珊瑚の恋

hina

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「もう少し父上を説得してみるから待っててくれ」
「ありがとう。でも無理だと思ったら引いて下さいね?」
「ああ。父は怖いからな」
「青様の真顔も同じくらい怖いわ」
「なんだって? そんなこと言う奴はこうだ」
「やだ! やめて下さい!」

青様が抱きついてきて、ぎゅっと締め付けてくるので、笑いながら青様の腕を叩く。
同時に頬に顔を寄せて口付けてくるから油断ならない。

「もう!」
「怒る桜も可愛い」
「でれでれする青様はかっこ悪いです」
「それは大問題だ」
まったく堪えてないようなあっさりした返答に、太刀打ちが出来ない。
「思ってませんね」
「わかる?」
「わかるも何も……」

脱力して項垂れる。すると、悪いと思ったのか腕の力が弱まる。


「早く自由に外に出られるようになりたいです」
「そうだね。でも危ないから独りで出歩いたらダメだよ」
「結局青様は過保護ですね」
「桜が魅力的だからだよ」
「それはどうも」
「信じてないな」
「わかります?」
「私は心配だよ……」


私の白い髪を青様の大きな手がゆっくり撫でてくる。
うっとりして身を任せると、ふっと微笑んだ青様の吐息がかかった。

私の桜という名は、瞳が淡く少しくすんだ桜色をしていることから来ている。
外見から名前が決められたのは、青様と一緒で、二人で笑い合ったこともある。
特別な共通点が嬉しかった。

「早く夕方にならないかな! 楽しみです」
「行きたいところ考えておいて。私はまじないの術者を頼んでくるから、また後でね」
「はい!」











「ん、美味しいです」
コシのある冷たい蕎麦を啜りながら、にぱっと笑った。
「蕎麦で良かったの? 牛鍋とか懐石とかでも食べさせてあげられたよ?」
「高級な料理は普段から食べてるじゃないですか」
「まあ、それもそうだけど。家で食べるのと店で食べるのはまた違うから」
「だからこそですよ。この気安い雰囲気を味わいたかったんです」
「そうかい? 楽しんでるならいいけど」
「楽しいし嬉しいです」



店内は満席でとても騒がしい。活気に満ちた感じが気分を上げてくれる。
手頃な値段設定のお店だから、客層も庶民的だ。

「口に合いませんでした?」
「いや、美味しいよ。もちろん」
「青様はこういうお店あんまり来なかったりします?」
「そんなことないよ。仲間や同僚と来たりするし」
「また連れてきて下さいね! 他のも食べてみたいし」
「喜んで」


蕎麦に天ぷらも食べ、蕎麦湯を飲んでお腹がいっぱいになった私達は、次の目的地に向かうことにした。
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