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第5章 棘城編

第128話 プテオサウラ2

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ネル殿はプテオサウラ翼竜に夢中で、龍騎士隊候補を既存の騎士の中から選定したり、防具職人にフィドの防具を造る為の話しに没頭したりと、新しく作った自らの防具と御揃いの黒一色で揃えて準備している。
多分黒龍騎士団を意識しての事だろう。
主要武器は弓になるからネル殿も練習しているようだ。
その点は偉い。
不安定な騎乗状態と立って弓を放つのでは違うと思うが、しばらくは黙っていよう。

フィドの要望で他の隊員候補は小柄な種族、もしくは体重の軽い種族の中から弓が得意な者が選ばれて行った。
したがって大柄なガトー族やペロ族はおらず、小さな体の種族が多かった。
元々弓での攻撃は後方援護や、陰からの攻撃が多いので小さい体躯の種族に弓使いが多いのだ。
その者達はネル殿の半分程度しか無い。

(確かに軽そうだが、それで良いのか龍騎士隊は?) 
と思いながら人選等はネル殿に任せたので余計な口出しはしないでおこう。

ただ、問題は有った。
選ばれた隊員候補がプテオサウラを怖がるのだ。
確かに本人達よりは遥かに大きいし、獣人国ではまず居ないプテオサウラだ。
まだ万能翻訳魔導具を渡していないから会話も出来ないので鳴き声だけで足が震えているらしい。

ネル殿から相談されたので逆に聞いてみた。
「ネル殿はもう騎乗したのですか?」
「無論だ」
自慢げな顔で答えた。

世話係が”通訳”をしたのだろう。
それにフィドからは話せるようにしてくれと要望も出ているし、一度候補者を集めて説明しようと考えた。

ネル殿も含めて10人だ。補欠はまだ居ないので会議室に集めて話をした。

「諸君。まずは聞いてくれ。しばらくプテオサウラと接してどうだったか? 怖かったか? うんうん、そうだろうな。普通誰でも怖いと思うぞ。あんなのが空からやって来て、ブレス攻撃をされたらたまんないよなぁ。だが、諸君。諸君はあの凶暴なプテオサウラを操り、この獣王国の龍騎士隊として最強の座を手に入れたくは無いのか?」

多分自分ではイヤラシイ顔で笑いながら話していると思った。
一応全員からの返事は有ったのだが、おどおどしていた。

「諸君の不安は理解している。そこで我らが獣王国の”宝”を全員に下賜与えようと思う」
ネル殿が眉間にシワを寄せて話を聞いていた。

「これは”我らが国”の秘宝中の秘宝だから、絶対に他言無用だぞ。親、兄弟、親族一同、友人知人全てだ。秘密を漏らしたり、無くした場合はその命をプテオサウラににえにすると思え」

何の事か解らないが、それだけ大切に扱えと理解したネル殿だった。
何故ならばプテオサウラと意思の疎通が出来ない不安感を解決する秘宝など自国には無いとネル殿は知っているからだ

エルヴィーノは1人ずつ万能翻訳魔導具を耳に付けてやり説明した。
「今、全員の耳に付けたのは万能翻訳魔導具で」
「何ぃぃ!」
「お静かに」

ネル殿が叫び立つので注意した。
だが他の隊員候補は先代獣王が驚くくらいなので、本当に秘宝中の秘宝だと再認識したようだ。

「これは言葉の通じない魔物達と会話が出来る魔導具だ」
微量の魔素を使う事も説明し全員でプテオサウラに会いに行く。
(全部俺の作り話しだけど、隊員達には効果的だったようだ)

それぞれに補助魔法を使う程度の魔素を使用し、何か話しかける様にうながした。
フィドの前に立つネル殿が話しかける。

「フィド。早くお前と語らいながら大空を駆け巡りたいものだ」
グルルガルルルルルルグルッお前がもう少し軽かったら楽だがな

耳からは唸り声が聞こえ、頭に響く声がした。

「解かる! 解るぞ! フィドの声が聞こえるぞ、ガッハハハハハッ! これでもう我らの間に言葉の壁は無くなったぞ」

周りの獣人達も騒いでいる。
そこからは一気に打ち解けて準備が進んでゆく。

エルヴィーノの予想に反してネル殿からは”ありがとう”と再度感謝の言葉を頂いた。 
(便利な魔導具があるのなら、もっと早く寄越せば良い物を)が想定していた返事だったのだ。
回りくどい時間と説明だったが、隊員候補をずっと見ていたから理解したのだろう。
言葉の壁が疑念を増大させ恐怖を産むが、理解出来れば打ち解けられる事を全員が身を持って体験した事をだ。

