珊瑚の恋

hina

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帝都は今日も賑やかなようで、陽射しが強くなってきた初夏の空気がより一層暑く感じられた。

「でもここは涼しいですね」
広い庭は緑で満ちている。大きな木の下は葉の影が風で揺らされて、辺りの温度が少し低い気がした。

海星家は、この国日ノ本の中枢を担ってきた重鎮達を多く輩出している名家だ。
そんな海星家に囚われ囲われて数年、私は同じ十代後半の海星家の嫡男青(せい)様と恋仲になっていた。

青様は国の軍部に所属していて、帝の警護を担当しているらしい。
濃い青の髪と水色の瞳。すらっとした長身の鍛えられた身体に、麗しい面、帝都に住む女の子達の憧れで、少し妬ける。


「木漏れ日が気持ちいいね」
青様が笑うので、私もつられて笑顔になる。
「はい」
「桜、夕方になったら、少し街に行かないかい?」
「え、良いんですか? 出掛けても」
「私も一緒だから大丈夫だろう。後でまじないを解いてもらおう」

この世界は人によく似た人ならざる者達が住む世界。私にはこの家の外に出たら体が痺れてしまうまじないがかけられている。
まじないはかけることも解くことも出来るけれど、手間はかかる。
まじないを専門にする術者がいて、その人を家に呼んだりするのだ。

「……もう逃げようとなんてしないから、まじないはいらないのにな」
「私もそう言っているのだけどね」

私にまじないをかけさせているのはこの家のご当主様だ。青様でも逆らえない。
出掛けて帰ってきたらまたまじないを施されるのだろう。

この家に囚われた当初は確かに逃げ出そうとしたこともあった。
でも、青様と恋仲になってからは、逆にこの家から追い出されないようにするのに必死だ。
そうなりそうになったことはないけど、なぜ私をこの家におくのか疑問には思う。
家の中のことを手伝っているけれど、扱いは使用人とも少し違っている。
お給金はもらえないけれど、生活に不自由はない。青様との交際も反対はされていない……と思う。
なぜまじないをかけてまで、この家に縛り付けようとするのかは謎だけれど、青様をはじめ、ご家族の方達はみんなよくしてくれるので、この家にいるのは嫌ではなかった。
攫われてきたし、地図に載っていない隠れ里だった珊瑚の民が暮らす実家のある里に帰ることは出来ないけど、毎日泣いて暮らしていた日々はもう過ぎ去っていた。
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