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「ぽよんぽよんー」
大人気VRMMOゲーム、フェアリーテイルオンライン、通称FTO。
はじまりの街の一部、空中庭園エリアで空色スライムを愛でる僕は川原颯。リアルでも同じ色合いのダークブラウンの髪からFTOではチョコと名乗っている。瞳はリアルと違ってゲーム内は濃いピンクだけど。
ジョブは忍。所属ギルドはDOLL。
ログインはほぼ毎日だけど、まったり派。
第二性はオメガで、高一だけど発情期はすでに来ている。
けど、VRの世界ではフェロモンは再現されないから自由に楽しめる。
色が変わる今は夜空色のスライムをむにむにして、冷たいボディに頬擦りした。
「はあ~スライムセラピー……」
空色スライムは、空中庭園エリアで放し飼いにされている無害な愛玩スライムだ。
雑草を食べるので美観に一役買っているらしい。
「隣、いい?」
「え?」
思いがけない声に、ベンチに座ったまま目の前に立った人を見上げると、黒髪で緩いパーマのミディアムヘアの若い男の人だった。百八十以上ありそうな長身だ。
帯剣しているけど、装備は最低限で、素早さ重視なのかもしれない。
目は金眼で、ちょっと鋭い。
ワイルドな印象のイケメンだ。
「ダメ?」
「え、いや、あの、ど、どうぞ」
スライムを膝に乗せて、手で隣を示した。
「ありがとう。ここにはよく来るの?」
「え、たまに来てます……」
「俺もたまにかな。名前、教えてくれる?」
「あ、チョコと申します」
「俺はN。よろしくね」
「は、はい……」
突然の美形に照れながら、小さく返事をする。
空色スライムがもにもに揺れている。癒される。
「日本人?」
「はい。Nさんは?」
「俺もだよ。この時間帯はアジア圏の人多いよね」
時刻は日本時間で夜の十時。あと一時間くらいでログアウトする予定。
「いい時間ですよね。夜のひととき」
「明日が休みならもっと良いのに」
「あはは。頑張りましょー」
膝上の空色スライムをモミモミする。至福。
「俺も触りたいな」
「スライム、癒されますよね」
どうぞ、とスライムを渡す。
Nさんはいい顔で受け取った。
「ありがとう」
「いいえー。僕はもう充分戯れたので」
「でもハマると抜け出せないよな。この感触」
「わかります」
ここのスライムは沢山の人に好きなように可愛がられて(?)いるからか、攻撃とかしない限りは嫌がらないし、反撃もして来ない。流石に喋ったりとかもしないけど、でもそれも運営次第かもしれない。親密度によって喋ることが変わったりしたらいいな。
でもやっぱり僕は喋らなくてもいいかも派だな。
現状FTOで喋る敵は魔族だけだ。
僕はまだ弱いからエンカウントしたことはない。
「個人でテイム出来たらなあって思うんだけど」
「あ、それいいですね! 魔物使いにもなれたりして」
「ご意見箱に投書しようかな」
「考えちゃいますね」
うんうん頷いて隣を見てみると、Nさんが優しい笑顔で僕を見ていた。
座っていても目線の位置が僕より高いNさん。イケメンはズルい。
「チョコはFTOを始めてから日が浅い?」
「はい。三ヶ月くらいかな」
「じゃあ、俺のことも知らないか」
「Nさんのことですか? それはどういう……」
「プレイヤーランク十位以内常連なんだ。俺」
「え! えぇ……!」
そんなに極めてるんだ。凄いなあ……!
