、他は未定だ。何か要望があるか?」

(話しを聞くと我らも簡単な防具を作ってくれると言うから、背中に乗せるのは軽い者が良いと思ってな) 
なるほど、普段居ない”重り”を乗せて飛ぶ訳だもんな。

しかし、軽いと言ってもどの程度だろうか聞いてみた。
世話係りで一番体格の良い訓練担当は、いかにも獣人らしい体躯でネル殿と同様の男だった。

「たとえば彼が騎乗したらどうだ?」
フィドは訓練担当者を見て教えてくれた。

(我であれば問題無いが他の者では、いざ戦いの時に体力が続かないだろう) 
なるほど。

その後、要望も聞きながら騎乗”する方もされる方”も初めての経験なので訓練担当者と訓練メニューを相談する事となった。
まずは食事と寝床の要望を聞いて準備を始める。
エルヴィーノも獣人達も何もかも初めての経験なので、記録する行動がしばらく続くようだった。

城の裏でプテオサウラ達が騒いだり飛んだりしていれば、必然的に知れ渡るだろう。

当然”あの男”の耳にも入るからエルヴィーノに声を掛けて来た。
滅多に無いが”たまたま”家族で昼食を取っていたら「そう言えば黒竜王よ、何やら城の裏が騒がしいようだが?」シレッとした顔で、遠回しにもったいぶって話しかけてきたネル殿だ。
エルヴィーノは待ってましたとばかりに答えた。

「現在はプテオサウラ達の生態と環境を調べて調整している所ですが、そろそろ”龍騎士隊”の候補を選ばなければならないので、義母さんと相談していたのですよ」
「そっそうか」
ネル殿の顔が作り笑いになっているのが解る。

「具体的には体重が軽い者で力が有り、品行方正で、目立ちたがりでは無い者ですが、あぁ、そう言えば龍王杯闘技大会で上位者に取っておきの褒美と考えていたのが”龍騎士隊”候補ですがね、優勝者の1人で”エクソシズモ”でしたっけ? 覆面で偽名では連絡のしようが無いですしねぇ」

アンドレアとパウリナがクスクスと笑いをこらえていた。
ピクピクと頬を引き攣らせていたネル殿を見て更に追い打ちをかける。

「では食事の後でプテオサウラ達を見に行きますか?」
「見たい見たい」
「一緒に見に行きましょう」
仲の良い母娘と無言の父だ。

城内から裏の四階部分に繋がる扉を開け通路を通り飼育員達の部屋に顔を出して、”先代獣王夫婦”とプテオサウラ達との面談をしたいと告げた。
数人の獣人が外に駆け出し準備をする。
暫くしてプテオサウラ達が並んで待っていた。
フィドには事前に説明してある。

「お前には獣人で一番強いヤツに騎乗してもらうからな」
(まずは会って見てだ) と話していた。

三人を前にして説明した。
「どうですか? 彼らに騎乗して空から敵を偵察したり、奇襲を掛けたり、今までの獣人には出来なかった戦いが可能になりまよ」

獣王国の一部には鳥のように翼を持つ獣人の部族が居るらしいが余り仲は良く無いらしい。
飛ぶ者と這う者だとかで大昔から溝が有るそうだ。
プテオサウラ達を見るネル殿の顔が子供の様に楽しそうなのが印象的だった。
エルヴィーノは後ろ手で歩きながら思い出したかのように問いかけた。

「そう言えば、俺が"失われた10年を補う何かをネル殿に渡す"と言ったのを覚えていますか?」
「勿論覚えている。そして、このプテオサウラ達がそうなのだろう?」
「その程度のではありませんよ」

エルヴィーノはニコニコとしながら名前を呼んだ。
「フィド!」

呼びかけに一番体躯の大きいプテオサウラが近づいて来た。
「こいつはプテオサウラ達の隊長で名前はフィドと言います。龍騎士隊はこれから集める訳ですが、フィドには獣人最強の男に乗って欲しいのですが、誰か適合者は居ますかね?」

嫌味たっぷりの質問に、エルヴィーノの両肩を掴み宣言した先代獣王だ。
「黒竜王よ。我は今後、品行方正な立ち振る舞いで、目立たないようにする」

「本当ですね? 2人共聞いたね?」
頷くパウリナとアンドレアだ。

「では、失われた10年の時間と闘技大会のご褒美として龍騎士隊長に任命します」

ガバッとエルヴィーノを抱きしめた。
「ありがとう。ありがとう黒竜王よ」
ゴツイおっさんに抱き着かれても、ちっとも嬉しく無いので自己紹介をしてもらう。

「ライオネル・モンドラゴンだ。宜しく頼む」
「グルッグルグルグルルルルルッ」
「えっ騎乗させるなら条件が有るって? そんなの聞いて無いぞ。何ぃ気が変わっただと!? それでどんな条件だ」
「グルグルグルグルルルル」
エルヴィーノとフィドが違う言語で話している姿を見て不思議に思い問いかけて来たネル殿だ。