それからは一気に進み騎乗しての練習が始まる。
万が一の落龍を考慮し小振りの魔宝石にブエロ・マヒア飛行魔法を刻み隊員の証しとした。
これはもしも落ちた時にその魔宝石を握りしめてブエロ・マヒアと唱えれば、ゆっくりと地上に落ちるようにしたのだ。
とりあえず練習中は落龍の対応だが、実際の戦闘となれば”良い的”になってしまうだろう。
仕方が無いので防具職人と相談させよう。

ネル殿を筆頭に全員が騎乗しての訓練では、まず飛ぶことに対して慣れてもらう事だ。
そして全員が”隊員の証し”を使って見る事だ。
ちょっと高い所から始めて順に高さを上げていく。
最後は騎乗してから自ら落ちる事で隊員に認定しようと考えた。
もちろん、率先してネル殿が試し、残りが続いて実行する。

最終試験は【上空から自らが落ちて、途中でプテオサウラに拾ってもらい、更に落ちて魔宝石でユックリと落下する】と言う高度なモノとなる。

面子に掛けても一番に出来たいネル殿だ。
休む間も無く練習に付き合わされるフィドだった。
まずは、触れ合いと理解が経験出来たし、飛行訓練もかなり行なえているようなのでネル殿に進言した。

「カスティリオ・エスピナでは騎乗しての訓練はこれ以上出来ないので、実戦訓練をする場所に移った方が良いですよ」

すでに候補地があるのでネル殿はフィドに騎乗し、エルヴィーノは黒い毛布に乗って”バレンティア山”に向った。
その山は地下迷宮と監視室に帝國城を作る時に掘り起こした土を投棄したモノだ。
山と言うか丘なのか微妙だが小高い山だ。

遷都する前にアルセ・ティロとヴィオレタ・ルルディに言って魔法を使い、山には木で覆われているし山の周りは草が生い茂っている。
山の北側で一部の木をブレスで焼き払いプテオサウラの生息、訓練場とする。
初めて見るフィドの凄まじいブレスでネル殿は自分の事のように騒いでいた。

「見たか黒竜王よ! フィドのブレス攻撃を! 我ら龍騎士隊はこの大陸最強の覇者になったのだ! ガハハハハハハッ!」

楽しそうなネル殿を相手にしながらフィドから山で生息する為の要望を聞くので一度城に戻るように指示した。
ネル殿を降ろしプテオサウラ全体で見学しに行ったので、気になった事をネル殿と話した。

「フィドのブレス攻撃の射程距離と範囲は他のプテオサウラ達とは違うので一度全体で調べた方が良いですよ。後、彼らの苦手な攻撃なども聞いた方が良いと思います」
「ウム。弱点を補う防具は作らせているが、ブレス攻撃の範囲は調べる必要が有るな」
流石はネル殿だ。
戦いに関して抜かりは無いらしい。

”バレンティア山”を見て来たプテオサウラ達と龍騎士隊に世話係の全体で会議をする事になった。
このメンバーは異種族、異部族だがお互い会話が出来、信頼し合える仲間として秘密の組織となり、獣人達の中で優秀で指導的な役割を持つ集団、のちに”黒龍騎士団”と呼ばれるようになる。

バレンティア山にはプテオサウラ達と龍騎士隊の訓練場としてブレス攻撃の距離、範囲、威力を個々に行ない数値化し戦力の基準値を作り、ブレスの攻撃力を設定した。
プテオサウラ達の年齢もあり、フィドが一番広範囲で飛距離があり攻撃力が高い。
他のプテオサウラ達は人族で例えるならば成人に成ったばかりだ。
彼らの能力も数値化し個々の成長を記録する事となった。

更に飛行能力だ。
一度にどの位飛べるか、事前に分かれば中継地点として既存の町を利用するか、村や町を新しく作る事も提案された。
直線距離でも獣王国の端から端まではもの凄い距離が有り、歩けば二年は掛ると言われているのだ。
獣人達が自ら行動して国中を見て回るのは過去例が無かったのだ。
その事と”隊長”としての意気込みか、それとも”モン”ドラゴンの名前の由来か定かではないが兎に角ネル殿はヤル気満々なのだ。

カスティリオ・エスピナから三方向、東、南、北に向って龍騎士隊の巡回コースが決められる。
龍騎士隊は二組に別れネル殿を筆頭に巡回組と、御留守番兼、周辺警護組だ。
また西は海なので城に残る組が巡回する事になる。

そんなある日、パウリナ専属の教育係でロディジャがネル殿の帰りを待ち構えていた。
「モンドラゴン様、重大なお話が有りますので至急三階の応接室にお越しください」








あとがき
ネル殿を襲う大きな衝撃とは!
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