「でも俺もまだまだだな」
「まだまだなんて、そんな。僕は何年続けても十位どころか千位にだって入れそうにもないのに」
「FTOはランク気にしてない人もそれなりにいるから」
「ランクが下の方でも楽しめますからね、FTOは」
「そうだよなあ」
FTOの魅力は一言では言い表せない。僕はまったり派だけど、やりこみたくなる気持ちもすごくわかる。
「経験値がたまりやすいフィールドってありますか?」
「んー。ビギナーなら西の谷かな」
「なるほど。硬い敵が多いですもんね」
「硬いから経験値がたまるとは限らないけどな」
ははっと笑うNさんに、「なんで笑うんですかっ」と抗議しつつも、僕も笑ってしまう。
この出会いは貴重だと思わずにはいられなかった。
◇
大人気VRMMOゲーム、フェアリーテイルオンライン、通称FTO。
はじまりの街の一部、空中庭園エリアで空色スライムを愛でる僕は川原颯。リアルでも同じ色合いのダークブラウンの髪からFTOではチョコと名乗っている。瞳はリアルと違ってゲーム内は濃いピンクだけど。
ジョブは忍。所属ギルドはDOLL。
ログインはほぼ毎日だけど、まったり派。
第二性はオメガで、高一だけど発情期はすでに来ている。
けど、VRの世界ではフェロモンは再現されないから自由に楽しめる。
色が変わる今は夜空色のスライムをむにむにして、冷たいボディに頬擦りした。
「はあ~スライムセラピー……」
空色スライムは、空中庭園エリアで放し飼いにされている無害な愛玩スライムだ。
雑草を食べるので美観に一役買っているらしい。
「隣、いい?」
「え?」
思いがけない声に、ベンチに座ったまま目の前に立った人を見上げると、黒髪で緩いパーマのミディアムヘアの若い男の人だった。百八十以上ありそうな長身だ。
帯剣しているけど、装備は最低限で、素早さ重視なのかもしれない。
目は金眼で、ちょっと鋭い。
ワイルドな印象のイケメンだ。
「ダメ?」
「え、いや、あの、ど、どうぞ」
スライムを膝に乗せて、手で隣を示した。
「ありがとう。ここにはよく来るの?」
「え、たまに来てます……」
「俺もたまにかな。名前、教えてくれる?」
「あ、チョコと申します」
「俺はN。よろしくね」
「は、はい……」
突然の美形に照れながら、小さく返事をする。
空色スライムがもにもに揺れている。癒される。
「日本人?」
「はい。Nさんは?」
「俺もだよ。この時間帯はアジア圏の人多いよね」
時刻は日本時間で夜の十時。あと一時間くらいでログアウトする予定。
「いい時間ですよね。夜のひととき」
「明日が休みならもっと良いのに」
「あはは。頑張りましょー」
膝上の空色スライムをモミモミする。至福。
「俺も触りたいな」
「スライム、癒されますよね」
どうぞ、とスライムを渡す。
Nさんはいい顔で受け取った。
「ありがとう」
「いいえー。僕はもう充分戯れたので」
「でもハマると抜け出せないよな。この感触」
「わかります」
ここのスライムは沢山の人に好きなように可愛がられて(?)いるからか、攻撃とかしない限りは嫌がらないし、反撃もして来ない。流石に喋ったりとかもしないけど、でもそれも運営次第かもしれない。親密度によって喋ることが変わったりしたらいいな。
でもやっぱり僕は喋らなくてもいいかも派だな。
現状FTOで喋る敵は魔族だけだ。
僕はまだ弱いからエンカウントしたことはない。
「個人でテイム出来たらなあって思うんだけど」
「あ、それいいですね! 魔物使いにもなれたりして」
「ご意見箱に投書しようかな」
「考えちゃいますね」
うんうん頷いて隣を見てみると、Nさんが優しい笑顔で僕を見ていた。
座っていても目線の位置が僕より高いNさん。イケメンはズルい。
「チョコはFTOを始めてから日が浅い?」
「はい。三ヶ月くらいかな」
「じゃあ、俺のことも知らないか」
「Nさんのことですか? それはどういう……」
「プレイヤーランク十位以内常連なんだ。俺」
「え! えぇ……!」
そんなに極めてるんだ。凄いなあ……!
「でも俺もまだまだだな」
「まだまだなんて、そんな。僕は何年続けても十位どころか千位にだって入れそうにもないのに」
「FTOはランク気にしてない人もそれなりにいるから」
「ランクが下の方でも楽しめますからね、FTOは」
「そうだよなあ」
FTOの魅力は一言では言い表せない。僕はまったり派だけど、やりこみたくなる気持ちもすごくわかる。
「経験値がたまりやすいフィールドってありますか?」
「んー。ビギナーなら西の谷かな」
「なるほど。硬い敵が多いですもんね」
「硬いから経験値がたまるとは限らないけどな」
ははっと笑うNさんに、「なんで笑うんですかっ」と抗議しつつも、僕も笑ってしまう。
この出会いは貴重だと思わずにはいられなかった。
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