「ちょっといいか黒竜王よ。もしかしてプテオサウラと会話しているのか?」
「えぇ。そうですよ。彼らが心を開いてくれれば会話が出来ます」
今までの我が儘のお返しをしようと思って出た嘘だ。

「現に世話係も話せる者がいますから」
「本当か! それでどんな条件だ?」
「それが、旨い肉を食わせろだって」
「分かった」
そう言って駆け出したネル殿だ。

それから嫁と義母さんをフィドに紹介した。
「宜しくだって」
「グルグルグルグルッ」
「お前なっ!」

何を話しているのか気になったパウリナが聞いてきた。
「ねぇねぇ、何て言ってるの?」
「2人の様な綺麗な獣人だったら何時でも乗せるってさ」

このフィドが”あの”フィドキアに育てられたとは思えなかった。
「あれ? お前の名前はもしかして」
(我が名はフィドキア様に因んでフィドと付けて頂いた)
なるほどね。

暫らくすると大量の肉を数人で持って来たネル殿だった。
「どうだ、一番良い肉を持って来たぞ」
するとフィドが応えた。

(我の欲しい肉では無い)
「こんな肉じゃ無いって」

ガックリするネル殿だが持って来た肉と一緒に又どこかえ行った。
エルヴィーノは飼育掛に普段何を食べているか聞くと、普通の肉でさっきのは上等な部類の物だったらしい。
自分でも解らなかったのでフィドに聞いてみた。

「それでどんな肉が食べたいんだ?」
(最近フィドキア様が城下町で旨い肉を鱈腹食べたと自慢されてな、我も一度は食べてみたいと思っていたのだ) 
(ああぁ肉串か! なるほど。だが、あんな小さいのを食べるとなると・・・焼いた肉か。タレを掛けて)

 答えが解ったので家族を連れてネル殿が行った食糧庫に向った。
途中で違う肉を大量に持って走ってくる獣人達と出くわす。

「見てくれ黒竜王。この肉ならば食べてくれるだろう」
自信満々のネル殿に告げた。

「食べたい物が解りましたので、内緒で教えてあげますから、その肉を戻しに行きますよ」
「何ぃ! 本当か!」

食糧庫では普段食べている肉を適当に出してもらい厨房に向う。
厨房でエルヴィーノと料理人のやり取りを見ていた家族は1人だけ落ち着かない様子だった。

料理が出来て、小分けされた皿の上に鉄の丸い蓋が乗せられて、匂いもしないのでどんな物か解らない家族達だった。
持って来たのは10皿でエルヴィーノとネル殿は再びフィドを呼んだ。

「フィドキアの食べていた物はこれだよ」
そう言って1つ蓋を取り中に有ったタレ焼きの肉串をフィドに見せた。

(おおぉっそれがフィドキア様の言っておられた肉か!) 
フィドの顔が驚いた様に見えた。

「確かにそうだがお前には小さいし食べづらいだろう」
(確かにそうだな。しかし、食べたい。我は食べるぞ)

「まぁ待てよフィド。お前の為にワザワザ、ネル殿が作ってくれた物を用意した」
ネル殿に合図して丸い蓋を全部開けてもらうと、大きな肉の塊を焼いたモノにタレが掛っていた。
鉄板の上にタレが蒸発して良い匂いがフィドの鼻腔をくすぐった。

(おおおっこれを我の為に作ってくれたのか!)
「あぁそうだ。ネル殿がお前の為に作った肉料理だ。熱いから気を付けろよ、口の中が火傷するぞ」
クンクンと匂いを嗅ぎガブリッと口の中に入れて咀嚼しているフィドだ。
無言のまま、次から次へと食べて行く。
この辺は黒い龍人にそっくりだなと思っていた。

全部食べ終わりフィドの返事を待つネル殿が可哀想になり仕方なく聞いてみた。
「どうだった?」
(凄く旨かった)
良かった良かった。


「それでネル殿を認めてくれるか?」
(条件を追加しよう。数日に一度はこの旨い肉を腹いっぱい食べたい。我らの仲間にもだ。それが可能なら我の背に乗せよう)
そのままネル殿に伝えるた。

「分かった、約束しよう。フィドが望む時に望むだけ用意しよう」
めでたくネル殿が認められて騎乗を許してもらった。
だが、何故か引っかかる。
それはフィドキアが言っていた相性だ。

(それって単に意思の疎通が出来ていなかったからなのか?) て事だ。
世話係は全く問題無く両種族とも楽しそうに今後の計画や武具のサイズ合わせを行っている。

後は、ネル殿にもったいぶって万能翻訳魔導具をいつ渡すだけだ。
その前に龍騎士隊候補を最低9人集める訳だが、主要武器は弓になるから得意な者を集めてもらおう。
初めは龍騎士隊で精鋭部隊を黒龍騎士団に格上げして、城とは別に郊外にも訓練場を作ってもらう予定だ。
場所は”バレンティア山”が妥当だろう。
山と言ったが大きな丘になっている。
監視室と地下迷宮とラ・ノチェ・デル・カスティリオ・インペリオの土を掘り起こして投棄した”例の”場所だ。










あとがき
しばらくネル殿はフィドに夢中になり、大人しくなります。
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